閑話 元無神論者の神様信仰、時々愚痴?


〜 ダンジョン都市【幸福の揺籃ウィール・クレイドル】 〜


修道女シスターマリーアンナ視点》



 ダンジョン都市【ウィール・クレイドル】。

 それが、この都市の名前。


 幸福を抱き、夢を見ることが許される場所。


 私達はこの都市へと、つい昨日移住して来ました。


 総勢1000人超という大規模な移民団を結成し、ユーフェミア王国の王都から、北端にある【惑わしの森】という、凶悪な魔物が蔓延る森の中心に存在する迷宮、【惑わしの揺籃】に創られたこの都市を目指したのです。


 今回の移民計画は異例な事だらけだと、詳しい人から聞きました。


 移民の対象は、王国が受け入れ切れない難民、流民、貧民を優先したこと。


 移民の当面の援助資金として、貴族様達がその身銭を切ったこと。


 その護衛に、冒険者どころか【軍神】とまで謳われる辺境伯、マクレーン・ブリンクス様が、自軍を率いて随行したこと。


 大規模なりに歩みの遅い行軍でも、唯の一人も脱落することが無かったこと。


 そもそも、移民先に迷宮が選定され、その迷宮の主が率先して受け入れを表明したこと。


 信じ難いことの連続で、まるで本当に夢を見ているかのようです。


 更に、迷宮の主は、王国の御伽噺にも聞く、恐ろしい魔族の男だと言うのです。


 この迷宮へと立ち入る際、王国最北の砦で、私達移民団を前に演説をしたあのお方を思い浮かべます。


 マナカ・リクゴウ様。


 迷宮の主にして、この都市の創造主。


 私達が住むユーフェミア王国の国王陛下と友誼を交わし、交友の盟約を締結せしめた、常軌を逸したお方。


 私達の目の前で、配下の方々を引き連れ鬼神のような戦いぶりを見せ、魔物の脅威から私達移民団を護って下さったお方。


 貧民や難民で構成された私達に、分け隔てなく食料やお酒を振る舞い、長い道程で疲弊した身も心も癒して下さったお方。


 私達が安心して第二の人生を送れるよう、王国の代官様である【姫将軍】フリオール王女殿下と共に、手を尽くして街の施政の仕組みを作り上げて下さったお方。


 そして何より、王都に住まい元王太子殿下の遊興の慰み者となった、私を含め多くの女性達の仇を取って下さったお方。


 数え上げればキリが無い程の様々なものを、私達に与えて下さいました。


 そんな私達が踏み入れたこの街は、筆舌に尽くし難いものでした。


 統一された美しい景観の、建ち並ぶ可愛らしい建物。


 凹凸無く舗装された、綺麗な石畳の道路。


 道路の両脇に等間隔に植えられた、ピンク色の可憐な花を咲かせる見た事のない街路樹。


 清らかな水を大量に吹き上げる、巨大な噴水。


 街の東西南北に設けられた、それぞれ異なるも、緑や花の溢れる美しい公園。


 そのどれもが目に新しく、美しく、輝いて見えました。


 そして、教会の総本山へ来たのかと錯覚さえ覚える、荘厳でいて煌びやかな、立派な大聖堂。


 移民達と一緒に移住して来た神学者、教会関係者のその誰もが、息を飲み跪くほどの威容。


 私達移民如きが、このような素晴らしい場所で祈りを捧げても、良いものなのでしょうか。

 しかも、この大聖堂は都市の中心近くに建てられており、四方のどの街区からも通うことが容易となっているのです。


 そしてその広大な敷地内には、設備の整った立派な孤児院が併設されていました。


 内部には子供達の部屋が多数に、食堂、礼拝室、活動室に、浴場まで造られていて、更には教室のような部屋まで。


 意図するところは分かりませんが、これだけの設備が整っていれば、親の無い子供達も立派に成長できるであろうことは、疑う余地もありません。


 私達修道士や修道女が住まうための建物も在るみたいです。


「やはり、あの日見た夢は御神託だったのじゃな……」


 聖堂の庭に跪いて祈りを捧げていた私の隣に、歩み寄って来た1人の人物。


 曲がった腰のお身体を錫杖で支え、感無量とでも言うべき満ち足りたお顔をなさっていらっしゃるご老人。


「ギリアム司教様……」


 【ギリアム・カドケウス司教】様。


 元は教会本部で大司教まで務めて居られたお方で、お年を召して後任に席を譲られ、それでも司教の位を新たに賜った、徳の高いお方です。


 私達の居た王都教会へと訪問されていた折に、不思議な夢を見たと仰られました。


「黒きかいなに抱かれた、子らの笑顔……」


 思わず司教様が語られた、夢の光景を口にしてしまう。


 ハッとして口を塞ぐ。私は、司教様に対して何という不躾なことを!


「良いのじゃよ。マリーアンナ、と言ったかのう?」


 御歳72にもなる、この世の人間では紛れも無く長寿に当たるご老人から、優しい声音で名を呼ばれる。


「は、はい!」


 身体を司教様へと向け、頭を垂れて跪く。


「そんなに畏まらなくとも良いのじゃよ。儂などただの老害じゃ。過酷なる移民に、夢のお告げなどと世迷言を吐いて無理に同行した、迷惑な爺じゃよ。」


「と、とんでも御座いません! 私達にしてみれば、司教様が共にと仰って下さって、どんなに心強かったことか……!」


 周囲の信者達、兄弟姉妹達も跪いて翻意を願う。


 私達の教会は、そこまで大きな勢力は持っていない。


 この大陸に於いて最も力を持つのは、【神皇国ドロメオ】を有する【メイデナ教】であり、その信仰対象は、唯一絶対神と崇められる【メイデナ神】。

 他種族や他国で奉じるその他の神など存在しないと豪語し、人間以外を下等と位置付ける、苛烈な宗教です。


 対して私達は、様々な神を崇め祀る多神教で、中でも豊穣の神である【ユタ神】を特に奉じています。


 教会の名は【ユタ教】。

 ユーフェミア王国の隣国、元は王国大公領が独立し建国した【スミエニス公国】の山間部に本山を置き、人間のみならず他種族にも門戸を開く、古くはあっても中小規模の宗教、という位置付けなのです。


「これもユタ神様の思し召しじゃのう。この老骨にも、未だ使命が残っておるとみえる。」


 ホッホッと、人好きのしそうな笑い声を上げるギリアム司教様。


 しかし、これからどうしたものでしょう。

 このような立派過ぎる大聖堂を与えられて、私達に維持管理ができるのでしょうか。


 教会関係者や信者達が揃って聖堂の庭にたむろし、今後についてしきりに意見を交わし合っていました。


 そんな時です。

 聖堂の門前に、1台の馬車が停まりました。


 柵で馬車の紋章などが上手く見て取れませんでしたが、随行の騎士様が何名か、門の前に集まって人を呼んでいます。


 司教様を窺うと、目を合わせて頷きを返されました。


 私に行けということでしょう。

 意を決して、門に向かいます。


「如何されましたか?」


 できるだけ緊張を表に出さないよう、努めて平静に訊ねる。


「フリオール王女殿下と迷宮の主マナカ様が、教会関係者の方々とお話をしたいと見えております。責任者の方にお取り次ぎをお願いしたい。」


 …………? 今、何と言ったんです?

 王女殿下? 迷宮の主? 会いに来た?


「シスター、どうなされた?」


 いけない! 呆気に取られて固まってしまっていましたっ!


「か、確認をして参ります! 少々お待ち下さいませ!」


 慌てて踵を返して、皆さんの所へ戻ります。

 そして突然の都市の頂点2人の来訪を、混乱した頭で伝える。


「ふむ。丁度良いのう。儂らも此処の扱いに困っておったことじゃし、お知恵に縋らせてもらおうかのう。」


 慌てふためく私達を余所に、飄々と錫杖を突いて門へと向かわれるギリアム司教様。


 今居る中では最も位が高くおいでなのは司教様なので、当然といった様子で歩き始めました。

 しかし、はたと立ち止まると、私に振り返ります。


「何をしておるのじゃ、シスターマリーアンナ。お主も来るのじゃ。」


 わ、私ですか!? ただの修道女シスターでしかない私などが、烏滸おこがましくもお二人と司教様に同行するなど……!?


「迷宮の主殿に礼を言いたかったのじゃろう? 儂が取り次いであげるから、ついて来なさい。」


 ……そういうことですか。

 かつて元王太子の慰み物となり、修道女でありながら汚されてしまった私の告解を、憶えていて下さったのですね。


「分かりました。お供させていただきます。」


 そうして私も、司教様の傍らに控えるようにして、再び門へと向かいました。


「お待たせして申し訳ない。ユタ教会司教をしておりまする、ギリアム・カドケウスと申しますじゃ。」


 司教様が名乗られ、それを受けて騎士様が馬車の中の人物へと伝える。

 すると、そのまま馬車の扉が開かれて、中から2名の人物が降りて来ました。


「ご老体に足労を願って申し訳ない。ユーフェミア王国第1王女にして、ダンジョン都市ウィール・クレイドル統括代官の、フリオール・エスピリス・ユーフェミアである。」


「姫さん長いよ。どうも、この迷宮の主をやってる、マナカ・リクゴウです。よろしくお願いしますね。」


 御二方が、こんなにも近くに……!


 金色の長く美しい髪を靡かせ、演劇の男装の麗人のような、軍人様のような白を基調とした瀟洒しょうしゃな儀礼服に身を包まれた王女殿下。


 見た事のない様式の、これも礼服の一種なのでしょうか。

 漆黒の上着の下に真っ白なシャツを着込み、同じく黒いズボンに身を包んだ、迷宮の主であるマナカ様。


 まるで相反する、光と闇の化身のようでした。


 その対極で以てして、この世の闇を討ち払うかのような、この世の闇を統べるかのような、そんな幻視を視た気がしました。


「ご丁寧に、痛み入りまする。しかしながら、然るべき場にお迎えしたきことは山々なれど、我ら未だ、この大聖堂の扱いに苦慮しておりましてな……」


 司教様が、まだ何ら方針を得られておらずに屯していただけということを、遠回しにお伝えします。


「ああ、そういうことなら丁度良いよ。これから教会のみんなに色々と説明をするつもりだったから、先ずは創った俺が案内しよう。姫さんも、それで良いよな?」


 あまりにも気軽に、王女殿下に提案をなさるマナカ様。


「信仰は民の拠り所のひとつ故、お前がまた無茶をしないように立ち会うだけだからな。必要なことでもあるし、流れは任せよう。」


 その言葉に何ら不快感も示さずに、至極当たり前のように対応なさる王女殿下。


 そのやり取りだけで、御二方の間に強い信頼関係が結ばれていると、感じることができました。


「人聞きの悪いこと言うなよなぁ。まあいいや。とりあえず教会のみんなと合流して、全員で歩きながら観て回ろう。司教様も、御一緒にどうぞ。」


 ゆっくり行きますから、と。そう仰りながら、先導するように歩き始めるマナカ様。

 司教様が王女殿下と並んで後に続き、私は、他の同僚達や信者達を呼び集めに行きました。


「みんなまだ聖堂の中には入ってないみたいだから、先ずはそこから案内するよ。この正面の門は、日中は解放しておいてもらいたいな。信者であっても、そうでなくても、気軽に入ってもらえるようにね。」


 開閉に大の大人が何人必要になるのでしょう? それほどに立派で、巨大な門扉です。


 そして、その巨大な門扉に手を掛けるマナカ様。

 ゆっくりと力を込めているように見えますが……まさか……?


 門扉が、動く。

 物語の巨人ですら余裕を持って潜れそうな、それほどに重厚で巨大な扉が、ゆっくりと開かれていく。


「うひぃ重てぇ。立派に創り過ぎたかなぁ? これ、門番の騎士だけで開け閉めできるかな? どう?」


 手招きをされた護衛の騎士様達が、4人掛りで片方の扉に手を当て、押してみますが、ビクともしません。

 引くのも無理そうで、必死にマナカ様に手を横に振っています。


「ありゃりゃ、早速改善点だなぁ。内部から絡操り仕掛けで開閉出来るように、後で改良するね。まあとりあえず置いといて、中へどうぞ〜。」


 呆然と開かれた扉を眺める私達に、マナカ様が手招きします。

 私達は、慌てて後について聖堂の中に入りました。


 ……なんと言ったら良いのでしょうか。


 神々しく、荘厳で、清らかな空間。


「此処がこの聖堂の目玉の、中央大礼拝堂だよ。ミサなんかの時には、一度に千人位は入れるように作ってある。声も良く響くでしょ? これなら、拡声の魔法も使う必要ないでしょ。」


 その広大な空間には色とりどりの光が溢れ、堂の最奥、扉から降りて行った先には御神体の像が一柱、鎮座されています。


 それを背にするように立派な演台が置かれ、長机と長椅子が取り囲むように、講堂のように幾重にも円を描き並んでいます。


 扉に近くなるほど高くなり、どの席からでも、演台で説法を説く人の姿も、御神体の御姿も拝見できるよう配慮が為されていました。


「マナカ、あの一柱だけの御神体は、どういう神様なのだ?」


 王女殿下が、私も気になっていたことを訊いて下さいました。


「ああ。あの神様は【転生神ククルシュカー】っていって、俺をこの世界に導いてくれた神様だよ。折角教会を創るから、せめて感謝を込めてってね。」


 あの、幼い女の子のような御姿のお方が、転生神様。


「みんなも、日頃自分が崇める神様の後で、ついででいいからさ、お祈りしてもらえないかな? もちろん俺も祈るしさ。他の神様と違って転生を司るだけだから、アイツ信者って居ないと思うし。」


 アイツ?! 神様をアイツ呼ばわりですか!?


「あー、マナカ。教会関係者の前で、神様をアイツ呼ばわりはどうかと思うぞ? 司教様も顔が引き攣ってしまっているではないか。」


「い、いえいえ、王女殿下。決してそのようなことは……! と、ところでマナカ殿、神をそのように親しげにお呼びになるとは……それにこの世界に導いて下さった、と仰いましたな? もしや、その御姿を直接拝見されたのでは……?」


 そ、そうですよね!? 私もそこが気になっていました!


「あー、会ったと言うか……ククルとは、一緒に酒飲んだ仲だけど? あと言い合いもしたなぁ。なんだか懐かしいな。」


 まさかの愛称呼びですか!? しかもお酒を飲んだ挙句言い合い!? 神様とですか!!??


「まあ、あの幼女には勝手に転生先の種族を決められた借りが有るから、いつか意趣返ししてやろうとは常々思ってはいるけどさ。でもまあ、そのおかげで大変な目に遭っても生き延びられた気もするし、良い仲間とも巡り会えたって感謝もしてるんだ。」


 幼女呼びっ!? 意趣返しッ!!??

 司教様、この人怖いですぅー!! 神様、どうか見逃して下さい!! こんな方でも恩人なんですーっ!!


「そ、それは……なんとも……! で、では、あの御神体の御姿は、その転生神様の御姿そのものであると……?」


「ああ! 良い出来だろ? 我ながらあの幼女かみさまにそっくりに創れたから、大満足だよ! ああ、そうだそうだ!」


 パンッと、手を叩いて私達に身体を向け、少年のような笑顔で。


「みんなの中に、崇めている神様の姿形が分かる物を持ってる人って、居るかな? この世界の神様には詳しくなくてさ。みんなの信仰するユタ教会って、多神教なんでしょ? 持ってたら是非見せてくれないかな?」


 私達は、戸惑い互いの顔を窺い合うばかりでした。

 しかし。


「皆、出してお渡しなさい。恐らくじゃが、これから奇跡が起こるぞい。」


 司教様に促され、各々が宝物のように持っていた、各々が崇める神様の姿絵、神像などを、彼に渡していきました。


「ふむふむ、なるほどなるほど。それじゃ、ちょっとだけ貸しててね。すぐに返すから!」


 そう仰り、フワリと宙に浮かんで、御神体の所まで飛んで行きました。


 そして、何やら行っているようなのですが――――!!??


 転生神様の御神体を抱くように、像が生えてきて……あれは、豊穣神ユタ様!? その後ろにも、あれは運命神様に……火神様、水神様、地神様、風神様まで!!??


 ユタ教の教義で崇め奉られている神様達の像……いえ、御神体が、祭壇の上に建ち並んでいくのです!!


 何方どなた様も皆、慈しみに満ちた優しいお顔で、温かな微笑を私達に向けて下さって居られるようです。


 司教様を始めとし、私達は皆、思わずその場に跪いて、祈りを口にしていました。


「よしよし。ただいまーってのわっ!? なになに!? みんな跪いてどうしたのッ!?」


 私達の中には、涙を流している者まで居ました。


 そんな私達の様子を見て慌てているマナカ様のお姿は、どこか可愛らしく思えてしまったのは、ここだけの秘密です。


 神様、内緒にしておいて下さいね。


 祈りを終えた私達を代表して司教様から告げられたのは、感謝のお言葉でした。


「斯様に素晴らしき奇跡の御業で、我等の祀る神々をこの場に顕して下さり、まっこと、感謝の念に絶えませぬ! お約束します! 我等一同、転生神ククルシュカー様への賛美を絶やすことは、決して致しませぬ!」


 マナカ様の手を取り、涙を流しながら感謝を口にする司教様。


 マナカ様は慌てながら、しかし優しく微笑んで、その手を握り返しておられました。


 それから大聖堂の中を巡り、職員の執務室や、告解室、緊急時の避難用設備など様々な説明を受け、他の敷地内の施設や、そこの設備の使い方なども御教授いただけました。


 私達もそれぞれが、それら設備の習熟に取り掛かり散って行く中。

 私は、司教様に呼び止められてある一室へと連れて行かれました。


 そこは、応接室でした。

 教会への来客をお通しするお部屋ですが、そこには、フリオール王女殿下とマナカ様が待っておいでだったのです。


「度々お待たせして申し訳ありませんのう。これが、先程お話した修道女シスター、マリーアンナですじゃ。」


 司教様が私をお二人に紹介して下さる。

 私は慌てて頭を下げるのですが、王女殿下から頭を上げるように言われてしまいました。


 まさか、こんな形で……?


「貴女がそうであったか。この度は我が愚兄が、貴女を慰み物にし、弄んだと聞き及んだ。本人ではないが、身内として心から謝罪したい。誠に申し訳無かった。」


 現実味が無い。


 あの【姫将軍】様が。

 フリオール王女殿下が、私にその尊く気高い頭を下げて居られる。


「既に起きてしまった以上、どうしようもないんだけどさ……辛かったよな。助けてほしかったよな。間に合わなくて、済まなかった。たらればは好きじゃないけど、もう少し俺が早く行動していれば、助けられたかもしれないんだ。本当に、済まなかった。」


 マナカ様まで。


 そんな……私は、ただお礼が言いたくて……

 あの男を、懲らしめてくれてありがとうって、そう言いたくて……!




 それからのことは、あまり良く憶えていません。

 ただ、自然と涙が溢れて、大声で泣いてしまったことは憶えています。


 ああ。私は、救われたかったんですね。


 どうして私がこんな目に、って。

 神様、救けて、って。


 長いこと私の中で鬱屈した、その想いが。


 洗い流された。そんな、気がします。


 そうそう。

 大聖堂の正門ですが、マナカ様が魔石動力? という物で開閉できるように、改良して下さいました。魔石に魔力を流してボタンを押すと、簡単に開閉できるんです。


 本当に、あのお方は凄いお方でした。


 今後、聖堂の門番も兼任される騎士様達は、物凄く安心して居られて、お互いに顔を見合って胸を撫で下ろしているお姿が、なんだか可笑しかったです。



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