第十五話 敗因は、きっと男女比だ。


〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 六合邸 〜



 なんだか久々な我が家の食卓だぞ!!


 考えてみれば、今までで一番長く留守にしてたもんな。

 ざっと2週間かぁ。


 まあ、やったことと言えば移民団の護衛で、襲ってくる魔物を討伐してただけだけど。でも魔法の試験運用には丁度良かったな。


 アネモネとマナエが、トレイに料理を載せて運んで来る。

 シュラは、ワインセラーから何本か見繕って来たみたいだな。

 アザミは、既にテーブルに置かれたサラダを、各人に取り分けてくれている。


 イチは……あ、邪魔だって追い出されたのね。身体大きいからね。そんな落ち込むなよ。


 ワインも開いて、グラスも行き届いたな。配膳組も席に着いたことだし、始めますか!


「さて。久々の我が家に、新しい仲間が増えました! 元近衛騎士のレティシアさんでーす! 拍手〜っ♪」


 俺達の拍手と共に、レティシアさんが立ち上がる。


「レティシア・リッテンバウワーです! 今日から此方にお世話になります! どうぞ、よろしくお願いいたします!」


 はい。元気一杯な挨拶でした。


 一日の仕事を終えた後、俺は、正式にレティシアさんを我が家へと迎え入れた。

 レティシアさんとアネモネたちが頑張って説得したおかげで、姫さんからも賛同を得て、晴れて我が家の一員となったのだ。


「よろしくな、レティシアさん。みんなも仲良くしてくれよ? さあ、それじゃ食べようか。新しい家族に、かんぱーい!」


 歓声と、グラスのぶつかる音が響く。

 賑やかな歓迎会の、幕が上がった。


「レティシアお姉ちゃんって、騎士さんだったの?」


「そうですよ。一応今でも騎士ではありますが、王城を護っていた時は、近衛騎士という立場でした。」


女子おなごで、しかもその若さで近衛とは、相当努力したのじゃな。どうじゃ、儂とも手合わせせんか?」


「おお! 願ってもないです! 是非、一手御指南をお願いします!」


「シュラ。食事時には戦いのことは忘れなさい。落ち着きが足りませんよ。」


「なんじゃ、アネモネめ。ケチ臭いことを言うでないわ!」


「アザミは、シュラの戦闘狂は、死んでも治らないと思います。」


「あたしもそう思う〜。」


「レティシア嬢は、剣に覚えありと聞きやす。あっしも是非手合わせお願いしやすぜ。」


「おお! 貴殿の素晴らしい剣技、私も是非拝見したいです!」


「なんか、脳筋が増えた気がする……」


「ん? マナカ、ノウキン……とは何だ?」


「脳筋ってのは、脳味噌まで筋肉でできてるかのような、直情バカのことだよ。」


「ほう。そのような言葉が有るのだな。」


「こら、主様よ! 誰が脳筋じゃと!?」


「『お主に決まっておるのじゃ』。」


「あはははっ♪ お兄ちゃん似てるーッ!!」


「お、そうか? 『儂はシュラじゃ。趣味は闘争、特技は鉄拳制裁、好きな言葉は素手喧嘩ステゴロじゃ!』」


「あはははははッッ♪♪」


「ぶふッ?! マナカ様!? わ、笑わせないでください!!」


「お、お主らああぁぁっ!!」


「こら、そのくらいにしないかマナカ。シュラ殿が気の毒だろうに。たとえ本当のことでも、時には言わない方が良いこともあるのだぞ?」


「いや、姫さんもわりかしキツいこと言ってるよね?」


「あ、シュラが落ち込んじゃった。」


「いやあ! この家は賑やかで楽しいですねっ!」


 なんだか懐かしい気分だな。帰って来たー! って感じるよ。

 レティシアさんも打ち解けてくれたみたいだし、姫さんもすっかり馴染んで――――


 ん?

 あれ?

 あれれれれ〜??


「おーいみんな、ちょっと点呼取るぞー。返事しろよー。」


 ふと感じた違和感。その正体を探るべく、確認する。


「アネモネー。」


「はい、マスター。」


「マナエー。」


「はーい♪」


「アザミー。」


「はい、マナカ様。」


「シュラー。」


「うむ?」


「イチー。」


「へい!」


「レティシアさーん。」


「はい!」


「姫さーん。」


「うむ、居るぞ。」


「いや姫さんなんで居るの?!?!?!」


 違和感これだよ! なんで当たり前のように姫さんが混ざってるの?!

 あまりに自然に馴染んでて気付くのが遅れたわ!!


「む、失礼な奴だな。我が居てはいけないのか?」


 いや、いけない訳じゃないけれども。

 いかん。嫌な予感がひしひしするぞ。


「まあね? 夕飯をご馳走するくらい別に全然構わないんだよ? ……もちろん、遅くならない内に帰るよね……?」


 そうだよね? ご飯食べるために寄っただけだよね?


「む? 帰るとは、異なことを言う。帰るも何も、此処が家なのだが?」


 そっかー。それじゃ帰るとは言わないねー。

 って、なんでだよ!?


「いやいやいやいや、姫さん!? それってアレかな!? この家で暮らすって意味に聴こえたんだけど、気のせいだよね?!」


 冗談だよね? そうだと言ってよ!?


「うむ。そう聴こえたのなら、マナカの耳は正常だな。」


 そりゃあデ〇ルイヤーですから! ってそうじゃなくて!?


「いや何言ってんの!? 一国のお姫様が男の家で同棲とか、ダメだろ!? 常識的に考えてさ!?」


 一体何を考えてるんだ、このお転婆姫は!? 王様に何言われるか分かったもんじゃないよ!?


「お前の口から常識などという言葉が出るとは思わなかったな。しかし、何故だ? レティシアは良くて、我は駄目なのか?」


 うぐっ!?

 コイツ、痛いところを……!


「い、いや……それは、ちょっとした罪滅ぼしの意味合いも有りましてね……?」


「ああ、その話なら聞いたな。なんでも、レティシアを辱めた責任を取るとか。勿論、内容も聞いたぞ?」


 なんだと!? あんな大事件を軽々しく語った奴が居るだと!?

 一体どいつだ!?


「お前の仲間達が、詳しく事の経緯を教えてくれたぞ。レティシアは赤面していたがな。」


 え、そうなの? どういうことなの、みんな?


「マスターがイチと共に、政務補佐官殿達への説明をしている時ですね。レティシア様が此処で暮らすことになった経緯をご報告、ご説明させていただきました。」


「そしたらフリオールお姉ちゃんも一緒に暮らすって言い出したから、みんなでオッケーって歓迎したの!」


「名目上はこの迷宮で最も安全な場所に、レティシアを護衛として共に暮らす……ということになっているぞ。既にシュバルツや部下達には通達済みだ。勿論、父上も説得したので問題無い。」


「荷物も先程全て運び込んだしのう。」


「庁舎の執務室から直接行き来出来るように、転移陣も設置済みです。」


 は? いや、ちょっと待って?


「あれ? 俺の意思は? 根回しも万全なの?」


「マスター、何も問題ございません。それに、此処が最も安全な場所というのも、紛れもない事実ですので。」


 アネモネさん? ちょ……俺が主だったよね?

 あれ? 主って何だっけ??


「まさか……嫌なのか…………?」


 ぐぬっ!? そ、そんな上目遣いで瞳を潤ませるな! ひ、卑怯だぞ!?


「マスター、また王女殿下を泣かせるのですか?」


「えー! お兄ちゃん、もう何度目なのぉ?」


 うぐっ!? お前達までそんなことを!? っていうかそうまでして姫さんと一緒に暮らしたいのか!?


「いい加減観念せぬか。責任を取ると言うなら、女子おなごを泣かせた責任も、しっかと取らねばのう。」


「マナカ様、そんなに悩まないでください。」


 うぐぐぐっ……!?


「やはり、我と暮らすのは嫌か……?」


 あ、あー! 待って待って!? 泣かないでええぇぇぇ!?


「い、嫌じゃないです! 喜んで、歓迎しますうぅぅッ!!」


 途端、沸き上がる歓声。女子組のみんなが、手に手を取り合って喜びを分かち合っている。


「と、言う訳だ。これからレティシア共々世話になるぞ、マナカ。」


「改めてよろしくお願いいたします、マナカ殿!!」


 先程の溜まった涙は何処へ行ったのか、とても良い笑顔でそう仰りやがる姫さんと、これまた良い笑顔のレティシアさん。


 くそっ! なんだ、この敗北感は……!!


「頭……女に結託されちゃあ、どう頑張っても無理ですぜ……」


 うっさいわ、イチ! 今この場で身に染みたわっ!!


 こうして我が家は、元々のメンツ6人に加えて、友好国であるユーフェミア王国の第1王女と、元近衛騎士団所属の女騎士を新たに迎える事と相成りましたとさ。


 そんな訳で今宵の晩餐は、新たな住人2人の歓迎会として仕切り直しとなり、それはもう、夜遅くまで賑やかに、騒がしく続いたんだ。


 ……うん。

 いっぺん主というものの認識を改めた方が良いのではないだろうか? そうでなくても、元々威厳なんてものは無いってのに。


 ……いや、やっぱりやめとこう。

 楽しければ良いよね? だって、女子って怖いもんね!



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