第十三話 真・激おこ回転ムカ着火スピリチュアルプンプンドリームインフェルノバースト。
〜 ユーフェミア王国 辺境領までの街道の何処か 〜
時刻は昼過ぎ……らしい。
つい先程まで、昼休憩って
俺には相変わらずお粗末な粥なのかスープなのか判らん味のうっすい何かを、世話係なのか知らんが兵士が嫌そうな顔で口に突っ込んで行ったよ。
まあ、拷問のせいで口の中もボロボロだから、正直味なんて分からないんだけどね。
ちなみに、転生してからずっと日にちを数えてたけど、余りにも気を失い過ぎて分かんなくなっちゃったよ。
「分かるのは、コイツらが俺のダンジョンを目指してるってことだけだな。あと、強いて言うなら王太子の取り巻きうるせぇってことか。」
まったく、真昼間から酒盛りとか、いいご身分ですねぇ。
あ、貴族様でしたね失礼しました。
まあ、声がデカいから何となく状況は分かるんで、助かってはいるんだけどね。
聞こえてきた感じ、辺境領まではあと1日もすれば着くらしい。
そこから砦までと、さらにダンジョンまでと考えると、もう俺のダンジョンが侵略されるまではカウントダウンに入ったと見るべきだ。
でも。俺はそこまで悲観しちゃいない。
何故なら。
「敵襲! 敵襲うううッ!! 前方より正体不明の敵に攻撃を受けておりますッ!!」
始まったな。いや、今始まるって確信は無かったけどさ。
アザミから、大体の策は聴いてたからね。
「敵襲だと!? 何処の手の者かは分からぬのかッ!!」
王太子が叱責する声が響く。
それと周りの取り巻き共が取り乱す声も。
しかし、そんな王太子の詰問は、更なる大音声に掻き消された。
『我が名はシュラ!! 此の度、貴国と友誼を交わそうとされた我が主が、不当にも捕らえられ、辱めを受けたと聞き及んだ!! 我らの要求は唯ひとつ也!! 即刻、我らが主を返還せよッ!!』
多分、魔法を使って拡声してるんだろう。
辺り一面に轟くその声は、俺がよく知り、よく言い合いをしているヤツのものだった。
「なに、たった4人!? たったの4人で、我が軍の前に立ちはだかったと言うのか!?」
王太子の困惑する声が聴こえる。
ってか、4人って……まさか、マナエまで連れて来たのか?!
俺のダンジョンの住人勢揃いじゃねーか!?
ダンジョンは……って、アネモネが居るんだから、そんな心配は無用かな。大方ダンジョンを出る前に俺がプリセット登録した、【家族旅行モード】にしてきたんだろう。
あのモードなら、ダンジョン近辺の魔物なんぞ問題にならないからな。
衝撃が大地を震わせ、轟音が大気を吹き散らす。
アイツら……どうでも良いけど、
《シュラ視点》
一番槍は儂が承った。
拳を振り下ろし、大地を穿つ。
主様を捕え、苦痛を与えたその大罪、贖ってもらうとしようかのう!!
『我が名はシュラ!! 此の度、貴国と友誼を交わそうとされた我が主が、不当にも捕らえられ、辱めを受けたと聞き及んだ!! 我らの要求は唯ひとつ也!! 即刻、我らが主を返還せよッ!!』
アネモネの風魔法で拡声し、名乗りを上げる。
おうおう、雑兵共めが。腰が引けておるぞ?
このような体たらくでは、王女の配下の者共の方が余程気骨があるわい。
「シュラ、解っているとは思いますが、決して殺してはいけませんよ? そのために、その装備を渡したのですからね。」
五月蝿いのう、アネモネは。そんなこと解っておるわい。
此度の戦さの絶対条件は、主様を救い出すことと、敵方に死者を出さぬこと。彼の国の心証を保つためと言うが……正直煩わしいのじゃ。
「しかしのう、アネモネよ。コレは……もうちぃっと、何とかならぬものかのう……?」
そう言って己の四肢を見下ろす。
そこにはプニッとした肉球が並び、モフモフの毛並みで、ふぁんしいでぷりちいな、【猫パンチグローブ】と【猫キックブーツ】が、手足に嵌っていた。
「何とかなりません。そのグローブとブーツの効果は、『対象に与えるダメージを減衰し、瀕死で留める』ことです。それ無しで、上手に手加減出来るのなら考えますが?」
ぐぬぅ……! そう言われてしまうと、反論の余地は無いのじゃ……
ただの手合わせなら兎も角として、彼奴等は主様の憎き仇じゃからのう……正直、殺したくて仕方がないわ。
「分かった、分かったのじゃ。まあ、コレのお陰で死なせる心配は無さそうじゃし、精々暴れるとしようかのうっ。」
一度とは言え不殺には納得したのじゃ。これ以上野暮は言うまいよ。
じゃがのう……!
徒党を組んで向かってくる雑兵を、蹴りで薙ぎ払う。
頭に振り下ろされる剣を、横合いから殴り付けて砕き折る。
踏み込み、殴り、蹴る度に。
手の肉球が、足の肉球が。
『プニッ♪』
と鳴るのはどうにかして欲しいのじゃ!
どう我慢しても気が削がれるのじゃ!!
「ぬおおおぉぉぉぉ!! なのじゃあぁぁッ!!」
『プニプニプニプニプニプニプニプニプニッ♪♪』
あ゙あ゙あ゙ッ!! 鬱陶しいのじゃあああぁぁぁッッ!!!
『プニプニッ♪』
《アザミ視点》
ようやく訪れたこの機会。
マナカ様に行った数々の酷い仕打ち、アザミが償わせてみせます!
広範囲を薙ぎ払う雷の閃光。
虚空より飛来する紅蓮の火の玉。
縦横無尽に吹き荒れる竜巻。
密集した陣形を押し流す大瀑布。
次々と隆起し、敵兵を大空へ打ち上げる岩の槍衾。
時に人の姿で掻い潜り翻弄し、時に獣の本性で爪を振るい、尾で打ち据える。
「アザミ、少々力が入り過ぎです。こう考えるのです。死など生温い、と。敢えて生かし、苦痛を与えるのだと。」
そうでしたね、アネモネ殿。殺してしまってはマナカ様の不利になりかねないのでした。
アザミとしたことが、主の意に反するところでした。
「ありがとうございます、アネモネ殿。では、9割9分9厘殺しに留めるよう努力します。」
突貫して来る騎士を尾で吹き飛ばしつつ、答える。
「それでは万が一があると思いますが……まあ、貴女には治癒魔法も有りますしね。大丈夫だと思いましょう。ああ、それと……」
「まだ、何か?」
暴れる歩兵を前足で押さえ付けながら振り返ると。
「私のことは、アネモネで構いません。同じマスターの配下の、仲間ですから。」
そう言って、溢れる敵兵の中に飛び込んで行くアネモネ殿。
「いいえ、アネモネ……ですね。ありがとうございます。共にマナカ様をお救けしましょう!」
よく晴れた青空へと駆け上がり、黒雲を生成する。
「我が名はアザミ! マナカ様の第一の従僕にして、大妖怪と畏れられし化生の者なり!! この
そして戦場は、幾筋もの稲妻に舐め尽くされた。
《マナエ視点》
「ぐッ!このチビ助があぁぁッ!!」
取り囲むようにして振るわれる剣撃。
四方八方から振り下ろされる鋼鉄の刃が、頭を割ろうと、身体を斬ろうと、命を断とうと迫り来る。
「……ッ!! ちびって、言うなあああぁぁぁッ!!!」
ぐるりと一気に回転し、武器を振るう。その武器に当たった兵士達は、盾を砕かれ、鎧をひしゃげて吹き飛んでいく。
「アネモネがこんな大きいハンマー選ぶからだもん! だから余計小さく見えちゃうんだもんッ!!」
うん、ホントに大きいんだよこれ?
柄の部分はあたしでも握れるくらい細いけど、長さはあたしの身長の倍くらいだし。槌の部分だってあたしの倍くらいの大きさで、すっぽり隠れちゃうんだもん!
比べるからあたしが小さく見えちゃうのっ!!
「ですが、近付けずにダメージを与えて、尚且つ距離を離せるので理には適っているでしょう?」
「わきゃあっ!!??」
急に掛けられた声に驚き、素早く振り返る。
ちょっ! いきなり後ろに来て声掛けないでよ!?
「ビックリさせないでよ、アネモネっ!」
これが敵さんだったらと思うと冷や汗が止まらない。
「これは失礼しました。ですがマナエ、熱くなるのは構いませんが、もう少し視野を広く持ちましょうね?」
うぐっ……! い、言われなくても、分かってるもん!
「そんなこと、わ、分かってるもん! 気を付け、る……ます……はい。」
そんな目の笑ってない微笑みで見ないでー!?
怖いよアネモネ!?
「はい、気を付けましょうね。それよりマナエ、そろそろ動きが有りそうです。もう少し戦線を奥に押し込みますよ。ついて来て下さいね。」
そう言って敵陣深くに切り込んで行くアネモネ。
アザミが言うには、お兄ちゃんはこの陣地の中央付近に囚われているらしい。そしてその近くには、例のクズでゴミでカスなクソ王太子が居るらしい。
お兄ちゃんを苛めて、痛い思いをさせて、苦しめたバカアホゲロ野郎のことを思うと、このハンマーで存分に痛め付け返してやりたくなる!
具体的には先ずは両手をハンマーで殴り潰して、両足も圧し砕いて、そして男の子の大事な所も……!
「マナエ! 遅れていますよっ!!」
わうっ!? ダメダメ! 今は考えごとしてたら置いてかれちゃう!
「何をしておるのじゃ、マナエよ! 要らぬならそこな兵共も儂が貰うぞ!?」
あ、シュラまで先に!?
「先に行きます。露払いは任せて下さい!」
ああっ!? アザミお姉ちゃんまでっ!!??
う、ううぅ〜っ!
お兄ちゃんが苦しんでるのも、計画が上手くいかないのも、皆に置いてかれちゃうのも、あたしがチビって言われるのも!
全部ぜえぇぇんぶっ!クズゴミボケナス王太子のせいなんだからああぁぁっ!!
全力で皆の背中を追い掛ける。
皆の打ち漏らしの兵隊さんも、囲んで潰そうとしてくる騎士さんも、みんなみんなぶっ飛ばしてやるっ!!
「激おこムカ着火プンプンドリームインフェルノおおおおぉぉぉッ!!!!」
《アネモネ視点》
皆は良く動けているようですね。
マナエも多少……ノン、かなり熱くなっているようですが、ちゃんと周囲も視えているようですし、大丈夫でしょう。
先程空に上がったアザミの話では、本陣付近に動きがあるそうなので、そろそろ近付いて行った方が良さそうです。
「止まれ下郎めが! 此処より先は王太子殿下の御座す本陣! 不逞の輩をこれ以上先に通すわけにはいかんッ!!」
私の前に立ち塞がるのは、濃い紫を黒の甲冑にあしらった騎士の集団。
……30人ほどですか。鎧の特徴を固有スキル【叡智】にて参照……成程、この方達が、ユーフェミア王国の誇る最強戦力、魔導騎士なのですね。
アザミの報告では魔導騎士は50名程の参陣という話でしたが、過半数が私を阻みに来たということですか。
「申し訳ございませんが、私達が用が有るのは、我らが主と、主を捕らえている王太子のみです。特にお約束の無いお客様は、予約の上日を改めて頂きたいのですが?」
未だに精神面、感情面が未成熟なため、他の仲間のように素直に感情を表に出せない私ですが、それでもかなり苛立っているのが自覚できます。
「どうしても私達を阻むと言うのであれば、実力を以て排除致します。」
両手に短刀、いや寧ろダガーナイフか。
短い刃物を構え、爪先に僅かに体重を掛ける。
「此方の台詞だ、この逆徒めがッ!! 王国に仇なす者は、国家最強の魔導騎士たる我等が討ち取ってくれるわッ!!」
先頭の騎士が
そして後列の者達が詠唱と共に魔法陣を展開する。
「遅いです。マスターなら、詠唱も無く、魔法陣すら相手に見せずに放っています。」
爪先に掛けていた体重を、脱く。
脱力により前方に倒れそうになる身体を、脚と力が連動して加速させる。
一瞬で対峙していた騎士の懐に入った瞬間には、既に両手のダガーで四肢の腱を切断し終わり、その腹部の鎧に掌を当て、そこに風魔法を圧縮する。
「マスターなら、触れたほんの僅かな瞬間に逸らし、捌き、絡め取ります。」
圧縮した風魔法を解放する。
ひしゃげる腹部の鎧と共に、糸の切れた人形のように仲間の隊列に吹き飛んで行く魔導騎士。
その乱れた戦列に突貫し、倒れた者の手脚の腱を撫でるように斬って回る。
突かれれば左手で巻き込み潜り込んで右手で斬る。
切り払われれば右手で逸らし肉迫して左手で突く。
火魔法の高熱を風魔法で増大、拡散させ、鎧越しに肉体を蒸し焼きにし。
水魔法の水球を頭に纏わり着かせ呼吸を奪う。
「マスターならそもそも速さで勝る相手に正面から構えません。搦手も使えずに、いったい何が最強なのでしょう?」
容赦なく相手の陣形、装備の弱点を突き、容赦なく甲冑の隙間から腱を切り裂き自由を奪う。
「そもそも、一メイドに遅れを取るような最強など、名乗らない方が名誉のためかと。差し出口で申し訳ありませんが助言させていただきます。」
ひとまずこの集団は片付いた。
情報では魔導騎士はあと20名ほど、軍とは別枠で近衛騎士が20名ほど居るはずです。
近衛は確実に王太子の近辺に居るでしょう。
残りの魔導騎士は、恐らくは分散して現場指揮に回っている。
ここまで軍を乱されても瓦解しないのだから、優秀な現場指揮官が居るはず、というのがその根拠ですね。
となれば後の脅威となるのは近衛と魔導士隊のみ……おや、たった今、魔導士隊がシュラに蹴散らされましたね。
では後は本陣の近衛……アザミの雷魔法が本陣を襲っていますね。
マスターは、ご無事なのでしょうか……?
『貴様らぁ!! 今すぐに戦闘行為を停止するのだぁッ!!』
突然戦場に響き渡る大音声。
恐らくはシュラの時と同じく、風魔法で拡声したものでしょう。
発生源は……本陣の土埃の中でしょうか。アザミが風を起こして埃を散らしました。
――――ッッ!!!!
「お兄ちゃん!!」
「主様!!」
「マナカ様!!」
「マスター!!!」
戦場に広く別れた仲間達の声が重なる。
血の気が引き、心臓が鷲掴みになったような感覚。次いで、引いた血が一気に頭に昇る。
手が、拳が、身体が震え、噛み締めた歯が軋む。
『貴様らの主はこの通りだ。なに、命まで奪おうと言う訳ではない。即刻、戦闘行為を停止するのだ! 貴様らの主が大切ならばなぁ!!』
不遜にもマスターの御髪を掴み引き摺り、周囲の近衛が張ったであろう結界の中で王太子が声高に宣言する。
なんて酷いことを!!
マスターは全身を痛々しく包帯に包まれており、その包帯は赤く血に染まっています。
いったいどれほどの傷を与えられたのでしょうか。
いったいどれほどの血を流されたのでしょうか。
マスターのお姿を目にして、仲間達は皆その動きを停めてしまっています。
どうにか、隙を突かなくてはなりません。
『ほう、良く見れば4人が4人ともに、特上の見目ではないか。よし、貴様ら。俺に服従するがいい! そうするならば、貴様らの主を治療してやらんこともないぞッ!!』
言うに事欠いて、それですか……! つくづく期待を裏切らないお方のようですね。勿論、悪い方の意味でですが。
ピキリッ――――
気のせいでしょうか? 何か亀裂が入るような音が聴こえたような……?
『特にそこの使用人風の女よ! 疾く此方へ来るがいい! 貴様は特別に俺の傍に仕えさせて「(バキンッ!)……おい。」――――やる……?』
「いったいどの口が……俺のアネモネを仕えさせるだと……?」
まさか。とても動けるような傷ではないはず……!
「いったい何処のどいつが、俺の仲間を……家族を服従させるって?」
『ば、馬鹿な!? 貴様、どうやってその傷でぐわぶぁっ!?』
王太子の首が掴まれる。
魔力封じの枷を力ずくで破壊し、己の足で立ち上がり、王太子の身柄を片手1本で吊り上げる。
満足に動くはずもないその身体で。
傷が開いたのか赤い染みが広がっていくその身体で。
私たちのマスターが。
「俺の大事な家族に手ぇ出すってんなら、戦争上等じゃこのボケクソ王太子がぁッ!!!」
膨大な魔力を迸らせ、内側から近衛が張った結界を吹き飛ばしました。
凄まじい魔力の奔流です。
結界を破られた近衛達は王太子を救けようとするも、マスターに捕まっているため手を出せない様子です。
「てめぇこらイケメンこらこの野郎が。てめぇよう、ヒト様の角も片目も持ってって、その上身体をボロクソにしてくれやがってよぉ? そんで更にその上で俺の大事な家族に手ぇ出そうってのかええこらあああッ!!!???」
……いけません。
普段は本当に怒らないマスターがマジギレしてしまっています。
! 周りの仲間達も察したようですね。
そうです、不味いです。
「目標、マスター! 総員、マスターを止めなさいっ!!」
「ぶち殺すぞこら下衆野郎がああああああぁぁぁッッ!!!!」
…………私たちで、このマスターを止められるでしょうか……?
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