第十二話 戦闘狂は犬も喰わないとかなんとか。
〜 転生5日目朝:ダンジョン 六合邸 庭園 〜
「と、言う訳でまた仲間を増やします!」
宣言する。眼前にはいつもの面々が揃っている。
「マスター、説明が足りないのは悪い癖です。治してください。」
アネモネさんが辛辣?!
いや、こういうのはノリと勢いが大事だって……はい、ごめんなさい。睨まないでください!
「お兄ちゃん、また魔物さん造るのー?」
「配下が増えるのは良いことです。ご随意に。」
こっちはマイペース?!
いや、せめて統一してくれよ! 俺の身体もリアクションもひとつだよッ??!!
「あー、悪かった。ちゃんと説明する。まあ説明も何も単に戦力不足ってのが一番なんだけどね。」
現在の戦力。
俺、アネモネ、アザミ。はい終了です。ダンジョンギミックは俺の戦力の内だし。
「それでだ。DPで産み出すのも考えたけど、それだと実体も自我も無いだろ? 俺が今欲しいのは自我を持ち、自分で考えて行動できる奴だ。だから、せめて側近級としてちゃんとした仲間を、早い内に揃えなきゃと思ってさ。」
そのために
「マナカ様。それはアザミと同格の配下を増やす、ということですか?」
おや、気になるのそこなの? まあ、そのつもりではあるんだけど。
「安心しなよ。俺にとっての初めての配下は、お前一人だからさ。新入りだってお前を無碍に扱うことはしないだろ。」
それに、レベルだってアザミは上がってる。配下の中でも頭ひとつ抜き出るんじゃないかな?
ちなみに只今のアザミさんのステータスは……
名前:アザミ 種族:九尾の狐(固有種)
年齢:0歳 性別:雌
Lv:22 性向:5
HP:680/680 MP:756/756
STR:661 VIT:623
AGI:748 DEX:632
INT:640 MND:691
LUK:196
称号:【真日の従魔】【大妖怪】
固有スキル:【変幻】【人化】
スキル:【危機感知】Lv4【感情感知】Lv3
【魔力制御】Lv4【魔力吸収】Lv3【HP自動回復】Lv2
【MP自動回復】Lv2【魔力纏い】Lv3【威圧】Lv2
【魅了】Lv4【舞踊】Lv4
魔法:【身体強化】Lv3【念話】Lv2【飛行】Lv2
【加速】Lv3【四属性魔法】Lv2【雷魔法】Lv3
【闇魔法】Lv3【治癒魔法】Lv2
うん、相変わらず隙の無いステータスだな。
昨日のレベリングでは使ってないスキルや魔法は上がらず、か。
やっぱこれ隠しパラメータで熟練度とかも在るよね?
「ともあれ、だよ。まだまだダンジョンは大きくなるし、していくつもりだ。そんな時に頼りになる仲間は、多い方が良いだろ?」
どうやら3人とも納得してくれたようだ。
しからば始めましょうかね。
アザミの時と同じように、深呼吸して魔力を練り始める。
そして、深く、強くイメージする。
それは、最強。暴力の化身。恐怖の権化。日ノ本を代表する大妖怪だ。
当時の日ノ本の国を大混乱に陥れ、かの安倍晴明をして災いと言わしめた、一体の鬼……
「【魔物創造】発動。タイプは鬼人、属性は剛力、固有能力想定、魔力配分設定……」
魔力が溢れ、風が渦巻く。身体から大量の魔力が消費されていく。
「発動成功。生成開始。……来い! 【大江山の酒呑童子】!」
突風と共に轟音が鳴り響く。
もうもうと立ち込める砂埃の中で、立ち上がる一体の影が見える。
「マスター、お庭を壊さないでください。」
はい! ごめんなさい!?
くっそぉ、酒呑童子め。後で修復はお前にやってもらうからな!
砂埃が薄れてきた。
それと同時に影にも動きが――――ッ?!
「……っほう。儂の一撃を躱しよるか。なかなかやるのう、小僧。」
「なんの……つもりだ?」
コイツ……いきなり人様の顔に貫手たぁ、物騒じゃねぇか。
あ、イカン! アネモネとアザミが殺気立ってる!?
慌てて手で制止する。
「いやなに。産まれたばかりとは言え、儂を使役せんとする不躾な魔力を感じたものでな。つい攻撃してしもうたわ。」
貫手を戻し、自然体となる酒呑童子。
髪は逆立ちうねるように赤い。長身の細身の身体ながら、はち切れんばかりの筋肉が詰まっているのが視て取れる。
殺意は感じないが、溢れんばかりの闘志までは隠す気は無いらしい。
「マナカ様に向かって無礼な! お前如きに生を与え賜うたのは何方と心得るか!?」
やだっ! アザミさんガチ切れやん?! ちょっと待って!?
ってアネモネさんも隙あらば殺すみたいに後ろに回らないの!!
「ふむ。
ほぉ……! どうやら本当に俺のイメージ通りの鬼に産まれたらしいな。
「つまり、俺の力を認めさせろ、と?」
うわやめろよ。なんだその極悪な笑みは!?
コイツ、相当な戦闘狂っぽいぞ。まあ、そうイメージしたからなんだろうけど……
「了解だ。先ずはお前を叩きのめすよ。そんで、初仕事として庭の修復をさせてやるから覚悟しておけっ。」
ホントにマジでな。
お前知らないだろうけど、この庭アネモネさんのお気に入りなんだからな!!! マジで怖いんだからなッ!!!!
「かっかっかっ! 是非も無いのう! 精々楽しませてもらうぞ、我が主になる男よ!!」
アネモネとアザミを退らせる。
「と、言う訳だから、とりあえずアイツボコッて服従させてくるわ。アネモネ、アザミ。マナエを頼むぞ?」
うん、俺が頼めば嫌とは言えまい。
ダメなんだよ、あの手のタイプは。一回はちゃんと付き合ってやらないと、言葉は届かないんだ。
「お兄ちゃん!」
酒呑童子に向き直った俺の背中に声が掛かる。
首だけで振り返ると……ありゃー。
「お兄ちゃん! あたしあの人嫌い!! ボッコボコにしちゃえーーッ!!」
うん。マナエさんもオコだったらしい。
OK、応援確かに受け取ったよ。
「おう。終わったら早いけど昼飯にしよう。当然アイツは飯抜きでな!」
ポンッと頭をひと撫でして、今度こそ闘おう。
「話は終わったか? 下手すれば今生の別れじゃぞ?」
おうおう、好き勝手言いやがる。ならこっちも言わせてもらうぞ?
「お前こそ、泣いて謝ったって仕事は変えてやらないからな? 勿論今からの闘いで受けた損傷もしっかり直してもらうぞ。ああ、それとな? 今しがた仲間内で、お前だけ昼飯抜きに決定したからな!」
ズビシッと指を差して宣言してやったぜ。
「んなっ……!? それはちと横暴なのではないかッ?!」
ふっ。勝ったな。
「おや? あんだけ大口叩いといてもう負けた時の心配かぁ? どうするぅ〜? やめとくぅ〜? 今なら昼飯抜きは免れるかもよぉ〜?」
煽って煽って煽り倒す。
酒を呑んだ訳でもあるまいに、何故か顔が真っ赤な酒呑童子さんは。
「ぐぐっ……! いいじゃろう!! 鬼には横道も二言もありはせん!! 往くぞ!!」
よしよし。完璧に頭に来て突っ込んで来た。
そしてこうなりゃ俺の勝ちは揺るがないよ。
足で地面を軽く叩く。
「ぬおわっ??!!――――」
はいボッシュート成功。
後は、結界魔法【
「落し穴とは下らん真似を! 喰らえい!!」
はいそして反撃されますよねー。
でもね。それ、アウトだから。
「グガッ!? 攻撃が跳ね返って……!?」
「ほらどうするよ? そんなんじゃ俺の防壁は突破出来ねえぞ?」
もいっちょ煽っときます。
穴の出口を塞ぐように、結界を張ったまま圧し掛かる。そんで、念の為結界に魔力を供給する。
「…………ッッ!! 上っ等じゃ小僧おおおおぉぉッ!!!」
それが全力の攻撃か? 右拳に魔力が集まり、凝縮し切れずに膨らむ。ってヤバい?! 思ったよりも威力ありそうだよ!!??
魔力最大供給!!!
剛撃、衝撃。爆音、轟音。
落し穴の内部が更に深く抉れていく――――
「………………ふぅっ。」
結果として、俺の結界はなんとか割れずに持ち堪えてくれた。
自らの最大の攻撃を倍で返され、衝撃すら狭い穴で逃せられなかった酒呑童子は……
うん、良かった。生きてるみたいだ。
白目剥いちゃってるけど。
溜め息をひとつついて上を見上げる。
うわー、どんだけの威力だったんだよ? 落し穴の高さ3倍くらいになっとるよ。
魔力はキツいが、しょうがないだろう。酒呑童子を肩に担ぎ、【飛行】魔法で穴から見える空を目指す。
「マスター、お疲れ様です。お怪我も無いようで何よりです。」
「お兄ちゃんおかえりー!! 勝ったんだねー!」
「この短時間で完勝するとは、流石ですマナカ様!」
穴から出ると、三者三様に迎えてくれた。
「おう、ちゃんとボコッてきたぞー。先ずはコイツの治療頼むよ。俺は疲れたからちょっと休ませてもらうな。」
何かしやしないかちょっと不安だが、アザミに酒呑童子を預ける。
そうして皆で家に入り、酒呑童子をリビングのソファに寝かせた。
アザミが【治癒魔法】を行使して、酒呑童子を治療していく。
俺も疲れたな……部屋に戻ってひと眠りしよう。
〜 夕方:ダンジョン 六合邸 真日の私室 〜
「お兄ちゃん、起きて!」
身体を揺すられる。揺すっているのは、随分と小さな手だなぁ……
そんなことを思いながら微睡む。
まだ意識に靄が掛かっているような感じだ。
うん、身体が妙に重たいのもまだ意識があやふやだからだな、きっと。
「もー! 起きて! お兄ちゃん、侵入者だよ!!」
なに……?
侵入者だぁ?!――「わきゃあっ??!!」
ガバリと身を起こす。と、同時に俺の身体の上から転げ落ちる何か。
それを視線で追えば……
「えーと……マナエ?……おはよう?」
とりあえず笑っておこう。ははは……
「ははは……じゃないー!! もうっ! 酷いよお兄ちゃん! 急いで起こしに来たのに!!」
ポカポカと、ベッドに再び上がって俺の胸を叩いてくる。
うん、ステータス上がってるせいで地味に痛いな。
「ごめんごめん。それで、侵入者だって? どれくらい? あと、俺はどのくらい眠ってた?」
謝りながらマナエを抱き上げ、頭を撫でてやる。それで機嫌を直した(チョロ……)マナエは、叩くのをやめて説明してくれた。
「んっと、今は夕方だよ。お兄ちゃん戦ってから今までずっと寝てたの。10分くらい起こしてたのに、全然起きないんだもん。侵入者さん達は13人だよ!」
マジか。アネモネの昼飯食い損ねたじゃん。
しかも10分起こして起きないとか、疲れてたのかなー?
……待て。13
「マナエ、侵入者は、
ヤバいぞ。またぞろ知恵の足りない魔物が来たかと楽観視してたけど、人間が相手だと分からない。
まだこの世界の人間には一度も会っていないしな。
「うん。亜人さんも何人か混ざってるけど、13人とも人だよー。」
不味いな。冒険者のパーティにしては多い。
盗賊とかならまだ大丈夫だとは思うが、そもそもこの森で盗賊なんかやっても旨味がないし、こんな所に流れて来るような強い盗賊ならもっと人里近くで甘い汁が吸えるだろう。
この森でここまで入り込めるほどの実力の、ある程度まとまった数の人の集団。とすると軍人か? いよいよ国に見つかったのか?
「それで、今そいつ等は何処まで進んだ? 階層もフロアも増やしてあるから、時間は稼げてる筈だけど……」
あの魔物大虐殺で増えた
「んーとね、捕まえたの。」
他のメンツとも話し合わないといけない。
足早にリビングへ向かう俺に、そんな言葉が届く。
「……え? 今なんて?」
聞き間違いかなー? 今お兄ちゃん、捕まえたって聴こえたんだけど?
「だから、捕まえたの! 1人だけ逃げちゃったけど、他の12人はみんな罠に掛かって牢屋部屋だよー。」
……なんということでしょう。
〜 夕方:ダンジョン 牢屋部屋 〜
とりあえず、仲間を連れて牢屋部屋へと移動する。
酒呑童子? アイツはまだ起きてないってんで家の空き部屋に放り込んであるよ。
牢屋部屋は【通常モード】に新たに追加したフロアで、捕縛系のトラップに連動して、この牢屋に強制転移させる仕組みだ。
一応、人間が掛かる前提の非殺傷トラップと対応している。
いや、だって人間殺すと後が怖いじゃん。
ユーフェミア王国怖いもん。頭おかしいもんあの強国。
それに、実力者なら捕縛し拘束することでもDPが得られるらしいし。
複数の牢屋に分けられ、侵入者達が眠っている。男女別々に入れられてるのは、仲間達が気遣ったのかな?
「みんな良く寝てるな。武装も解除されてるし、魔力封じのギミックも正常に動作してます、と。」
ぐるりと見て回る。
内訳は、男が8人に、女が4人か。服装からして、騎士っぽいのが多いな。やっぱり軍人か。
「逃げた1人は? ていうか、トラップに掛かってからどのくらい経ってるの?」
気になったことを誰とは無しに訊いてみる。
答えてくれたのは、頼りになる俺の補佐様だった。
「逃げたのは人間の男です。ダンジョンから脱出するのを目視で確認しました。装備や身のこなしから、斥候の1人と推測します。トラップ発動よりおよそ20分、男が脱出してからおよそ7分が経過しています。」
ありがとうアネモネ。ちゃんと逃げた奴の確認もしてくれたんだね。
しかし斥候か……
仮にコイツらが軍人だとすれば、きっと本拠地に報告するんだろうな。そして斥候の足は速いよな、やっぱ。
あんまり時間に余裕はないな。
「そっかぁ、忙しくなりそうだなぁ。あ、ちなみに、どのトラップに掛かったんだ? 今後の参考に詳しく教えて欲しいんだ。」
ダンジョン改善――いや改悪なのかな?――にも役立てたいし、どんなトラップに掛かったかで
「んっとねぇ、掛かったのは、【ダチョウさんのボタン】だよー。落し穴と睡眠ガスのヤツ。」
…………え? マジで?
悪巫山戯で作った、あんなネタトラップに掛かる人なんて居るのッ?!
「えぇー…………ちなみにボタン押したのどいつか分かる?」
指が差される。
うん、みんな呆れ顔だよね。昨日作って皆に披露した時も、「掛かるわけない」って顔してたもんね。
指し示されたのは1人の女だ。金髪の長い髪をポニーテールに纏めた、綺麗な少女。
どれどれ? と、とりあえず【鑑定】スキルを使ってみる。
名前:フリオール・エスピリス・ユーフェミア第一王女
種族:人間 年齢:17歳
性別:女 Lv:28
性向:16
って、ちょっと待ってえええぇぇぇッ???!!!
名前長っ!? じゃなくて王女おぉぉぉ??!!
ウッソだろお前?!
王女なのに?! この子王女なのにあんなトラップに掛かっちゃったのッ??!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます