第十一話 俺の理性のためにもやめてくれ。
〜 転生4日目朝:ダンジョン 六合邸 リビング 〜
さて、朝食を終えていつものコーヒータイムなのだが、早速だが俺にはやらなきゃならんことがある。
「さて、アザミ。態々こんな話をする場を設けたんだ。言いたい事は、分かるな?」
ソファの対面に座るアザミに声を掛ける。
別に怒ってる訳じゃないんだ。
だが、時には涙を飲んで、心を鬼にして言わなきゃならん時もある。
「マナカ様……申し訳ございません。アザミにはマナカ様の仰りたいことが、分かりません。」
ああっ!? そんな申し訳無さそうにしないでくれ!!
ホントに怒ってる訳じゃないんだってば!
「そうか……ならハッキリ言わせてもらおう。アザミ、今から着替えてくれ。(ガシャーンッ)」
ん? キッチンから食器の割れる音が聴こえたが、アネモネがミスをするなんて珍しいな。
「それは……マナカ様、気付くことが出来ず、申し訳ありませんでした。では早速、と言いたいところなのですが、流石にこの場では少し……寝室へお邪魔しても、よろしいでしょうか……?」
うん? 何故頬を染める?
そして何故寝室だ?
おい? どうして俺の腕を取って連れて行こうとするんだっ?!
「ま、待て待て待て!! なんだ?! 何を勘違いしてるんだ??!!」
慌てて腕を引っぺがす。何かたゆんとしたモノに当たったけど、気のせいだ!
キョトンとしたアザミだったが、益々頬を赤くして、潤んだ瞳で俺を見詰めてくる。
「それを女であるアザミの口から言わせるのですか……? 意地の悪いお方です……」
そっと近付いてきて、俺の胸に手を這わせながら、耳元で、
「なにぶん産まれたてで初めてですので、上手く伽のお相手が務まるかは分かりませんが…………精一杯御奉仕致しますね……?」
ブフォオッッ!!!???
「とっ、とっとっとっ!? 伽いぃぃ〜〜???!!!(ガラガラガッシャーンッッ!!)」
うおい!? こっちも大変だけど! アネモネ大丈夫なのか?!
えらい大量の食器が割れたみたいだぞ!!??
「とっととと伽ちゃうわっ!! そんなこと頼んでる訳じゃないんだってば! っていうかアネモネさんも大丈夫なのーッ?!!」
どうしてこうなった!?
違うんだ! 俺はただ単に……!
「そのような言い方を……アザミにはそんなに魅力がありませんか……?マナカ様に頂いたこの肉体では、ご不満ですか……?(パリーンッッ)」
違うんだってばー!! そんな涙を溜めた目で見ないでー!!
アザミはとても綺麗だし身体も魅力的だしもしそんなことがあるのなら……ってああもう違うそうじゃない!!
っていうかまだ割れる物あったのアネモネさんッ??!!
っていうか俺の話をちゃんと聞いてえええぇぇぇっ!!!!
閑話休題。
「と、言う訳でだ。ウチにはマナエっていう小さい子も居ることだし、服装をキチンとした物に変えるか、せめて着物を着崩して着るのはやめて欲しいんだよ。」
なんとかアザミを宥め、アネモネと一緒に割れた食器(朝食で使った物全てだった)を片付け、俺が本来言いたかった事を伝える。
あ、朝から疲れたよぉ……
「マナカ様の御意のままに。それでは少々着付け直してきます。」
そう言うと、アザミはリビングから出ていった。
後に残るのは……
「あー、アネモネさん? 大丈夫? ホントに怪我とかしてない?」
いつもと変わらない澄ました表情でコーヒーのお代わりを淹れてくれている。
「私は大丈夫です。先程の粗相は申し訳ありませんでした。決して、お二人の会話に動揺して手を滑らせたとか、水切りカゴを引き倒してしまったなどという事はございません。」
はい。分かりました。
うん。これ以上この話題に触れるのは不味そうだよ。
「(私でさえ未だに御奉仕させていただいていないと言うのに……)」
「うん? 何か言ったか?」
なんかボソッと言ってたよね?
「なんでもございませんっ!」
あ……アネモネも出て行ってしまった。
女の子って、難しいな……
まあ、とりあえずまだコーヒーも残ってることだし、恒例のステータス確認でもしとくかね。
名前:マナカ・リクゴウ 種族:アークデーモン
年齢:0歳 性別:男
Lv:33 性向:27
HP:916/916 MP:1843/1843
STR:1065 VIT:1004
AGI:1211 DEX:992
INT:2013 MND:1748
LUK:50
称号:【転生者】【迷宮管理人】【
【武闘家】【妖怪の主】【
【罠師】
固有スキル:【全言語翻訳】【
【魔法創造】Lv2【魔物創造】Lv2【百鬼夜行】Lv2
スキル:【鑑定】Lv4【空間感知】Lv4
【危機感知】Lv3【感情感知】Lv4【魔力感知】Lv7
【魔力制御】Lv7【魔力吸収】Lv6【格闘術】Lv7
【HP自動回復】Lv5【MP自動回復】Lv5
【高速思考】Lv3【魔力纏い】Lv4【騎乗】Lv3
【罠術】Lv3
魔法:【身体強化】Lv5【念話】Lv3【飛行】Lv1
【固有土魔法】Lv3【固有火魔法】Lv2
【固有結界魔法】Lv3
加護:【転生神の加護】
おお! Lv30突破だ!
ん? 称号の【
あれか? 色んな魔物を大量に殺したから称号が上位化したのか? 【罠師】は、そりゃあんだけ使ってりゃ取れるわな。
あ、しかも……称号の(見習い)と魔法の(封印中)が外れた!
ついに空を飛べる日が来たか!!
よしよしこうしちゃおれん!
早速庭に出て練習だー!!
あ、その前にいい加減マナエ起こさなきゃ……
〜 惑わしの森 ゴブリンの集落跡地 〜
「リコ、此処が昨日見たと言うゴブリンの集落で間違い無いか?」
リコと呼ばれた少女の先導で辿り着いたそこは、正しく集落の跡地であった。ざっと見回したフリオール王女は、自らを此処へと導いた少女へと声を掛ける。
「……うん。足跡……いっぱい。多分、200くらい。」
粗末な作りながら襤褸でテントを張ってあり、開けた広場のそこかしこで火を起こした形跡が見て取れる。
ゴブリンは知恵がある、狡猾な魔物だ。武具を用い、道具を用い、人間種と同じように集い、群れを成し、生活する。
「集落……だな、間違い無く。巣では無い。とすると、此処が空の理由はいったい……?」
集落の中心へと足を踏み入れるフリオール王女。
「それなんすけど、姫様。これを見てください。」
密集したテントの奥から現れた斥候のキースが、王女を奥へと誘う。
そこで目に入ったのは。
「これは、明らかに外側から火を掛けられた跡っす。テントの大きさからして、多分この集落のボスのテントっすね。そしてこの乱れた足跡……何者かに襲撃され、火を掛けられて戦闘になったと見て間違い無さそうっす。」
そう言われて見れば、足跡は四方八方を向き、バタバタとしているようにも見える。
「ふむ、我には足跡だけではそこまで判別は難しいな。だが死骸は? 戦闘が有ったのならば、死骸のひとつも転がっていないのはどう考えてもおかしい。リコはもぬけの殻と報告した。ならばゴブリン共は、何処へ行った?」
他に良い棲拠でも見つけたか?
ならばこのテントに火を掛けた理由は? 戦闘の理由も不明だ。
「まず、ゴブリン共が全部移動したのは間違い無いっすね。集落の奥で森へ入る集団の足跡を見付けたっすから。そしてその中に、だいぶ踏み荒らされて分かりにくかったっすけど、
ということは? 思わず、王女はキースの報告を遮る。
「待て。とするとあれか? この200近い規模のゴブリンの集落を、たった一人の女性が襲い、ボスのテントに火を掛けた挙句に、群れを全て引き連れて森の奥へ去って行った、と言うのか?」
俄には信じられない話だ。いったいどのような実力が有ればそのような芸当が可能なのか。
200匹ものゴブリンの集落など、軍が中隊規模で包囲を敷いて戦うことになる。それをこの足跡の女性は、1匹も殺すこと無く、森の奥へと誘導したと言うのか。
「すんません。足跡や形跡からはそうとしか言えないっす。下手したらこりゃあ、高位の魔族でも出張って来たかもっすね。ゴブリン共を連れて行く理由は分からないっすけど。」
嫌な予想を立てられて、王女の眉間に皺が寄る。
魔物を引き連れる理由? そんなもの決まっている。戦力として、使役するためだ。
人より魔に近しい魔族ならば可能なのだろうか? と、思考が飛躍して行くのを自覚した所で、考えを一旦保留する。
「追うぞキース。全員を集めろ。その後斥候3名を先頭とし、臨戦態勢を敷いて奥地を目指す。恐らくは、この女の足跡こそが、今回の異変の鍵だ。」
キースは、了解っす。と軽薄に答え、すぐさま行動に移った。
この隊での斥候は伝令も兼ねる。懐から掌に収まる程度の大きさの石を取り出し、二言三言呟くと、直ぐに王女に向き直った。
「皆、直ぐに集まるっす。今の内に、装備の確認だけでもしときましょうかね。」
少数ならではの充実した装備も、この隊の戦果を大いに支えている。
先程キースが使用したのは、通信用の術具だ。術式が難解で複製が難しく、軍司令部などにしか配給されない貴重な品なのだが、この隊では王女の特権を活かし、斥候3名が全員所有している。
そうして、装備を整える事しばし。
全員が王女達の元に集まるまで、10分と掛からなかった。
そしてキースが皆に現状を報告し、情報を周知する。
「状況は聴いたな? これより我らは、この集落より去ったゴブリン共の跡を追う。女の脚で群れを引き連れてはそう遠くまでは行けまい。目的地は近くと想定し、各員装備を整えろ。輜重車は此処に残す。簡易結界だけ張っておけ。準備が整い次第、出立する。」
王女の命令が飛び、各員がそれぞれ身支度を整える。
急いではいるが、落ち着いて行動しているようだ。
「陣形を整えろ。斥候は等間隔で広がれ。連絡は密に取るように。往くぞ!」
そうして王女達一行は、ゴブリン達の足跡を追い、再び深い森の奥へと歩みを進めて行った。
〜 夕方:ダンジョン 六合邸 リビング 〜
いやぁ〜、今日も働いた働いた!
朝からちょっとドタバタしたけれども、まあドタバタはある意味毎日だ。
「なんかお兄ちゃん達だけで楽しい事しててずるいよ〜〜っ!」
夕飯を待つ間、ソファで寛いでダンジョンを弄っていたのだが、ご機嫌斜めなマナエに膝の上を占拠されてしまった。
「悪い悪い。ダンジョンももうちょい形を整えて、俺やアザミのレベルアップももう少し進めば、余裕ができるからさ。」
そう言い訳をしながらメニューを弄る。
「むぅ〜。それで? 今は何してるの?」
興味の矛先が移ったらしい。
ううむ、分かり易いというか、悪く言うとチョロいというか……
「これか? メニュー弄ってたら、【プリセット】の項目を見つけてさ。折角だから登録してるんだよ。今のところ、プリセットは二つだな。こうしておけば、急いでる時にもササッとダンジョンの構造を変えられるんだよ。」
所謂テーマ別の配置転換だな。
現在登録してあるのは、昨日の蹂躙戦で使用した【決戦モード】と、平時に自動で防衛を任せる【通常モード】だ。勿論罠の配置や構造も変えてある。
普段は【通常モード】で、強敵が攻め入って来たら【決戦モード】に切り替え、トラップ群やその他ギミックを差し込む形にした。
「マスター、お待たせしました。お夕食に致しましょう。」
夕飯の支度を整えたアネモネから声が掛かる。
マナエを促し、膝から下ろすと、俺もよっこらせと立ち上がり、ダンジョンを【通常モード】に変更して、メニューを閉じた。
ダイニングテーブルには既に配膳が済まされ、マナエとアザミが席に着いて俺を待っている。
ああ、そうだ。アザミは俺の頼みを聞いてくれて、着物をキチンと着てくれるようになったよ。
それでも溢れる色気が留まらないんだけどな。アザミさんパネェっす。
俺も席に座ると、アネモネがよそったご飯と味噌汁を置いてくれた。
全員が席に着いたことを確認して。
「みんな、今日もお疲れ様。それじゃ、いただきます!」
賑やかで和やかな夕食を楽しんだのであった。
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