第九話 俺の妄想力は53万だ。
〜 転生3日目昼前:ダンジョン 六合邸 庭園 〜
熾烈な攻勢に押される。
こっちは二人がかりにも関わらず途切れない怒涛の
はい。只今マナエと二人して、正座でお説教中です。
「マスター、ちゃんと聴いていますか? そもそもマスターはマナエを甘やかし過ぎな嫌いがあります。確かにマスターとマナエは一心同体とも言うべき間柄ではありますが、それにしても度が過ぎます。もっとキチンと主と従属としての自覚をですね――――」
はい、聴いています。
そろそろ足が痺れを通り越して感覚無くなってきてるけど聴いています。
そしてそんな俺と一蓮托生の相棒はと言うと…………
「マナエもマナエです。いくらマスターが優しいからと言って……誰が姿勢を崩して良いと言いましたか!? しっかりとそこへ直りなさい!」
うん、足の痺れに耐えかねて倒れ悶えてます。
「あ、アネモネさん? マナエの足も限界みたいだし、もうその位で勘弁してやってくれないかな……?」
流石に懲りただろう。俺は懲りたね。
マナエを元気付けるためとはいえ――決してアネモネさんの慌てる姿が観たかった訳じゃないよ? ホントだよ?――少々やり過ぎた自覚もある。
「頼むよ、アネモネ。悪かった。俺もやり過ぎたって反省してるから、許してくれないか?」
誠意を込めて頭を下げる。
あ、いかん!? この状態で体重移動しちゃうと堰き止められてた血流が! 痺れがああぁぁぁーーーッ??!!
「……仕方ありません。これに懲りたら今後下らない悪戯は控えて下さいね。それと、マスター。」
ぐおおおおぉぉぉ………………っ!!??
「素晴らしい魔法でした。あの性能であれば、今後非常に有用であると思われます。これからも弛まぬ努力を重ね続けて下さいね。」
足がッ! ヤバい腿にまで痺れが這い上がって来やがったっ??!
……うん? 今なんて言ったの?
「ッ……わ、悪いアネモネ、足の痺れが酷くてちゃんと聴けてなかったよ。もう一回言ってくれるか?」
いやホント凄いわこれ。ここまでの痺れは久々だよ。
高校の修学旅行で京都のお寺に行って説法を聴いてた時以来かな?
「…………もういいですっ!! 昼食までにまた魔力消費訓練をしておいてください!」
あれ? アネモネさーん??
あちゃー、まだ怒ってるかな、ありゃ。
でもそういえば、さっきの魔法は悪意にしか反応しない筈だったんだけどなぁ……アネモネがマナエに悪意……?
お説教で言ってた通りの悪印象かな? まさか、嫉妬とか?
はははっ、まさかね…………?
〜 ダンジョン 玉座の間 〜
昼食を三人で仲良く終え、午後はダンジョン拡張を試してみることになった。
うん、ちゃんと仲直りしたからね!
昨日の訓練以来となる玉座の間へと足を踏み入れた俺達。
俺は、凄惨な戦いの現場をまた観ることに若干辟易しながら来たのだが……
「死体が……消えてる……?」
そこには大量のゴブリンの死骸が転がっているわけでもなく、血痕すら見当たらない。俺が転生してきた時と寸分違わぬ、玉座の間の光景が拡がっていた。
「当然です、マスター。マナエが目覚めダンジョンが再起動した以上、ダンジョン内で死んだ全ての生物の骸は、ダンジョンが吸収しますので。」
アネモネの説明に、ウンウンと頷くマナエ。
なるほど、つまりダンジョンに喰われたわけね。
「凄いよお兄ちゃん。ゴブリンでも一度に200匹も食べたから、結構ダンジョンポイントも貯まったんだよ!」
おや、またどこかで聴いた単語が。
「ダンジョンポイントってあれか? ダンジョンの拡張とかモンスターの生成とかに使うアレのこと?」
これもまた定番だよな。作品によってはガチャだとか、通販だとかもできる代物だったよな。
「良く知ってるねお兄ちゃん! それで合ってるよっ。あとはダンジョンが成長するに従って使える機能もだんだん増えてくからね。」
合ってました。
よしよし。昨日のゴブリン達もちゃんと変換されてるっぽいし、幸先良いスタートなんじゃないかな?
「そっか、楽しみだな。でもダンジョンポイントっていちいち言うの長いし、DPって言うか。それで? 増えたDPだのは、どうやったら確認出来るんだ?」
アネモネが一歩下がる。
どうやら、ダンジョンコアであるマナエに華を持たせてやるらしい。
「えっとね、心の中で良いから【ダンジョンメニュー】って唱えれば、ステータス画面みたいに見れる筈だよ。」
ふむ。では早速、【ダンジョンメニュー】っと。
「これは……このダンジョンのマップか? ダンジョン名は【無名】、総DPは……これか? 3560ポイントか……多いのか少ないのか分からんな。メニュー項目が、【フロア編集】【階層編集】【ダンジョン拡張】【ユニット作成・編集】【ユニット配置】【ダンジョンコア機能拡張】【その他】か。なんかゲームみたいだな。」
メニューを確認しながら呟く。ダンジョン作成系のゲームにそっくりだね。
「お兄ちゃん、げえむって何?」
おっと、余計なこと言ったか。
「俺の前世の世界に有った娯楽だよ。色々あるから、今度この世界でもできそうなゲームを三人で一緒にやろうな。」
流石にテレビゲームは無理だよな……? とするとオセロとかトランプとかが定番か。
いや待てよ? 俺より前に転生者が何回も来てるならもう有るかも? 探した方が早いか……?
「マスター、話が逸れています。」
おっと、いかん。
分かってるよアネモネさん。だから睨まないでください。
ひとまず優先すべきはダンジョン拡張だな。
なになに、【フロア追加】【階層追加】【領域拡張】か。
「先ずは【階層追加】しようと思うけど、いいかな?」
そう二人に訊くと頷いてくれたので、実行する。
最初だからなのか、消費DPは100だけだ。実行するとダンジョンのマップに変化が現れる。
「お、玉座の間の扉前に階段ができたな。確認してみるか。」
玉座の間の扉を開いてみると、上へと続く階段ができていた。
「おー、すげぇな……こんな風になるんだな。あとは1階の元玉座の間の前の空間をっと……」
ダンジョンを操作し、作り替えていく。
ホントにゲームをやってるみたいだ。作り替えた端からマップに変化が現れ、機能が付き拡がっていく。
「あ、DP無くなりそうだな。ダミーコア作成が500ポイントだから、それだけ保険で残してここまでにするか。」
他にできることはないかな?
「マスター、最後に【ユニット作成・編集】で私をダンジョンの一員に追加して下さい。そうすれば私に罠などが作動しなくなります。」
身内認定ってとこか。それは大事だな。
どれどれ、ポチっとな。
「よし、できたぞ。今日のところはこんなもんだな。」
メニューを閉じ、二人に向き直る。
……なにも作業中ずっと立って待ってなくてもよかったのに。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、あんなに有ったDPが無くなりそうって、大丈夫なの? まだユニット作成もしてないんでしょ? 配下居なくていいの?」
マナエが心配そうに訊ねてくる。
アテはちゃんとあるから、そんな顔するなよ。
「ああ、大丈夫だぞ。ただその手段を取るには魔力を回復させないとな。後はDPの入手方法を検討しないとな。」
とりあえず家に戻って休憩しよう。二人を促し歩き始める。
「はい。良い時間ですし、お茶にしましょうか。」
お、良いね。優雅なアフタヌーンティーってやつだな。
「アネモネ! あたしお菓子食べたい!」
マナエさんもノリノリですね。しかもちゃっかりお菓子まで要求するとは、やりおるわ。
「構いませんが、マナエも支度を手伝ってくださいね。マスターをお待たせしないのが最優先です。」
はーい、と返事をして小走りになるマナエ。
そんなに楽しみか。微笑ましいな。
〜 六合邸 庭園 〜
ほー、裏にテラスなんて在ったんだな。
庭に咲く色とりどりの花を眺めながらお茶だなんて、なかなかに贅沢な時間だ。
「マスター、お待たせしました。良い茶葉が揃っていましたのでオリジナルですが、ブレンドしてみました。」
アネモネがトレイに茶器諸々を載せて運んできた。
その後ろにはこちらはトレイにお菓子を盛ったお皿を載せたマナエが付いてきている。
アネモネがポットを傾け、ティーカップに紅茶を注いでくれる。
その間にマナエがおしぼりを配り、各々の取り皿にお菓子を取り分けてくれた。クッキーの甘く、香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
「お兄ちゃん、このクッキーあたしも作るの手伝ったんだよー! 食べて食べて〜♪」
そうなのか!美女と美幼女の手作りお菓子とか、俺大丈夫かな? 爆発しない?
「どうぞ、マスター。熱いのでお気をつけください。」
お茶の準備も整い、二人も席に着く。
「ああ。それじゃ、いただきます。」
先ずは良い香りのクッキーを手に取る。
二人の手作りにワクワクしながら、ひと口齧ってみる。
「うん、美味い! 上手にできたな、マナエ!」
不安そうに俺を観ていたマナエの顔が笑顔になる。そして自分もクッキーを口に運ぶ。
「美味しーい♪ アネモネ! 美味しくできたよー!!」
「はい、良かったですね。マナエ。」
良いなこの時間。華やかで、賑やかで。
クッキーを慌てて食べているマナエを微笑ましく観ながら、紅茶も口にする。
「うん、紅茶も美味い。美味しいよアネモネ。」
茶葉のブレンドまで出来るなんて、凄いよな。
渋味は極限まで抑えられ、口当たりのマイルドさと茶葉本来の甘みが、口の中で香りと踊る。
そして何より、このクッキーにめちゃくちゃ合う。これ絶対クッキーに合わせてブレンドしてあるな。
「お口に合って良かったです。お砂糖とミルクは入れなくてもよろしいですか?」
「うん。クッキーと一緒に食べてるから甘みも充分だよ。しかし優雅なひと時だな〜。今後もおやつの時間作るか? みんなでお喋りしながら、一緒に作ったお菓子食べてさ。」
アネモネの仕事を増やしてしまうが、お菓子作りなら俺も混ぜてもらえそうだし、良いかも。
「さんせーい! ね、アネモネも良いよね?!」
「はい。今後午後のお茶の時間を取れるよう、調整しましょう。マナエにも、色々なお菓子作りを教えてあげますね。」
さてと。一心地着いたところで、本題といこうか。
「これから作業するよ。失敗すると危ないかもだから、静かにしててくれよ?」
二人に注意を促し、広い前庭へと移動する。
「マスター、例の固有スキルを試すのですか?」
流石アネモネさん、俺のことを良く解ってらっしゃる。
頷きを返し、魔力を練り上げ集中する。
「なになに、何するのー? 固有スキルってなにー?!」
「お静かに。マスターが失敗してしまったらどうするのですか。すぐに分かりますので、大人しくしていてください。」
ありがとう、アネモネ。
深呼吸を繰り返し、集中を深めていく。
イメージする。
それは有名な伝説。俺の中では五指に入る、強大な存在。
「【魔物創造】発動。タイプは獣、属性は特殊。固有能力を想定、魔力を最大限に使用。」
良し。現魔力を全て注ぎ込み、凝縮する。
俺の目の前に渦巻く濃厚な魔力。伸縮し、歪に蠢きながらも徐々に形を造っていく。
「【九尾の狐】生成――成功だな。ぐえ〜、魔力切れで気持ち悪りい……!」
白銀の体毛に尖った耳。しなやかさを感じる体躯に、ふわふわと揺らめく九本の尾。
俺の全ての魔力を消費し産まれ落ちたのは、一頭の妖狐だった。
妲己や玉藻前、クミホなど、絶世の美女となり時の王朝を破壊し尽くした美しい妖怪。白〇のものは……やめておこうか。
一番有名な妖怪じゃないかな? もちろん、俺も大好きだよ。
「凄まじい力を感じます。マスター、成功したのですね?」
「すっごーい! 狐さんだー!! 尻尾たくさん〜! もふもふ〜!!」
うん、マナエが壊れてしまった。
待て待て、まだステータス確認してないんだから。
九尾の狐に対して【鑑定】スキルを使用する。
名前:無し 種族:九尾の狐(固有種)
年齢:0歳 性別:雌
Lv:10 性向:0
HP:450/450 MP:500/500
STR:432 VIT:395
AGI:542 DEX:416
INT:421 MND:463
LUK:180
称号:【真日の従魔】【大妖怪】
固有スキル:【変幻】【人化】
スキル:【危機感知】Lv2
【感情感知】Lv2【魔力制御】Lv3
【魔力吸収】Lv2【HP自動回復】Lv1
【MP自動回復】Lv1【魔力纏い】Lv2
【威圧】Lv2【魅了】Lv4【舞踊】Lv4
魔法:【身体強化】Lv2【念話】Lv1
【飛行】Lv1【加速】Lv2【四属性魔法】Lv1【雷魔法】Lv2【闇魔法】Lv2
【治癒魔法】Lv2
……強くね? なにこのソツの無いオールラウンドなステータス。
しかもいきなりLv10って……
あ、名前無いんだ。付けてやらないとな。
うーん、流石に妲己とか玉藻とかはいかんよな。悪者なイメージだし。
「よし、お前の名前を決めたよ。お前は今日から【アザミ】だ。よろしくな。」
うん、白銀の毛並から、白い花繋がりで名付けてみたよ。
そうして名付けを行うと、アザミの身体を突然光が覆う。
光の向こうで薄らと視えるのは、段々と姿を変えていくアザミだ。
早速固有スキルの【人化】を使ってるみたいだ。
変化を終え、人の姿となったアザミがその場に傅く。
「マナカ様、謹んで拝命いたします。これよりアザミは、マナカ様の剣であり盾であります。どうぞ末永くお役立てください。」
うん。人化すると喋れるのか、それとも元々かは分からないが、丁寧に挨拶してくれた。
白銀のストレートな長髪は撫子ヘア。頭にはケモ耳、腰には九本のケモ尻尾。雪のように真っ白な肌。それとは逆に漆黒の、アザミの花を金糸の刺繍であしらった着物を芸妓さんのように着崩しており、なかなかに目のやり場に困る格好。
瞳は紅色で、切れ長だが少し垂れ目かな。厚目の唇は紅を差しているかのように、瞳の色と同じ紅色だ。
そしてなんと言っても漂う色香だ。何がとは言わないが……大きいなぁ。
うん、一言で言うなら妖艶だ。
見た目年齢は18歳くらいだが、あどけなさを残しつつも、可愛いより美しい大人の魅力に溢れている。
「丁寧にありがとう。これからよろしくな。二人も紹介しなきゃな。こっちが俺のメイド兼先生のアネモネ。そんでこっちがダンジョンコアで俺の半身でもある、妹のマナエだ。二人のことも守ってやって欲しい。」
俺の仲間達をアザミに紹介する。あ、そっちは立ち上がって礼をするのね。
飽くまで最上位は俺ってわけか。
「あー、それからアザミ? 多分挨拶するために人化したんだろうけど、悪いが狐に戻ってくれないか? その、なんというか、目のやり場に困るんだよ……」
俺一人なら存分に愛でちゃうんだけどね。でもここには
刺激的な格好過ぎて教育にあまりよろしくない気がするんだよね。
「御意のままに。それでは失礼して。」
再び光に包まれ、獣の姿に戻るアザミ。
九尾を滑らかに揺らし、俺の胸に鼻先を擦り付けてくる。
か、かわいい……! これは是非ともモフらせて貰わねば!
「ようし、こうなりゃついでだ。ダンジョンの試運転も兼ねて俺とアザミのレベル上げしよう!」
三者三様に頷きを返してくれる。
「それじゃ、作戦を伝える! いいか――――」
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