第三話 選び直しは?! 駄目なの?!
軽っ!? 神様ノリかっるいよ!!?
さっきまで慈愛に満ちた眼で俺の死に様を美しく語ってくれておいて、いざ転生の段でA4の進路希望用紙って!!
ちょっと俯き加減でウルっときてた俺の感動とか諸々を返してよ!!
しかもこの用紙、裏紙だよね?!
回覧板のお知らせ用紙だよね?!
だってここに【神様通信】って書いてあるもん!!
『真日さん、割と細かいんですねー。そんなだから虻に右のおっぱいだけ刺されちゃうんですよー?』
視線をフイッと逸らして口笛をならす神様。
もうやめて!? 右のおっぱいのHPはもうゼロなのよーー!!
「細かいとか細かくないとかじゃないでしょうよ。もうちょっと俺の心情とか慮ってくれません?」
苦言を呈してみると、
『しょうがないですねー。』
と言って裏紙のプリントを引き上げ、カウンター下にその小さい身体が消える。
ゴソゴソとなにやら口で言いつつ足台の上に戻った神様が差し出したのは。
「いや裏紙じゃなくまっさらな紙に新しく進路希望って書いても変わりませんよね?!」
そう、使い古しでなく真新しい紙に新たに印字された進路希望のプリントだった。
『えー、何がいけないんですかー。貴方の☆ ために☆ わざわざ☆ 新しく刷った進路希望用紙ですよー? それにこれ、実は正式な書類なんですよー? まあ受理されればアーカイブに自動登録されて用紙は消滅しますけどねー♪』
もうやだこの幼女……
そしてさり気なく置かれた新しい生ビール。
「グビッ……はぁ、まあいいです。」
気を取り直して
プリントにざっと目を通してみる。
①どんな世界に転生したいですか?
②どんな生命に転生したいですか?
③どんなことをして生きたいですか?
④どんな能力・才能が欲しいですか?
⑤好みのタイプはどんな子ですか?
⑥幼女は好きですか?
「いや、⑤と⑥ううぅぅううーーーーーーーーーっ!!!!」
吼える。
今生(死んでるけど)かつてないくらいに吼え猛る。
目の前には耳を指で塞ぐ幼女がニコニコしている。
『真日さん、カラオケ以外でも大きな声出せるんですねー。ひとりカラオケ(笑)だけど。』
「それ、関係ないよね?! ひとりカラオケ(笑)関係ないよねぇ?! っていうか転生の進路希望に好みのタイプとか幼女好き? とかも関係ないよね???!!!」
そこも弄ってくるかこの
『まあまあ、そのプリント結構高性能なんですよー? 試しに①の質問をペンでつついてみて下さいなー♪』
しかも煽っておいてスルー。
溜息をつきながら、不承不承ながらも言われた通りにしてみると。
「うわっ……!」
俺の正面に宙に浮いたウィンドウ画面のようなものが飛び出てくる。
そこには、【元の世界】【科学の発展したSFチックな世界】【文明が崩壊した世紀末チックな世界】【剣と魔法とファンタジーなラノベチックな世界】【遺伝子組換えにより人類より繁栄した猿が治める世界】etc、etc……
候補……なのか?
そこには様々な設定の世界の羅列。それが、ブラウザのツリー表示のようにズラリと連なっていた。
しかも視線に合わせて自動でスクロールする無駄に高性能。
「ここから、選べと?」
梅酒かな?
『そうなりますねー。そこには、現在転生可能なあらゆる世界が書き出されてますー。あ、でも用紙にはちゃんと手書きで書いて下さいねー?』
「え、選ぶだけで良くないですか?」
思わず問い返すと、ロックグラスの残りを一息であおり、タンッとテーブルに置いた俺の印象では珍しく真剣な表情の
『その一筆一筆に込められた思いが、貴方の転生時のリソースに上乗せされるんですよー♪ 貴方の来世への想いが強ければ強いほど、転生時のあれやこれやが忖度されて優遇されることも無きにしも非ず?』
真剣な表情は気のせいだったようだ。
というかなんだその政治家が好んで使い回しそうな曖昧で耳障りの良い投げやりな説明は。
『あー、信じてませんねー? ホントなんですよー? ちゃんとこの神様通信の中ほどの神様相談室ってコーナーに寄せられた転生神の質問への答えとして書いてありますよー。』
と言って先程の裏紙プリントの表面を示してくる。
うわぁ、本当に書いてあるわ……
っていうか転生神としてやってるならちゃんと把握しとこうよ?!
なにこんなマスメディアチックな物に堂々と質問掲載しちゃってるの?!
『ちなみに①に答えを記入して下さればー、②以外の質問も自動的に忖度されて掲載内容が変化しますー。』
忖度好きだなおい。
ともあれ仕組みは解った。
あと気になることは……というかツッコミたいのは!!
「転生先の候補、物騒なの多くない?! っていうかどっかで見たことあるような設定が多くない??!!」
何だよ世紀末チックとか! 猿が治めるとか! 映画か!? 救世主なのか!!??
『あーそれはー、説明するのがめんどくさいですー。』
「めんどくさいで済ませるの!!!???」
そして宥めるように誤魔化すようにさり気なく置かれるレッドアイ――ビールをトマトジュースで割ったカクテル――を思わず多めにひと口飲む。
『まあまあ一息ついてくださいー♪ 至極簡単にザックリ大雑把に説明しますと、世界というのは可能性なんですー。生きとし生けるものが生を育み、成長するのと同時に、世界もまた成長するんですー。
生命が、特に知性ある者達が発展していく過程で産まれる総ての物、事は、そのまま世界を形作って行くんですよー。そして総ての可能性から派生した世界もまた形作られ、可能性の数だけ世界は産まれるんですー。』
本当にザックリだな。
「パラレルワールド……みたいなものですか? もしも本当に核戦争が起きて、世界が崩壊したら……とか。」
なんだか背筋に悪寒を感じるので妄想はここらで止めておこう。
曖昧な認識だが、一番イメージに近いのが並行世界だ。
ifの世界。たらればの世界が、実際にあるようなものか。
『まあそんなとこですねー。厳密には可能性の試験世界――小世界と、それらを序列化し包括する統一世界とに分かれるんですけどー、まあ、一世界の一小市民になるだけの真日さんにはあまり関わりない話ですよー♪』
……まあその通りだ。言い方は兎も角。
「なるほど。この様々な世界は、そのまま生命の可能性である、と。うわー、ヤダなぁ。世紀末チックな世界に行ってもやれる事なんて想像付かないなぁ……」
『あとは貴方の記憶を読み取って過去の傾向、嗜好からそれに類似した世界を優先的にピックアップしてあるだけですー♪』
さらっと他人の記憶をほじくり返さないでくれませんかね?!
やっぱりそういうことなんじゃん!?
道理で見たことある世界ばっかりだよ!!
っていうか本当に在るんだこんな世界??!!
「はぁ……分かりましたよ。もうサクッと決めてしまいましょう。」
死んでるのに疲れるって何なの?
まったくこの
『ほうほう。転生でお馴染みでお約束で無個性にも程がある異世界ファンタジーをお望みですかー♪』
いいじゃないですか!!!
本当に在るならって地味に憧れるもんなんですよ、男の子は!!!
っていうか見ないでーーー!!!??
『いやー、手続きの際に結局見ますし、いいかなって思いましてー♪ それでそれでー? ファンタジーだと転生対象は元の世界より沢山ありますよー? どれにしようかなー♪』
いや、選ぶの俺だよね??!!
ちょ、待っ!? ペンを持つ手を掴んで動かさないでーー!!??
『オススメはー、今生で短命でしたのでー、長命種のこの辺りですねー♪ 折角なのでアークデーモン種とかどうですかー? 魔力に長けて肉体も強靭、存在強度も中々で、それでいてまだまだ伸び代もありますよー♪』
ちょっ!まっ!!マジで書いてるこの幼女!!??
選べますよって言っときながら強制ってなんなのマジこの
あぁっ?!
これ、消えない…………?
『…………テヘペロ☆』
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