9話 輝く太陽の下で協力した
長い道のりを終え、俺たちはついに海辺に降り立った。
目に付くのは燦々と輝く太陽。白い砂浜。地平線が見える海。
そして——
「おいおい……」
人、人、人。思わず口に出てしまうほどの人混みだった。
夏真っ盛りとはいえ、こんなにもいるものなのか。
「おお、これはすごい。早く行かないといい場所が取れなくなっちゃうな。よし、柳沢君と——三木君だっけ。そこにある荷物を持って僕についておいで!」
テンションが上がっているのかスキップをしそうな足取りで岩崎が歩き出す。
俺たちは慌てて追いかけるべく足元にあった荷物を持ちあげようとした。
次の瞬間グッ、と肩に負担がかかる。
……重い。
「三木。もしかして力抜いてたりしないよな?」
「いや。ヤナギこそ楽しようとしてない?」
三木と顔を見合わせてから俺は岩崎に尋ねる。
「これ、何ですか?」
「ん? テントだよ。荷物置いたり休んだりするにも、とにかくパーソナルスペースが必要だからね」
確かにビーチにはそこかしこにテントが乱立している。この炎天下の中、くつろげる空間がないのは地獄だろう。何もなしに寝転がろうものなら砂浜が肌を焼くに違いない。
二人で片方ずつ持ち手からぶら下げ、えっちらおっちらと歩く。
だが、そんな俺たちにも直射日光と熱波は容赦無く襲いかかってくる。
「あっつ……」
「もう少しだから頑張るしかないな……」
幸い開始地点である駐車場からビーチまでは大して距離はない。この調子ならすぐに解放されそうだ。
だが、俺たちがビーチの砂を踏んでから少し経った時だった。
前を行く岩崎の足が止まる。
「どこもいっぱいだね」
「…………嘘だよね?」
「…………死刑宣告ですか?」
おっと、口が滑ってしまった。
混んでいるのは見ればわかる。
二人だからなんとかなっているが三人では横並びで歩けないほどひしめき合っている。
それでも目の前を自信ありげに歩くのでてっきり俺は岩崎が目星をつけていると思っていたのだが……
俺のふつふつと湧き上がる感情を他所に岩崎が朗らかに告げる。
「場所、探そっか」
この瞬間、三木と俺の心は確実に一致した。
——早く終わらせよう。
「お疲れ様です」
やっとの思いでビーチに空いてる場所を見つけ、テントを立て終えた俺に如月が近づいてきた。
その清涼剤のような声には不思議と癒し要素を感じてしまう。
俺は汗でじっとりと肌に張り付いてしまった服の間に風を送り込む手を止める。
「いや、手伝ってくれなかったら今頃まだやってたと思う。寧ろ感謝したいのはこっちだ」
用意してあったテントは
それだけでも大変だというのに遅くなった最大の理由は説明書が全て英文であったからだ。外国製のテントだったらしい。
俺たちは炎天下で文章を読むのを放棄。図を頼りに組み立て始めたが、これが上手く行かなかった。大雑把な図はまるで当てにならない。
四苦八苦しているところに様子を見に来た如月が英文を解読、更には作業に加わってくれたのだ。読み上げてくれただけでもありがたいのに手伝ってくれるなんて、本当に感謝してもしきれない。
「ありがとうございます。でも、手伝ったのは私だけではないですよ」
「そうだな」
俺の視界の端ではもう一人の功労者が三木と話している。
泉にも後で感謝をせねばなるまい。彼女が手伝ってくれなかったらより時間がかかっていただろう。
後で伝えよう、と思った時に岩崎が手をパンパン、と叩いた。
パートの人や皆の注目を集めた後、満を辞して口を開く。
「準備も終わりましたし、そろそろ念願の海に入りましょう。近くに更衣室があるんだけど、テントがいい人は順番で着替えてください。先にレディーからどうぞ」
レディーファースト、と言いながらスススっと岩崎がテント前から離れる。
「それじゃあ……着替えてきますね」
「あー……いってらっしゃい」
女性陣に混じり俺の隣にいた如月がも荷物を抱えテントに消える。
次の瞬間、男性陣にパートの人の無言の圧力がかかった。
その目は雄弁に物語っている。
——どっか行け。
ま、そうなるよな。
それにテントを使うとなると空かない限り俺たちは着替えることができない。少し離れているが大人しく更衣室へ向かった方が良さそうだ。
俺と三木が着替えを持って移動しようとした時だった。女性の従業員一人が俺たちに近寄ってきた。
「あら、行っちゃうの? 彼女さんを待っててもいいのよ。水着姿、早く見たいでしょ。私たちも野暮じゃないんだからそれくら多めにみるわよ。それに丁度見張りも欲しいかったのよ、どう?」
どう? と言われても返す言葉は一つだ。
「時間ももったいないですし遠慮しておきます……あと、彼女ではないので」
これ以上面倒なことになってはたまったものではない。
俺たちは足早にテントから離れた。
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