5話 部員を部室で騒がせた
和田が騒ぎ、泉の素直な反応にあの頃を思い出したその日の夜。
突如点灯したスマホが俺の顔を照らした。画面を見ると新着メッセージを受信したらしい。
もう寝ようと思っていたのに。こんな時間に誰だろう。
アプリを立ち上げると差出人は三木になっている。
『やあ。まだ起きてるかな?』
すぐにスマホを切って放ってしまおうかと思った。
何というか、導入がもう胡散臭い。これまでの付き合いからあいつがこういう前置きをするとめんどくさくなる予感しかしない。
ぐっと堪えて文字を打つ。
『つまらない用事だったらすぐ止めるからな』
翌日学校で言えばいいものをこんな時間に連絡をしてくるのだから何かあるのだろう。
するとすぐに返信があった。
『ちょっと確認したいことがあってね 大丈夫、ヤナギが協力してくれればすぐ終わるよ』
俺が協力?
随分とまどろっこしい言い方だな。それだとまるで俺が素直に答えないみたいだ。
『それで何なんだ』
『今日部室で和田が騒いでいたよね?』
『騒いでたな』
『あれって偶然なの?』
テンポよく続いていたやりとりが途切れる。
深呼吸してから俺は文字を打った。
『何のことだ?』
『和田だって高校生だ。注意すればおとなしくなる。それなのにヤナギは二人が対局し続けるのを止めようとしなかった。いつもなら如月さんを心配してすぐ交代なりするはずなのにね』
『あのな……言っておくけど如月以外でも止めるからな?』
『ということは認めるんだね? わざと止めなかったって』
「……はぁ」
俺は頭に手をやりながらため息をついていた。
完全にやり遂げたと思ったのにまさか三木に指摘されるとは。
あいつは一体どこまで気づいているのだろう。
『まあ、否定はしない。止めるのが面倒だったし単なる出来心だ』
『確かにそれもあるかもしれないね。でも本当にそれだけなのかな?』
『というと?』
『例えば新入生に入部して欲しくなかった、とか』
そこまで行き着くか……
すぐさま俺は返信する。
『まさか。部長がそんなことをしてどうする』
『そうかな? 例えば、如月さん目当てで来る人を防止したいと思っていたりして。あれだと明らかに新入部員は入ってこれないからね』
多くの情報を与えたつもりはない。
そこそこの付き合いがあるせいで俺の思考が読まれているのだろう。
『分かった。俺の負けだ。確かに俺はそれ目当てで和田を止めなかった。でも間違った判断はしてないと思う。如月は見世物じゃないからな』
『へぇ。因みにだけどヤナギが思う如月さん目当てという根拠は?』
『明らかに運動部の髪型や筋肉をしているとか、何人かのグループで来るやつばかりだった。それに本当に将棋を指したいやつはうるさくても入ってくるだろ』
『一理あるね。和田の行動に耐えられるくらいの精神の持ち主でないとあの部活は務まらない。僕もそう思うよ。しかしほんと和田はいいタイミングで騒いでくれたね』
『そうだな。偶然騒がなかったら今頃どうなっていたか。和田に感謝したいくらいだ』
『つまり、好奇心に駆られた一年生にとっては運が悪かったってことだね』
『そういうことだ』
世の中の全てが運により左右されるとは思わないが今回はそのケースだった、ということだ。
『なるほど。僕が確認したいのはここまでだ。それじゃあまた明日。おやすみ』
おやすみ、と返事をしてからどっと疲れがきた俺は布団に身を投げ出した。
仮に、可能性を必然に近づけるにはそれに伴う行動が必要になる。
そして俺はその行動をしていない——ということになっている。
「……まさか和田を焚きつけた、なんて言えないよな」
天井を見ながら苦笑する。
和田が負けず嫌いなのは知っていた。
だから如月をぶつければどうなるか、なんて手に取るように分かってしまう。
「でも、如月には悪いことをしたかもな」
偶然を装ったが、要は俺の心の中にある複雑な感情によるものだ。
何故、新入部員が入ってくるのを止めようと思ったのだろう。
冷やかしがいるのは嫌だから?
これ以上人数が増えるのが嫌だから?
あるいは、如月と将棋を指す頻度が減るのが嫌だから?
いや、まさか。
全ては俺の気まぐれ、ということにしておこう。
後日、和田が騒ぐ原因となった団体戦があった。
ポジションだが、結局和田は先鋒に収まり騒いでいたことも嘘のように意気揚々と盤についた。多分あいつは将棋に限った戦闘狂なのだと思う。もしくは寝て起きたら忘れるパターンだ。
そして肝心の結果は可もなく不可もなく、といった具合だった。
初陣にも関わらず如月は快勝。
俺も善戦した。
最終的な結果は、聞かないでほしい。
俺たちが翌日も普段と同じ日常を送っていることから分かるだろう。
なんだよ、優勝常連校にあたるとか。
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