7話 勧誘
仲の良い二人組を覗き見しているような気になり、なんとも言えない気持ちになった俺は目を閉じていた——のだが、ふと、やけに周りが静かなことに気づいた。
細目を開けると、いつの間にか周りにクラスのメンバーはおらず、入園ゲート付近でぞろぞろと列を作り入場を始めている。
休憩時間は終わりか、とかっこいいセリフでも吐けたらいいのだろうが、そんな余裕はない。
置いていかれたら、通常料金で入場する羽目になる。
それだけは勘弁、と駆け足でゲートへと向かう。
本気で走らなくとも、なんとか間に合いそうだ。
すると、団体入場に滑り込むべく見覚えのある顔を数えていた俺の両眼が、ゲートから少し離れたところに如月がいるのを見つけた。
如月は列に並ばず、ゲートから少し離れたところでポツン、と立っている。
まさか、また遠慮しているのではないだろうか。
自分は他クラスだから、最後の方に入ればいいなどと考えているのかもしれない。
如月に、ちょっと振り返って泉を見てみろと言ってやりたい。
すぐ後ろでは何食わぬ顔で三木に白い歯を見せ列に混じっているのだから。
何も遠慮することはないのに。
「柳沢さん、どこに行っていたんですか」
俺が近づくと、如月の方から声をかけてきた。
「俺はどこにも行ってないぞ。ちょっと日陰にいただけだ」
「そうなんですか。私、探したんですよ」
「俺を?」
はい、と短く如月は答える。
「先生に頼まれまして、全員入るのを待っていたんです。柳沢さんが最後ですからこれで終わりですね」
そう告げると如月も俺の後ろに並んだ。
なるほど、そういうことだったのか。
……如月を信じなんて、俺は心が狭いのかもしれないな。
列の流れに任せて券を受け取り、俺たちはゲートを通過した。
心にはモヤモヤとした蟠りが残り、ワイワイガヤガヤと周囲が賑わいを見せる中で俺の思考がかき消される。
だから如月のこのセリフも聞き間違いかと思った。
「その、よければ一緒に回りませんか?」
確かにそう言ったと気づいたのは、ぼんやりとする俺の袖をくいくいと優しく引かれる感触があったから。
一緒に回る……
やぶさかではない。むしろウェルカムな方に俺の素直な心の天秤は傾いている。
しかし、ここに唯一の懸念事項がある。
周りに同じ学校の生徒がいるということだ。
あらぬ関係を噂されかねない、というか確実にそうなる。俺たちの年齢はゴシップネタを好んでするもので、真偽を問わずその情報は瞬く間に伝播していくのだから。ただでさえ如月は目に留まるのだから異性と二人きりでいるところを見られたものならば邪推されても致し方ない。
俺みたいな人間といることで如月の評判を落としたくはない、という意味もある。
「……一番仲のいい人の元へ行くことの何がおかしいのですか」
うぐっ、と俺は言葉に詰まってしまう。
確かに如月にとって周りは他クラスばかりだ。あまり知らない奴といても楽しめるものも楽しめない。
とりあえず一番仲のいい、という部分は置いておいておこう。
最適解を求めて脳はフル回転。
どうすればいい。
やがて、一つの答えが出た。
「……そうだよな」
俺の呟きに如月の顔が明るくなる。
「——では、」
「三木と泉も誘おう」
「…………そうですか」
……日和ったとでも何とでも言ってくれ。
二人きりだと俺の胃が悲鳴を上げることになる。
でも、如月にそんな顔をされたら……
気づけば口が勝手に開いていた。
「こ、今度の花見の件だけど、俺から誘ってもいいか?」
「……約束ですからね」
俺はこくこくと頷く。
はぁ、と小さくため息をつくと如月は声をいつもの調子に戻し、元気よくこう言った。
「それでは、二人を誘いにいきましょう!」
何か嬉しいことでもあったのか、日差しに照らされるその横顔はとても爽やかで、綺麗だった。
きっと、何だかんだで気軽に誘える相手が増えたことを如月も心のどこかで喜んでいるのだろう。
そんなことを考えながら俺は如月の後を追いかけた。
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