夢売ります

男は雑務に追われる多忙な日々を送っていた。平日は仕事に終われて土日は泥のように眠るというそんな生活だ。男はこんな乾ききった毎日の生活に潤いを求めていた。



そんなときに「夢売ります。」という看板を見つけた。

「何だろうこれ?」

その名の通りこの看板の店は夢を売るのだ。



夢を買えばその日に眠るだけで希望通りの夢を見ることが出来る。現実は楽しいことよりも辛いことや苦しいことの方が多いし、人は日々何かに悩み葛藤する。そんな現実から目を背きたい時だってある。



そんな人のために幅広いジャンルの楽しい夢をこの店が提供している。もちろん夢を売るのはタダじゃないので値は張る。みんなが気になるところのエッチな夢はとくに高い。だが1番需要が高い。みんな飢えているのかもしれない。



「ぐへへ、お客さん。夢を買っていきますか?」

気味の悪い店主が男に話しかけた。



「あ、いや何でもないんですよ。」

男は何か怪しい店だなと思った。そもそも夢を売るってどういうことなのだろうかと男は考える。



「お客さん、今の生活に満足してないでしょ。長いことこの仕事をやっているから、お客さんの顔色を見ればそんなのすぐに分かるさ。お客さんは疲れている顔をしている。」



「え?」

男は見事に言い当てられて困惑した。



「夢を買うと毎日楽しくなるよ。今回は無料にしておくからぜひ試していきなよ。ぐへへ。」



まあ、無料ならいいかと思い男は夢を買った。



「へへ、毎度あり。」

店主はニター…っと笑った



夢はランダムと指定の2つがある。ランダムだとその名の通りジャンルは選べるがどんな夢までは指定出来ない。指定を選ぶと自分の思い描く夢を見れる。ただし値段がかなり高い。なのでみんなランダムを選ぶ。男は初回だったのでランダムとなった。もちろんジャンルはエッチなものにした。



夜になった。男は今から眠るところだった。昼間に夢を買ったが本当に夢を見れるのか半信半疑だった。そして眠りについた。



翌日の朝…

「今日はムホホな良い夢を見れたから気分が良いぞ!」

本当に夢を見ることが出来たのだった。そして男は良い夢を見ることで生活に張りを与えてくれるんだと実感し始めた。



そして男は次第に夢を買うようになっていた。毎日寝るのが楽しみな生活となっていたのだ。いつしか夢だけを見て生きていたいと思うようになっていた。



だが夢は決して安くはないのだ。最低でも1万円近くはする。それに男は値段の高いエッチな夢ばかりを買っていたので財布の中身はすっからかんになっていた。



だがもう遅かった。男は借金をしてでも夢を買うようになってしまった。もうすっかり夢依存症になっていたのだ。もう男は夢なしでは生きていくことが出来ない体になっていた。



いつしか現実に戻ったと分かるとすぐに体調が悪くなってしまう。そして借金はどんどん膨らんで500万円になっていた。



借金を返そうにも男は仕事をやめて返すことが出来なかった。夢を見ている時間は熟睡出来ていないのだ。



夢を買ったことによって浅い睡眠が朝方まで続く。なので熟睡出来ていない体で仕事なんて出来なかったのだ。だから仕事をやめてしまったのだ。



男は悪循環に陥って夢廃人になってしまったのだった。今では1日のほとんどを寝て過ごしている。このままだと死も近いだろう。



夢だけ見ていても現実は生きてはいけません。何事もバランスというものが重要です。この人みたいにならないようにしましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る