【小説】親に内緒でゴキブリを飼った話

自分は昔からゴキブリにどこかカッコ良さのようなものを感じていた。でもみんななぜゴキブリを嫌っている。自分の親もゴキブリのことを気持ち悪いとか汚いとか言っていた。どうにもゴキブリは不人気らしい。


ある時、自分は親に内緒で家の中でゴキブリを買うことを決めた。台所に出てきたゴキブリを手で捕まえて虫取りかごの中に入れた。こいつが最初の1匹だった。ゴキブリを捕まえて自分は嬉しかった。カブトムシを捕まえるのと同じぐらいに嬉しかった。というかゴキブリってちょっとカブトムシに似てるよね。


自分は家の中のゴキブリじゃ、飽き足らず外に出てゴキブリを捕まえに行くようになった。ゴキブリを捕まえては虫かごの中に適当に放り込んでおいた。今日も大漁大漁!自分は満足して家に帰る。


ある時、子ども部屋にゴキブリが大量に出現していた。「あれ?」と思い、虫かごを見てみると空いてることに気付く。これはまずいと思って急いでリビングに行ってみた。


案の定リビングにも大量のゴキブリがいた。お母さんはゴキブリが気持ち悪くて泣き叫ぶ。お父さんは殺虫スプレー撒き散らしていた。

「この野郎!害虫共がどこから涌き出て来やがった!」

お父さんは怒りのスプレー攻撃をゴキブリにかましていた。


自分は大切にしていたゴキブリを殺されるのが嫌だったので、お父さんにスプレーをかけさせるのをやめさせようとした。

「お父さんやめて!そんなことしたら僕のゴキブリ達が死んじゃうよ!」

せっかく苦労して捕まえたゴキブリたちを殺されるのがどうしても嫌だった。


「お前何すんだ!自分がやっていることが分かっているのか!」

お父さんは自分を振りほどこうとしている。


「やめてー!」

自分も必死に振りほどかれないように食らいつく。


「なんでそんなことをするんだ!お前、まさか!内緒でゴキブリ飼っていやがったな!何てやつなんだ!子どものおふざけじゃ済まされないぞ!」

自分はお父さんにおもいっきり蹴られてしまった。そしてそのまま気絶してしまった。


自分が目を覚める頃には、家の中からゴキブリが1匹たりともいなくなっていた。自分はものすごく泣いた。どうしてゴキブリを殺しちゃったんだと親を憎んだ。自分は時を少し経てこう思うようになった。ゴキブリの恨みはゴキブリで晴らすしかないと。とにかく認めてもらえるまで何度でも家の中にゴキブリを放ってやると強く思った。


それから自分は外でゴキブリを捕まえては家に放した。それを何回も何回も続けた。親に何度も怒られたけど、何回もやった。


すると親から

「ちょっと話があるからちゃんと聞け。」

と真剣な感じに言われた。自分はゴキブリを飼うのをとうとう認められたと思った。しかし、親から衝撃の言葉が飛び出てきた。


「お前はお父さんとお母さんの家からとうぶん出てってもらうことになった。明日からお前にはゴキブリの出ない北海道に住んでもらう。ある知り合いの家でめんどうを見てもらうことになったから。」


「え…」

自分は気持ちの整理もつかないまま北海道に飛ばされた。そして自分はゴキブリをとにかく憎む家庭に放り込まれた。


「おめぇーがゴキブリ大好き人間だな?まったく反吐が出るぜ。お前にはこれからゴキブリが悪だということを骨の髄まで徹底的に教え込んでいくから覚悟しろ!」

それから厳しい日々が続いた。毎日毎日ゴキブリが嫌になるような話を聞かされた。24時間ずっとゴキブリ憎しの思想を叩き込まれた。


北海道に飛ばされてから1年が経過していた。いつしか自分はゴキブリを触っていた過去の自分がバカに思えてきた。それから自分はゴキブリ憎しに変わっていたのだった。早くゴキブリを退治したくてしょうがなくなっていた。


そして…

「もうお前は立派な戦士だ。家に帰ってお父さんとお母さんを安心してやれ。」


「はい。」

自分は元の家に帰ることを許されたのだった。


そして家のたどり着いた。

「我が息子よ、とうとう帰ってきたか。すっかり戦士の顔つきだな。」


「父さん、お久しぶりです。」

ピロリン!

親との久しぶりの再開だったが、この時自分はこの家のゴキブリの生体反応を捉えていたのだった。


「お前、急にどうしたんだ?」

父親が心配そうに見ている。


「ひーふーみー…この家の中に大量のゴキブリがいる!」

そして素早くリュックから殺虫スプレーを取り出した。


「まさかそこまでの境地に達していたとは、お前もりっぱになったなぁ…」

父親は泣いていた。


「ゴキ・即・射!」

の名の元に自分は家の中のゴキブリを見つけては殺虫スプレーを片っ端からかけていった。


その後も少年は全国のゴキブリを根絶やしにするべくどこへでも飛び回った。少年はゴキブリを根絶やしにすることは出来なかったが、死ぬまでゴキブリ憎しを貫いたんだとか…

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