元人間のニャンコ
「おい、にゃん太郎! お前何してやがる!」
猫が風呂上がりに器用に前足を使って体をタオルで拭いていた。
まるで人間のようだ。
「お前はいつから前脚を使うようになったんだ!」
「なんなんだにゃ、さっき会ったばかりの俺にタメ口なんて馴れ馴れしいにゃ」
そうなのだ、この人間は猫と以前から知り合いかのように話しかけているが全くの初対面。
「にゃん太郎! 俺のことを愛してるんじゃないのか! なあ、あの誓いは嘘なのか!?」
「なんだこの親父、キモッ! 絶対危ないやつに違いないにゃ。そんな誓いは知らんにゃ」
前足が器用なにゃんこは、そのまま二足歩行でどこかへ歩いて行く。
「おい、にゃん太郎! ここは俺の家だぞ! よく考えてみたら、何でにゃん太郎が俺の家の風呂に勝手に入ってるんだよ!」
「別に入ったって良いじゃないかにゃ。だって体が汚かったんだもん。それに風呂に入ったって減るもんじゃないしいいじゃにゃいか」
「にゃん太郎! ネコは普通お風呂が嫌いなはずだぞ! ちゃんとネコを全うしろよ、にゃん太郎!」
「あっち行ってにゃ!」
にゃん太郎は濡れた体を拭いたタオルを肩にかけて、おっさんみたいにそのままソファーでくつろぎ始めた。
「いやー、極楽極楽だにゃ~」
「なにくつろいでんじゃ! ここ俺ん家だから!」
「さっきからうるさいにゃ。せっかく良い気分なんだから邪魔しないでにゃ」
なんとこのにゃんこ、ソファーでくつろいでテレビをつけているではないか。
「ギャハハ! このお笑い芸人ウケるにゃ!」
「おい、にゃん太郎…。お前何飲んでんだよ…」
「ああ、これはビールにゃ。冷蔵庫にあったから飲んでるにゃ」
「いや、それ俺が楽しみにしてたビールだぞ!」
「そんなの関係ないにゃ。だってあったんだから早いもの勝ちだにゃ!」
「いやいやいや、俺が買ったやつだからそれ!」
「じゃあ買ったっていう証拠がどこにあるんだにゃ?」
「いやそれは…」
「ちゃんとビールに自分の名前書いとかないとだめだにゃ! ごくごく、うめーにゃん」
「にゃん太郎、お前ってやつは…」
「まあまあそう怒るにゃよ。お前もリラックスしてビールを一緒に飲むにゃよ」
「話を逸らすなよ、にゃん太郎!」
とは言いつつ、おっさんも一緒にニャン太郎とビールを飲み始めた。
にゃん太郎と一緒に昼間からビール飲んでたら楽しくなってきた。
「にゃん太郎! どんどん飲みやがれ! 俺がビール注いでやるよ! ギャハハハ!」
「やっぱりビールは人生を輝かせる最高のスパイスなんだにゃー!」
おっさんとニャン太郎は肩を組んで謎の踊りを始める。
完全に酔っ払ってしまっていたのだった。
「それにしても、にゃん太郎。お前マタタビじゃなくてビールで酔っぱらうんだな!」
「ワシにはマタタビなんていらんのにゃ! やっぱりビールが一番最高なのにゃ!」
「にゃん太郎…」
「なんだにゃ?」
「お前人間くせえなぁ…」
「ぎくり!?」
まさか、正体がバレたか!?
にゃん太郎、実は元人間なのだ。
「どうした、にゃん太郎?」
「実は、その…」
「酒の席なんだしなんでも言っちまえよ!」
「実はもともと人間だったのにゃ」
「なるほど。。。マジで…!?」
「本当にゃ」
「どうりで人間臭い訳だ。ギャハハハ!」
「笑い事じゃないにゃ! このまま人間に戻れなかったら嫌だにゃ!」
「別に人間に戻らなくてもいいんじゃねか?」
「なんでにゃ!」
「だってその方がみんなにも可愛がられていいだろう」
「まあ確かにそういう考えもあるにゃ」
「にゃん太郎はどうしても人間に戻りてぇのか?」
「戻りたいか戻りたくないかで言ったら戻りたいという気持ちの方が強いにゃ」
「そうか、じゃあ一緒に人間に戻れる方法を探すか」
「本当にゃ!?」
「ああ、人間に戻るまでの間はこの家に住んでいいぞ」
「やったにゃ! でも、もし人間に戻った時はどうにゃるにゃ?」
「いや、自分の家に帰れよ」
「実は自分の家がないにゃ!」
「そうか、じゃあその時はお前を捨てる」
意外と冷たいおっさんであった。
「どうして捨てるにゃ!?」
「だってお前、元はおっさんだろ? おっさんを住まわせる訳にはいかねぇよ」
「ふざけるにゃー!」
おっさんは、にゃん太郎に顔面を引っ掻かれる。
「痛ってぇー! なにしやがる、にゃん太郎!」
「お願いだから捨てないでほしいのにゃ!」
「うーん、そう言われてもなぁ…」
「頼む、この通りにゃ!」
にゃん太郎は手を合わせて拝んでいた。
「よし、じゃあ」
「うん」
「人間に戻るな」
「ええ…」
「そしたらずっと住んでいいぞ」
「わ、分かったにゃ…」
結局にゃん太郎はネコのままであった。
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