マウント合戦
「ぐへへ、ざまぁーwww」
自分はSNSで人生が詰んでいる人のつぶやきを見るのがものすごく好きだ。
なぜなら自分も決して恵まれた人生を送っているわけではないからだ。
自分よりも下の人間がいるということを実感するだけで安心が出来る。
自分はこいつに比べればまだマシなんだと思うことでこの辛い現実も生きていける。
もはや自分よりも下の人間を見下していないと生きていくことは出来なくなっていた。
それは自分に自信がないからに他ならない。
「ひえー楽しいwww 酒でも飲むか」
自分は不幸な人間を見て、それを肴にして酒を毎日嗜んでいる。
もちろん飲んでいるのはアルコール9%もするような缶酎ハイだ。
それを飲んでベロベロになるまで酔って現実を忘れる。
これを毎日やってやっと自分はこの世界を生きることができる。
あー気持ち良い。頭がバカになっちゃった~
いや、もともとどうしようもないバカだ。
結局SNSで他人を見下して安心していても、無意識のうちに他人の不幸を自分と重ねて不安になるのだ。
けど、それでもSNSを見るのがやめられずにいた。
SNSを見るのは悪いと心の底では思っているが、かと言ってSNSがなかったらそれはそれで困る。
SNSがなかったのなら自分は社会の最底辺なんだと思い込んでとてもじゃないけど生きていくことができなかったかもしれない。
正直もう自分はSNSがあろうがなかろうが、どちらに転んでも終わってしまっているのだ。
「ぐがががぁ…。すぴー」
そして自分はそのまま酔いつぶれて寝てしまうのだった。
「あれ、ここはどこだろう?」
自分は喧騒とした街の中にいた。周りの人達はみんな忙しそうに道を行き交っていた。
自分はその道の真ん中で立ち尽くしていたのだ。
すると、自分の前方の向こうから誰かがやってくる。
そしてやってきた人間がすれ違いざまに耳元で囁いた。
「いやー、お前のような社会の最底辺がいて本当によかったよ。そのおかげで俺は自分はまだマシだって思えるからな!」
「え…!?」
自分は急な出来事に訳も分からずに立ち尽くしていた。
その人はどこかへ去っていった。なんかものすごくモヤッとした気分だ。
クソッ…。なんなんだ!
時間が経つほどにさっきのことを思い出して気分が悪くなってくる。
知り合いでもなんでもないただの通行人になんで酷いことを言われなければならないのか。
自分は全然社会の最底辺でもなんでもないと思い込みたかった。
すると、また自分の前方方向から誰かがやってくる。
そしてその人もまたすれ違いざまに悪口を言ってきた。
「なぁ、俺はもしもお前の人生を生きていたらと思うと恐怖するね。お前の人生が自分の人生だったら、自分はとっくに死んでるだろうなー」
「ぐっ…」
すぐにそいつも去っていった。悔しいが何も言い返せなかった。
言い返す勇気がないからだ。どうしてこんなに酷いことが言えるのだろうか、もうやめてくれよと思った。
するとまた前から違う人が自分に向かってやってくる。
「お前そんな人生送ってて楽しいの?」
「………」
一体何なのか? 次から次へと知らない人が自分の所にやってくる。
「お前のようなクソ底辺がいて本当によかったよ」
「ぐっ…」
「俺ってお前と比べたらまだまだマシなんだな! 俺がお前だったら恥ずかしくてとてもじゃないけど生きていけねぇな」
「うわあああ! もうやめてくれ!!」
「生きてちゃダメだ! お前は生きてちゃダメなんだ!」
「いやああああ!!!」
通りすがる人はみんなして自分をいじめてくる。
そうなのだ、自分も所詮は見下される側の立場なのだ。
自分がいくら自分よりも下の人間を見下したところで自分よりも上の人間もたくさんいるのだ。
自分はそういう人たちから馬鹿にされる立場だったのだ。
そして、このように上の人が下を見比べるという関係は、まるで無限に思えるかのように続いている。
もちろん自分を見下している人間もさらに上の人間に見下されている。
……………………
「はぁ…!? 夢か…。 ぐっ…」
頭がものすごく痛い。どうやら自分は酔ったまま寝ていたらしい。
それにしても何とも胸糞悪い夢だった。
「………」
いつも通り起きてすぐにSNSを開く。でも何だか気分が悪かった。
自分はそのままアカウントを消した。他人との比較に疲れたからだ。
もう人を見下すのはやめだ。そんなことをしても自分は1ミリも幸せになんてなれない。むしろ幸せが遠ざかっていく。
そんな単純なことにやっと気付く。でもこの単純なことがものすごく難しい。
上を向いても下を向いてもたくさんの人がいるからキリがない。
普通の人生を生きるなら他人と比べずに昨日の自分を超えることだけを考えて生きるのが一番いいのだ。
昨日の自分だけには絶対に負けねぇ…
今日も社会に立ち向かっていくのであった。
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