ナイフを持ったおじさんが家の前に立っている

 ピンポーン!ピンポーン!とインターホンの音が鳴る。


「なんだろう?」


 自分はインターホン越しの映像を見てみると外に知らないおじさんが立っていた。


「え、本当に誰だろう? 見たことないおじさんだぞ」


 そのおじさんの手をよく見てみるとナイフを持っていた。

 おいおいおいおい、これはやばいだろう!


「あ、もしかしたら知り合いが来たかもしれないから代わりに出てくれない? お母さん、今忙しいからさぁ」


 お母さんがそう言った。いやいやいや、絶対このナイフ持ったやつは知り合いじゃねえっての。

 ナイフを持ってやってくる知り合いとか絶対にやばいやつだろう。


「あんた、何で出ないの? じゃあお母さんが行くからいいよ」

「お母さん!」

「なに?」

「今は外に出ない方がいいよ!」

「なんで?」

「なんか頭のおかしい奴が外にいるからさー」

「え、なに? 頭のおかしいやつは突然そんなことを言い出すアンタでしょ」


 このクソババァ…! こちとら本気で危険だから言ってやってるのに…!


「まあとにかく今は忙しいから代わりに外に出てくれない?」

「いやだよ! 殺されちゃうかもしれないよ !」

「あんた、本当に何言ってんの?」

「だから、殺されちゃうよ!」

「そんなわけないじゃないの」


 ダメだ、いくら話しても聞く耳を持ってくれない。


「とにかく出なさい!」

「え、ええ…」


 ち、もうナイフで殺されても知らないから!

 あとで文句を言っても遅いからな。自分は仕方なくドアを開けた。


ガチャ

「…………」


 ナイフを持った小さいおじさんがそこには突っ立っていた。


「おい、お前何をしているんだ」

「…………」


 話しかけても答えてくれなかった。その時だった。


「おいおいおい、お前何してんだよ」

「…………」


 なんと、その小さいおじさんはナイフを持った状態で家の中に入ってこようとしてきたのだった。

 こいつは何を考えているか分からないし明らかにやばいやつだろう。


「お前いい加減にしろよ!」

「…………」


 自分はナイフを持った小さいおじさんを外に出そうとする。


「おいさっきから何黙ってんだよ! 何とか言ってみろよ! この殺人鬼が!」

「…!?」


 そう言うと、おじさんはスッと力が抜けた。

 そして簡単に外に押し出すことができた。おじさんはそのまま後ろを振り向いてうずくまってしまうのだった。

 そして親がやってくる。


「ちょっとお母さん、なんかやばい奴がいるんだけど! 警察に通報して!」

「早かったじゃない! 頼んでいた包丁を持ってきてくれたんですね!」

「え? どういうこと?」

「……………。グスッ…」

「あれ? おじさんどうして泣いているの?」


 お母さんはおじさんに近付く。おじさんは後ろを向いたまま、うずくまって静かに泣いていた。


「ちょっとアンタ、おじさんに何したの?」

「え?」

「まさか、さっき変なやつとか殺人鬼とか言ってたけど、おじさんのことじゃないよね?」

「え…? いや、どうかな…?」

「グスッ…」

「アンタ、おじさんに謝んな!」


 どうやら自分があまりにも酷い言葉ばかりを投げかけたので、思わず泣いてしまったらしいのだ。

 どうやらこのおじさん、あまり喋るということは得意じゃなかったようだ。

 でも職人としての腕は確からしいのだ。自分は泣いているおじさんに近付く。


「嫌なんだ、その、僕が悪かったです…」

「ぐすっ…」

「あの…。本当にごめんなさい…。おじさん…」


 自分も泣いて謝った。おじさん、本当は優しい人なのに酷い言葉をぶつけて傷付けてしまった。


「あの、これからもお母さんにナイフとか包丁を作って下さい…」

「グスッ…」


 とにかく泣いて謝った。そしておじさんも相変わらず泣いている。

 でも多分許してくれたような気がした。おじさんは泣きながら親指を立ててサムズアップをしていたからだ。

 おじさんはその後、包丁をお母さんに渡して帰っていった。

 とにかく今までに出会ったことのないような不思議なおじさんだった。

 ここまで人見知りだと、一体今までどうやって生きてきたのだろうか?

 だが、職人としての腕は確かなのだろう。お母さんもおじさんに造ってもらった包丁を使ってみて、偉く気に入っていた。

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