捕まったら1000万円取られる鬼ごっこをした③(終)

「クソ! 油断した」

「お前ら追いかけるぞ!」

「おう!」

「おりゃゃゃゃゃ!」


 自分は全速力で走る。


「でもお兄さん、降りてきて良かったのかな?」

「あ?」

「だってお兄さんは降りても僕たちはずっと追いかけ続けるよ? 制限時間も決めてない。果たして逃げられるかな?」

「おー、そうか。なら早く捕まえないと逃げられちゃうかもよ?」

「何言ってるの? 」


 自分は保育園の入り口まで全力疾走する。


「まさか!?」

「そうだよ、もう鬼ごっこはおしまいだ。そしてもう俺は2度とここには来ないから会うのもこれで最後だ! おりゃああああ!」


 自分は柵を飛び越えた。身長的には保育園児は来れないだろう。


「さっ、柵をよじ登れるもんなら登ってみろよ」

「卑怯だぞ! 鬼ごっこは保育園内だけのはずだろ?」

「誰がそんなことを決めたんだ? 最初から一言も保育園内だけなんて言ってないよな?」

「クッ…」

「それに卑怯なのはお前らだ。いきなり鬼ごっこで捕まえたら1000万円もらえるなんてそんな都合の良い話があるもんかよ」

「ま、まだ職場体験中だろ!? 戻ってこいよ! お前は戻ってこざるをえないんだよ!」

「え? なんだって?」


 鼻をほじりながら答える。


「お前、戻って来ないと先生に言いつけてやる!」

「勝手に言えよクソガキがぁ! 大人の本気をなめんじゃねぇ!」

「え!?」

「俺がそんなのでビビると思ってんのか? 俺は何度もバイトや学校をバックレたことがある。どうせこんなクソ保育園には2度と戻って来ねぇから好きにしろ」

「お前、大人として恥ずかしくないのか!」

「お前何か勘違いしてないか? 1000万円取られそうって時に恥ずかしいとか恥ずかしくないとか、そんなプライドを持ってるやつは三流以下だ」

「な、なにをー!?」

「お前、社会に出ても負け続けるタイプだな。お前はクソ以下のプライドを持ち続けて一生社会で負け続けろよクソガキ!」

「そこまで言わなくてもいいじゃんー! うわーん!」

「おいおいおい、社会では泣いても誰も気にかけてくれねぇぞ? それに泣いてもミスを許される訳じゃねえんだ」

「うわーん!」

「それにな、社会に出たら甘えさせてくれる優しい先生もママもいないぞ?」

「うわあーーーーん! うわあーーーーん!」

「泣くんじゃねぇクソガキ! 泣いてる暇があるなら1000万円を手に入れるために1秒でも多く捕まえる努力をしやがれってんだ!」

「うわーん!」

「そうやって一生泣いとけ、この負け組が! バーカ!バーカ!」


 自分は地獄の保育園から脱出したのだった。


「くそ、こんな保育園にマジで2度と来るか! 本当に1000万円取られるところだったぞ!? バカか! 職場体験でお金取られるとか笑えねぇよ!」


 なんとか1000万円は取られずに済んだのだった。

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