世界は移り変わっていく③(終)

 実家から帰ってくる夜行バスで自分は不思議な夢を見ていたのだった。昔優しかったおじいちゃんとおばあちゃんが実家の居間に入る夢を見ていた。

 もう2人はとっくに死んでしまっているけれど、当時と変わらず優しい声で「おせんべいでも一緒に食べよう」と言ってくれた。

 そして一緒に食べていた。でも自分はこれを夢だと気付いていた。なのでなんだか涙が出てきてしまっていたのだった。


 おじいちゃんとおばあちゃんが住んでいた家はもう更地になってなくなってしまった。

 そうなのだ、実家ではお父さんとお母さんはなかなか構ってくれなかった代わりにおじいちゃんとおばあちゃんがめんどうをみてくれたのだ。

 そしてそんな実家がなくなってしまって、申し訳なく思っていた。お父さんもお母さんもどこに行ってしまったのか分からない。

 色んな思い出がふつふつと沸いてきて、こみ上げるものもあり自分は泣いていた。そんな自分を見ながらおじいちゃんとおばあちゃんは微笑んでいた。


「大丈夫だよ、お前の生きたいように生きればいいんだよ」

 そう言い残すとまるで 幻を見ていたかのように綺麗さっぱりと消えてしまったのだった。


「待ってよ」

 それは砂漠に映る蜃気楼みたいな感じだ。いくら手を伸ばしてもすり抜けて届かなかった。

 そしてその夢のシーンを最後に目が覚めた。まだバスは目的地には着いていないようだ。

 目的地に着くまではまだまだ時間が空いていた。でも自分はこれ以上は眠れなさそうだなぁと思って後の窓から外の景色を眺めていた。

 そして窓の景色を見ているとなぜだか自然と涙がぽろぽろとこぼれていたのだった。

 実家のあった街が離れていく度に涙が止まらない。 さすがに他の乗客に泣いている声を聞かれるのはまずいので、ひっそりと外を眺めながら泣いていた。

 ポロポロと涙が出てきて止まらなかった。抑えようとしてもポロポロと出てきてしまうのだ。

 本当に今日まで生きていて色んな物をなくしてきたんだなぁということを再認識した。

 大事なものを毎日ちょっとずつ捨てて明日へと向かっていくというのが生きていくということなのかもしれない。


「はぁ…」

 出来ることならあまり裕福ではなかったが綺麗な思い出ばかりだった幼少期に戻りたいとすら思っていた。

 おじいちゃんとおばあちゃんの夢を見てからおじいちゃんとおばあちゃんのことばかりを考えていた。

 二人の最期の事を思い出すと自然と涙がさらにポロポロと出てきた。実家に帰ったことであまり開けたくなかった過去の扉を開いてしまったような気がした。

 その扉を開けたらもう現実と向き合わなければいけない。今まで何もかも嫌なことはすべて忘れて生きてきたが、とうとう現実と向き合わなければいけない時が来たのだと思った。


 そして何時間かして夜行バスは目的地へと着いたようだ。バスから降りると自分はコンビニへと向かった。

 そこでおせんべいを買った。私はそのまま河川敷へと行って、朝焼けの中でせんべいを3枚ほど袋から取り出す。


「おじいちゃんおばあちゃん、一緒におせんべいでも食べようよ」

 と言って自分はせんべいを一口かじった。実家のなくなった今、おじいちゃんとおばあちゃんの仏壇ももうない。

 なのでベンチにせんべいを二つお供えした。優しくて寂しい朝焼けに照らされながら、せんべいを食べた。

 食べ終えたら、またいつもの日常へと戻っていくのだ。いや、毎日は少しずつ何かが変化している。

 もういつもの日常なんて帰ってこない。時というのは毎日生きる者と生きられない者を選別している。

 けれど、たとえ家族と離れ離れになっても心ではずっと繋がっている。時と場所の隔たりがいくらあろうともだ。

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