ヤドカリに貝殻を売る男
「おっ、こっちにもあっちにも良い貝殻が落ちているぞ。これは良い家になりそうだな」
自分はヤドカリに貝殻を売って生計を立てている。ある日から自分の家にヤドカリがやってくるようになったのだ。
ヤドカリに貝殻をあげると貴金属や硬貨などのお札を持ってやってくるのだ。それからというもの、ヤドカリが来たら自分はすぐに貝殻を並べて用意する。
「いらっしゃいませ~」
「兄ちゃん、良いの入ってるね! この貝殻もらってくよ」
そしてヤドカリが気に入った貝殻があったら、それを持って行ってもらう。そしてヤドカリはお金を置いていって商売が成立しているという感じだ。
「ありがとうございました」
「またよろしくな~」
自分も最初は普通に仕事をやっていたのだが、ある日に精神を病んでしまった。
「うう…。もう働くの無理ぃ…」
そして療養のために海の近くの家に引っ越すことにした。そこでは仕事もせずにのんびりと過ごしていた。
けれどもお金がないとやはり生活はできないので、どうにかお金を稼ぐ方法はないのかなと思っているところに自分が持っていた貝殻の所にヤドカリがお金を持ってやってきたのだ。
「いや、お金をもらうなんてとんでもない」
「そうかい? あんちゃん、困ってそうだったからついな。まあ貝殻のお礼ってことで置いてくぜ」
「あ、ありがとうございます!」
そして、たちまち自分はヤドカリ界隈では人気の貝殻売りとなったのだった。今はヤドカリ達のおかげで、なんとか生計を立てられている。
「よし、今日も良い貝殻を探しに旅に行ってくるか」
自分はヤドカリ達のためにも一生懸命良い貝殻などがないか探していたりする。そして見つけ次第、店頭に貝殻を並べるといった感じだ。
人間相手に商売をやっていないので気楽な感じもある。やっぱり人が相手だと、どうしても緊張をしてしまう。
でも相手がヤドカリだとそんなに緊張はしない。だからといって仕事に手を抜くこともしない。
「あんちゃんの貝殻はいつも良いのあるな。すごいよ! 友達とかにも勧めておくよ!」
「ありがとうございます!」
自分はヤドカリのために一個一個丁寧に貝殻を選んで拾ってきている。やはりヤドカリ達から、お金をもらうからには手を抜くことなんて絶対にしない。
そもそも手を抜いているかどうかなんていうのは相手にすぐに分かってしまう。野生の感を持っている生物なら、なおさらだろう。
自分は真剣に良い貝殻を拾ってきたからこそ、ヤドカリ達に自分の商売が広まって、なんとか店に来てもらえるようになったのだ。
それに仕事で手を抜くのは長期的に見たら絶対に損をする。相手に「いい加減に商売をやっているんだな」ととられてしまえば、それっきり来なくなってしまうからだ。
「あんちゃん、今日は良いもの持ってきたぜ」
「え?」
ヤドカリは、たまにお金ではなく宝石を持ってきたりしてくれることもある。
「いやいや、こんな高価なものは受け取れません!」
「ダメだ! ちゃんと受け取れ!」
こんなに高価な宝石をもらっていいものかと思うこともあるが、ヤドカリ達は喜んで宝石を差し出してくれる。
本当にありがたい。自分はただ貝殻を拾って並べているだけだというのに。ヤドカリ達には、たくさん良い思いをさせてもらっているので、その分自分もヤドカリ達に何かできることをしたいと思っている。
だから自分はよく海岸の掃除をしている。
「ふーっ、やっぱり海はキレイな方が気持ち良いや」
「おー、あんちゃん。今日も海の掃除ご苦労だなー。本当に良いやつだなー」
ヤドカリたちが間違ってプラスチックなどを貝殻の代わりにしてしまわないように掃除をしているのだ。
こういう地道な活動が巡り巡って、最終的には自分のためになると思っている。とりあえず、ヤドカリ達にはこれからもご贔屓にさせていただきますよ。
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