私は傀儡人形
「あー、ベロベロベバー! ベンベンベロバー!」
「はいダメ」
私は役者だ。ただの傀儡人形だ。感情は持たない。ひたすら与えられた役になりきるだけだ。
監督とかにいくら怒られても、ただ言われたことをやるだけだ。
「すいません」
「君やる気あるの?」
「はい」
「まあとにかくまたやってよ」
傀儡人形になりきる。どんなにストレスを溜めようと顔にも表情を出さない。役者である以上、自分は出さない。
それが自分のポリシーなのだ。あくまでも作品の一部となりきるように最大限の努力をする。
そんな生き方をしているからなのか私生活でもそういう影響が出てしまっている。
「あーあ、なんか最近は何やっても楽しくない。私って何のために生きてるんだっけ?」
最近は毎日何をしても無表情だ。大体は相手優先というのがベースになって生きている。
それをベースに生きているからなのか、他人の感情を読むのが非常に上手くなってしまった。
今他人がどうして欲しいかとかが、やんわりだが分かってしまうのだ。この人は笑ってほしいんだなーって思ったら笑う。
この人は悲しんでほしいんだなぁと思うなら悲しむ。自分でも思うけど本当に悲しい人間になってしまったなと思う。
まるで他人に都合の良いお人形なのだ。その仕事での癖がプライベートでもすっかり染みついてしまった。
「ゴラー!」
「すいません」
「ちっ、使えねぇゴミだなぁ…」
「すいせまん」
そして自分はもう怒られることも貶されることも何も感じなくなってしまった。とにかく自分は空っぽでいなければいけないとそう思っている。
そしていつの間にか本当に自分は空っぽの人間になってしまった。
「あーあ、何て殺風景な部屋なんだろう。自分の部屋は…」
自分の部屋には物が何一つ置いていない。あるのは布団とかそういう最低限のものだけだ。
とにかく何も執着がないのだ。お金はほとんど飲み会とかに費やされてしまう。自分は飲み会が好きとかそういうわけではない。
何もかもこれは仕事のためだ。全部仕事関連にお金を使っている。そして最終的には何も残らない。まさに自分の目の前に映る殺風景な何もない部屋みたいだ。
自分は何もない空っぽな人間なのだ。けれど、だからこそ何色にも染まることが出来るのではないかなとも思う。
だって空っぽの方がすぐに物を置くことができる。だいたいそんな感じだ。自分もすぐに新しい物を自分の中に取り込むことができる。
そしてすぐに捨てる。ただ自分は色んな物を捨ててきた。もう友人関係とかそういうものは一切持っていない。
自分にあるのは本当にこの役者という仕事だけだ。仕事にプライベートなんてものは一切持ち込まない。
そんなこんなで役者一本で生きてきたからプライベートの楽しみ方なんていつの日か忘れてしまった。
この何もない家でやることなんてただぼーっとしているだけだ。本当に仕事をするだけのロボットになってしまったのかもしれない。
自分はこんなことをするためにこの業界に身を置いているのだろうか?
「あれ? 生きるってなんだっけ? 人は何のために生きるの? 生きるために仕事をしているの? 仕事をするために生きているの?」
もうどっちが本当なのか分からなくなってしまった。自分は間違いなく仕事をするためだけに生きているような感じだ。
今この部屋でぼーっとして何もしていないのが何よりの証拠だ。自分は何のために生まれて、何のために生きているんだろうか?
とりあえず自分の中にあるものは仕事だけだ。何もかも捨ててしまった自分には仕事以外にやることはない。
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