第7話 衣装専門店
店に入ると、仮装用の衣装が並んでいた。とても品揃えがいいようだ。
「おじいちゃん〜いる?」
「のう?ルルちゃん。その人達は一体?」
「旅の人たちだよ。私を魔物から助けてくれたんだ。」
「初めまして、俺はマサル・ユウドウだ。よろしくな」
「トレカ・メガミです。」
「オルカマンと申す。」
「おお。孫を助けてくれてありがとうございました。お礼と言ってもなんですが見て行ってくださいな。」
「喜んで!」
俺たちは物腰の柔らかい爺さんに連れられ衣装を吟味する事にした。話によるとここの衣装は全て爺さんが仕立てた物らしい。
「お、似合ってるな」
「えへへ…ありがとうございます。」
妖精の仮装をしたその姿はとても可愛らしい。
「まるで、ガーディアン-エルーマになったみたいです。」
…こうしたマイブームはいつか冷めるもの。それまで暖かく見守ってあげよう。
〜〜〜
つられて店に入ったものの、先程の事が許せないでいる。私はみんなの夢を壊さぬためマスクをつけているのだ。それを取ろうとする輩はたとえ少年でも…
「オルカマンといったかの?お主も仮装してみるかい?」
さっきの爺さんが声を掛けてきた。
「私はマスクを外さない主義でね。遠慮しておく。」
「お主、何か訳がありそうじゃな。」
「…何も無い。」
沈黙の後、爺さんは何かに気付いたように口を開いた。
「昔、悪行を働いていたのじゃろ?」
「何故それを…」
「ワシも仕立て屋をやる前、スリをしておってな。なんとなく同じものを感じたのじゃよ。」
「ああそうだ。私は元悪党だ。そんなやつが正義の味方など名乗れるはずが無い。だからマスクで顔を隠したのだ。」
「罪はどこまでもついていくというからの。お主の主張も間違いではない。ワシも刑務所から出た時は顔を隠しながら生活していたのじゃ。」
爺さんは椅子に座り語り出した。
「じゃが、そんなワシを必要としてくれた恩人がおっての。ある日、「店先に出てみたら?」と言われたのじゃ。その時は断ったのじゃがある日、店先に出なくてはならない時があってな。その日は嵐で客はほとんどいなかった。そんな時、見覚えのある顔がやってきての。ワシを捕まえた警察官じゃった。」
「最初は嫌そうな顔をしていたが、覚悟を決めたようでの「急ですまないが、この制服を縫ってくれないか」と依頼してきたのじゃ。縫い終えた品物を渡すと礼を言わずそそくさと帰っていったのじゃが、1週間後ポストにワシ宛ての手紙が入っていての。」
〜「ありがとう。君のお陰で式典で恥を欠かずに済んだ。これからもいい仕事をよろしく頼む。」〜警察官より〜
「この手紙を皮切りにこの店によく足を運ぶようになったのじゃ。ほれ、あそこに写真が飾ってあるじゃろ」
「あれか。いい写真ではないか。」
写真には2人の老人が笑顔で写っていた。
「これは10年前、そいつが最後に来た時に撮った写真での。笑顔が素敵じゃろ。」
「おっと話が長くなってしまったの。つまり今正しいことをしていれば過去の因縁も変えられるということじゃな。」
「お主は良いお方じゃ。ワシの孫を救って下さったからの。きっとマスクをとって人と向き合える事も出来るはずじゃ。」
マスクを取るなど夢を壊すに等しい行為だ。でも、爺さんが言った通り過去を変える事が出来るのなら?
…ここは一つ試してみよう。
「爺さん。私に合う衣装はあるか?」
「…そうじゃな。これがいいじゃろう。」
差し出されたのは戦士ベルチアの同胞フィルェンの衣装だ。白をベースに金の装飾がされた鎧はヒーローにふさわしい。
私はその衣装に着替えた。鏡に映った私の姿はまさしく英雄フィルェンそのものだった。自分で言うのは恥ずかしいがその顔は到底悪人のものではない爽やかな顔をしていた。これでは人前でマスクをつけている方が恥ずかしいくらいだ。
私は理解した。とてもくだらないことで少年に怒りを向けたことを。申し訳ないという気持ちが私を少年の元へ動かした。
「少年。先程は言い過ぎた所があった。心よりお詫びしたい。」
少年の前で頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくていいぜ、もともと俺が悪かったしな。」
「その衣装、今のあんたにぴったりだな。こう、正義のヒーローって感じだぜ。」
「そう見えるのか」
正直、反応に驚いた。私が冷たく対応した事を根に持ってると思っていた。少年はそんな事は気にせず、今の私の姿を見てくれたのだ。
「誰がみてもそう見えるぜ。な、顔を見せるのも悪くないだろ?」
「そうだな。悪くないな。」
私は少年の笑顔に応えるようぎこちなく笑った。
〜〜〜〜〜〜
「爺さん、いい服をありがとな」
「本当にありがとうございました。」
「感謝する。この衣装は大切にしよう。」
「今日は祭りじゃ、楽しむのじゃよ。」
俺たちは爺さんにお礼を言い店を後にした。
「俺さ、オルカマンのこと全く分かってなかった。だから、あんたのことをもっと知りたいんだ。」
あの爺さんはすごい。オルカマンのコンプレックスを見抜いたのだから。仲直りできたのもそのお陰だ。だから、俺自身もオルカマンを理解できるようになりたい。だから…
「友達になろう!」
「…ハハハ」
オルカマンが笑った。彼の笑顔を見たのはこれが初めてだ。
「マサル。私たちはもう友達だ。これからもよろしく頼む!」
「おう!よろしくな」
「うふふ…」
俺たちの後ろでルルがにっこりと微笑んでいる。ここまでが彼女の計画だったのだろう。
「ルル…そのありがとな!」
「私は何もしてないよ。仲直りできたのは…」
ドーン!
街の中心の方から花火が上がる。その音でルルの声がよく聞き取れなかった。
「あ、もうすぐお祭りが始まるよ!さあ、しゅっぱーつ!」
きっと「お互いにに仲直りしたい気持ちがあったんだよ」とでもいってたんだろうな。一杯食わされたような気分だぜ。
〜同時刻、ベルチア広場特設ステージ内〜
ベルチア祭1番の目玉は最後に行われる戦士ベルチアの演劇だ。
それは街の中心部、ベルチア広場の特設ステージで行われる。
開演1時間前となれば関係者達は準備で忙しなく動いているだろう。
だが今回は違った。
「zzz」 「スヤァ…」
このステージに関わるもの全てが眠らされ柱に縛りつけられているのだ。
「こうも簡単に我らの侵入を許すとはね。本当に間抜けな奴らだな。」
本来座長が座る席に痩せぎすの男が1人。
「これなら『例のヤツ』も簡単に捕まえられそうだ。」ニヤリ
男は不気味な笑みを浮かべた。右手に刻まれた漆黒海の刻印を煌めさせながら…
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