第8話 漆黒海の狂王

爺さんの店を後にした俺たちはルルカに案内され、祭りのメインイベントが行われる広場に向っていた。


「こっちだよ〜」

先を行くルルカは嬉しくて浮き足立っていた。

「皆さんあちらみたいですよ。行きましょう!」

お姫様のようなドレスを見に纏ったトレカが

俺らを呼びかけた。


「そうせかすなって。お揃いの衣装にしてテンション上がってるのは分かるけど、祭りはどこにも逃げないぜ。」


「オルカマン?なんだかいつもと口調が違うような気がします。まるで勝さんみたいです。」


「主よ、私はこっちだ」

騎士の格好をした男が口を開く。


「あなたオルカマンなのですか?

先程顔を見せた時と全然印象が違くて…

別人のように見えますが。」


「ハハッ!かかったな。」

鯱のマスクを取りトレカに正体を表す。


「ま、勝さん?!どうしてここに?

まさかあなたがオルカマンだったのですか!」


「トレカが衣装選びに夢中になっている間にオルカマンの仮装をしていたのさ。トレカを驚かすためにな。」

実を言うと俺がしているのは騎士ベルチアの仮装だ。彼女にとってはオルカマンに見えるらしい。


「もう。本当に驚いてしまいましたよ。」


「やったな!成功だぜ!」


「うむ。意外と分からないものだな。」

俺たちは手を取り合った。


(しっかり仲直りできたのですね。感心感心。)

トレカの唇は少し緩んでいた。


「着いたよ。ここがベルチア広場だよ」


「すげー。めちゃくちゃ大きいな」

ルルカが指す方を見ると大きな広場があった。その4隅に巨大な戦士ベルチア像が建っている。


「オルカマンが一杯…最高です。」

トレカは思いもよらない光景に思わず立ち止まってしまった。


「どうしたの?早くしないと始まっちゃうよ」


「おう!今行くぜ」ズルズル…

俺はオルカマンと2人がかりでトレカを引きずった。


〜特設ステージ〜


「良かった〜丁度4席空いてたね」


「しかも一番前だな。これはいいぜ。」

「ところでさ、戦士ベルチアの物語ってどんな話なんだ?」


「それは見てのお楽しみだよ。」


「そうか…ネタバレは無しか」

ブー

「もう始まるな。楽しみだぜ。」


開演の合図が終わり、幕が上がる。

スモークと共に現れたのは主役ではなく痩せぎすの男であった。


「誰だお前?」「何あれ?」

「さっさとベルチアを出せ!」

突然の登場に戸惑う群衆。


ピコーン!

「急にクリーチャーの反応が…あの男がそうなのですか。」


「….!?何故ここにいるんだ?」

オルカマンは男の姿に驚愕し、元の衣装に着替えた。


「あんたにとってはとんだサプライズだな。もちろん悪い意味でだ。」

俺は胸元からカードを取り出し、構える。


「フハハハハハハハ!」

ヘヴィメタルバンドみたいな格好のその男は高らかに笑う。


「我は狂王(クルーエルロード)カザコ。ここは我らの戦域(シアター)となった。この世界の愚民どもよ、存分に楽しむがいい!」


カザコ?…思い出した。

こいつは漆黒海の狂王カザコ。アニメにおいて漆黒海の軍勢を率いていた元締めだ。

「ゆけぇ!シザー・デス軍団。この地を真っ青に染めてやれ!」


カニカニカニカニカニ!!!

号令に導かれ四方八方から大量のシザー・デスが沸いてきた。奴らは瞬く間に広場を包囲し、人々は逃げ道を失った。


「なんだぁぁ!」「ああああああ!」

逃げ惑う人々で広場は地獄と化した。蟹の狂爪が今にも襲いかかる状況だ。


「ではさらばだ!ハハハハハ!」シュン…

カザコは空中に水路を作り出し、姿を消した。おそらく遊戯帝の魔法カード『漆黒海に通ず結界水路』の力によるものだろう。


「あの化け物がいっぱい…怖いよ…」

ルルカは化け物を前に動けなくなっていた。


ギュ…


「ルルカさん。私から離れないようにして下さい。あなただけは必ず守ります。」

トレカは少女を抱きしめた。


「権能使用。『庇護の天蓋(プロテクションスカイ)』」

彼女の周りに緑色のバリアができた。


「皆さん!私の周りは安全です。こっちに避難を!」


「よく分からんが飛び込め!」

「助けて〜〜」

人々がトレカの周りになだれ込む。それをシザーデス達が追いかけるが…

バチン!

奴らはバリアによって弾かれた。


「助かった!私たち助かったのね!」

「ありがとう…あなたは一体?」

群衆は歓喜した。


「私はただの女神ですよ。」ニコッ

彼女はいつもと変わらない微笑みを見せていた。


「勝さん。キルザークさん。そしてオルカマン。カザコの場所を特定しました。皆さんに託しましたよ!」


「分かった。直ぐに終わらすから、それまで待ってろよ!」

「我が主よ、無理はしないようにな。」

俺たちは全速力でカザコの元へ向かった。


「…?!あの姿…もしかして戦士ベルチアの生まれ変わりか!!」

「伝説は本当だったんだ!」

群衆から歓声が響き渡る。俺たちを送り出すかのように…


(どうかご無事で…)

トレカは俺たちの事を祈っているように見えた。


〜〜〜


人々を守っている女神は考え事をしていた。


(しかし疑問があります。なぜ彼らは漆黒海直属のクリーチャーではなく『シザー・デス』だけを使役していたのでしょうか?)


(勝さんから教えて頂いた情報によれば、同じコストでATK(攻撃力)DEF(守備力)が400ずつ高い『漆黒海の凶槍ーサヨリ』や、同コストで2100のDEFを持つ

『漆黒海の番兵ーカザミ』など、下級クリーチャーの種類は豊富なのです。)


(ならば、それらを軸にした軍勢の方が指揮しやすいはずなのです。それを放棄してまで漆黒海と全く関わりがなく弱い『シザー・デス』を使う理由があるのでしょうか?)


(ここの制圧にはこれで十分と思っているのか…あるいは『シザー・デス』が好きだから使っているのか…いまいちわかりませんね)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る