第1章 ベルチア伝説編
第2話 無双と伝説の開幕
気がつくと俺は屋敷の大広間にいた。置いてあるものは少ないが、隅々まで掃除されていて綺麗だ。
壁にかかっている大鏡に自分の姿を写してみる。
そこには高校生くらいの俺が映っていた。
ざっと10歳くらい若返っているようだ。
トレカから転生前に受けた説明によれば
「事故で両親を失い、家業を手放した商人の息子」という設定らしい。
要は一生暮らせるくらいの金を持ったニートってことだ。
まあ、そんな事はどうでもいい。俺は階段を駆け上がり、大扉を開けた。
トレカの説明だとここに俺のコレクションがあるはずなのだが…
あったのは大きな宝箱1つだけだった。
恐る恐る箱を開けるとそこに入っていたのは
「何だこれ?」
白い蓮の花であった。とりあえず手に取ってみると突然光出し、左腕を包み込んだ。
「……!!!」
左腕が少し重くなる。腕に視線を移すと全体に白色の蓮の装飾が施されていたガントレットが装着されていた。
無理に引っ張ってみるが取れそうにない。
取れないなら仕方ない。引き続きカードのありかを探すとしよう。
カランカランカランカラン
玄関のベルが壊れたファービー人形のように鳴く。無視して捜索を続けようとしたがあまりにもうるさいので仕方なく玄関を開けた。
「おお、マサル。無事でよかった。」
俺の頭に存在しない記憶が流れ込む。そして、頭の中に定着した。
この人は俺の叔父のカルタだ。
両親が死んだ際に家業を引き受け俺に援助を行なっているらしい。
「今忙しいんだ。人ん家のピンポン押したいんなら他でやってくれよ」
俺はピンポンにイラついていた。
「ふぬけ!外がどうなってるか分からんのか!」
「…外?」
俺は指差された通りに空を見上げた。
ズモモモモ
「何だ?」
空を覆い尽くすように紅色の物体が浮かんでいた。花のような形状(フォルム)に中心部分にあるビーム砲。
間違いない。こいつは『バトルマスターズ』に登場するクリーチャー、『業火戦艦-セキチク』だ。
しかし何故実体化しているんだ?オルカマンを実体化させたように女神(トレカ)が何かやらかしたのだろうか?
「伏せろ!」
カルタに押さえつけられ地面に突っ伏す。
ギュイーン
そのお陰で間一髪セキチクの攻撃をかわせた。流石元軍人。退役して10年以上経つが全く衰えてない。
「危なかったな。奴は連続して撃ってこない。今のうちに逃げるぞ」
「いや、俺が奴のおとりになる。おじさんはそのうちに逃げろ」
「馬鹿な事を言うな!行くぞ」
「あのビーム、遠くまで届いたよな。このまま逃げてもさっきと同じ結果をたどるだろうな。俺がおじさんと逆に逃げれば…助かるかもしれないぜ」
「またな。カルタのおじさん。」
セリフを吐いて、すぐに駆け出した。
「待て!………無茶しおって…」
風に流れてそんな言葉が聞こえてきた。
俺はセキチクの周囲を回るように走り続け、奴の裏に回った所で立ち止まった。時間は充分に稼げた。おじさんは無事に逃げられただろうか。きっとそうだろう。
流れ込んできた記憶は存在しない幼少期の頃から再生された。俺の誕生日の時も、大病を患った時も、学院に入った時も、両親が事故に遭った時も、駆けつけてくれたのだ。
こんなに献身的で優しい人をここで死なせるわけにはいかない。
だから、俺が犠牲になっても守り抜こう。
セキチクの砲門がこちらを向く。俺はは向かい合って対峙した。
全身が熱くなる。いや違う。全身の熱がガントレットに集中しているのだ。
熱を吸い取ったそれは白金のような輝きを放った。それだけではない。手の甲に蓮の花が咲き、その花弁の一部がブレード状に伸びたのだ。ブレードは大きく展開し、肘まで達した。
「……!そういうことか」
俺は理解した。このガントレットは奴を倒す力を持っているかもしれない。俺はその可能声を信じることにした。
「俺は非力だ。てめえに勝てるなど夢にも思ってねえよ。でもよ、俺には諦められねえ『理由』がある。だから、この一撃(ドロー)に賭けてやるよ。いくぜ!デステニードロー!!!」
ガントレットに手を当てると、一枚のカードが花弁の中から現れた。
キュピーン!
俺は迷うことなくそれを引き抜いた。じっとそのカードを見る。
「待ってたぜ『相棒』」
とんでもない奇跡に思わずにやけてしまう。俺はそのカードをブレード部分に置き高らかに宣言した。
「その翼は無窮へ通じ、その咆哮は無限へ通ず。現れよ!『無双龍-キルザーク』」
ゴゴゴゴゴゴ
呼びかけに応えるようにそれは現れた。
全てを斬り裂く真紅の爪、全てを防ぐ玉鋼の鎧、黄昏を告げる茜の翼を持つ無双の龍。
それが相棒(キルザーク)だ。
セキチクの動きが止まる。
「行けぇ!インフィニットクロー」
「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!」 ズバァ
真紅の爪が紅の花弁を切り裂いた。2400の攻撃力から放たれる一撃はひとたまりもないだろう。
だがセキチクはまだ動けるようで、再びこちらに砲門を向けてきた。
「やるな。でもよ、これで終わりじゃないぜ」
「相棒(キルザーク)の効果発動!このカードが攻撃した時、このターンの後にもう一度自分のターンを行う。」
「⬛️⬛️⬛️!」
キルザークの爪が鋭く、紅くなる。
それに応えるようにガントレットが再び輝いた。俺は再びカードを引く。
「ドロー!」カンコーン!
「キルザークのもう一つの効果!自分がカードをドローした時、それが『ウェポン』カードなら相手ライフに800ポイントのダメージを与える!」
キルザークが登場するTCG「バトルマスターズ」(通称バトマ)ではLP(ライフポイント)を全て削れば勝利となる。俺はセキチクの装甲をLPと考えることにした。
「インフィニットロア!」
「⬛️⬛️⬛️⬛️!〜」
その咆哮でセキチクの花弁が千切れていく。
「さらに装備カード『巨大化』発動、これを装備したターンのみ攻撃力を倍にするぜ」
「とどめだ!インフィニットラッシュ!!」
「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!」ズバババァ
鋼鉄の花は地に落ち、無双の龍はその様子を天から見下ろした。
「やったぜ!ありがとな相棒」
「⬛️⬛️」
俺は相棒に向けて拳を向けた。相棒も応えるように拳を向けてくれた。
俺は何よりも相棒と戦えたことが嬉しかった。相棒が豚箱(禁止カード)にぶち込まれてから早15年…この日をどれだけ待っていたか…思わぬ形であるが、夢が叶ったのだ。
そんな余韻に浸ってるのも束の間、相棒の体が光になって消えたのだ。
「相棒(キルザーク)!」
「⬛️⬛️⬛️…」
消える直前、相棒の目に涙が浮かんでるように見えた。俺は空っぽの空をじっと見続けた。まさか、別れがこんなに早いなんて思っていなかったのだ。
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