第3話 女神流星弾

『無双龍-キルザーク』

こいつは俺をバトマの道に導き、豚箱(禁止カード)にぶち込まれるまで一緒に戦ってきた唯一無二の相棒だ。


俺は相棒と共に数々の大会に参加し、幾多の相手を葬った。その無双ぶりに界偶では「クソガキ」「キルキッズ」なんて呼ばれてたのはとても懐かしい。


そんな相棒に会えたというのに…ああなってしまったのはとても虚しい。


虚しさに畳み掛けるように流星が落ちる。

…ん?今は昼間だ。それで見えるとはどれだけ明るいのだろうか。

流星はどんどん大きくなりこちらへ向かってきた。


「やばいな、これ」

咄嗟の判断で駆け出す。

ズドーン

間一髪、かわすことができた。


シュウウ〜


「ご、ごめんなさい…お怪我はありませんか?」


土煙の中から聞き覚えのある声がした。


「間一髪助かった。危うく死ぬところだったぜ。」


「よ、良かったです。」ホッ

煙から現れた少女は安堵して胸を撫で下ろしてた。


「トレカ。何があったんだ?」


「実は…勝さんが転生した直後、近くに怪物が」


「怪物?ああ、あれか」


俺はセキチクの残骸を指差す。


「あんたも見たことあるだろ?」


「あ、あれは上位互換のカードが多すぎて『劣化戦艦』と名高い『業火戦艦セキチク』では!」


「確か、手札の枚数×400ポイントのダメージしか与えられなくて、召喚するのに素材となるモンスターが3体も必要で割に合わないクリーチャーですよね。はっきり言って弱いカードなのです。」


俺は後悔した。トレカにTCGの事を教えた時、界偶で流行っているネタやスラングまで教え込んでしまったのだ。

俺が思うに彼女は率直に話すタイプ。故に、何かを傷つけるような事も平気で言ってしまうのだ。もう少し早く気づいていれば…まあ、後の祭りだが。


「それ以上言うな。奴がとてもかわいそうだぜ。」


俺は彼女を咎めた。


「少し、言いすぎました…」


「少女よ、落ち込むな。次から気を付ければいい。」


シャチ頭の男がトレカに優しく語りかける。

オルカマン…お前まで来ていたのか。


「少年。君はどうやってこの怪物を倒したのだい?」


「それはな、このガントレットの力を使ったんだ。強く念じたら相棒(キルザーク)が来てくれて一緒に戦ってくれたんだぜ。戦いが終わったら消えちまったけどな…」

「ありがとなトレカ、助かったぜ。」


トレカが一瞬固まる。そして申し訳なさそうに語りかけた。

「すみません。そのような物は作っていないのです。」


「私も君の転生に立ち会っていたのだが、そっちに送ったのはコレクションだけだ。」


衝撃が走った。では、誰がこのガントレットを用意したのだろうか?


「それを見せてくれませんか?」


「ああ、俺の腕を見てくれよ。」

左腕のガントレットをトレカに見せる。

「確証は持てないが、これに俺のコレクションが全て詰まっているようなんだ。」


トレカはガントレットをまじまじと見つめる。


「カードを感じます。信じがたい事ですが勝さんのコレクション全てがこのガントレットの内部に保存されています。」


「分かるのか?」


「女神ですのでこのくらいお見通しです。」

「ですが、カード以外の部分が未知の領域で…これ以上は分かりません。」


「カードを取り出す方法も、召喚する方法も分からずじまいか…」

相棒に会えない現実を再確認する。

だが、俺は諦めなかった。

「トレカ、お願いがある。せめて相棒(キルザーク)だけでも召喚出来たりしないか?」

トレカはオルカマンを召喚したのだ。きっとできるだろう。


「うーん、そうだ!」ヴン

トレカの右手に物体が現れた。


「これは召喚したことのある物を呼び寄せる力を持っているのです。その名も『フェイバリットカード』。これを使えば召喚できるかもしれないです。」


俺はトレカからフェイバリットカードを受け取った。


「来い!無双龍ーキルザーク!」ポンッ


「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️ー!」

無双の龍は再び地上に現れた。その雄叫びは俺との再会に歓喜しているようにも聞こえた。

「良かった。もう会えないと思ったぜ。」

感動のあまり、大人気なくキルザークに抱きついた。


「感動の再会…良かったです。」


「こういうのはいいものだな。」

その様子を2人は見守っていた。


「よし決めた!俺は相棒と共にこの世界を蹂躙してやるぜ!」


「え…え〜!!」

2人は顔を合わせた後、こちらの方を向き、絶叫した。

彼女たちにとって想定外の事を俺は言ったようだ。


「だってよ、こういうのって大体他のクリーチャーも出てくるパターンだろ?きっと第二第三のセキチクがもう現れているはずだぜ。」


「そんなはず…」ヴン…


トレカは、透明なモニターのような物を空に映し出した。モニターにはクリーチャーの姿がはっきりと映し出された。それも、ひとつでは無い。モニターの数は山のように増えていく。俺の予想通りだ。


「ありました…」


「だろ。そいつらを倒さなきゃこの世界に平和は訪れない。だからよ、俺たちが蹂躙しに行くってわけだ。」


「言い換えれば、『悪を成敗する』ということだな。それなら君に賛成だ。私も協力しよう。」

オルカマンがうなずく。


「マサルさん、私もついていきます。道中大変だと思いますが、安心してください。私がサポートしますから!」

トレカも協力してくれるようだ。


「決まりだな。それじゃよろしく頼むぜ!」

ギュ

俺達は握手をした。

胸のボルテージが急上昇していく。

仲間達と行く世界を救うための冒険。今ではありふれてしまったが、いざ自分がやるとなると、とてもワクワクして来た。

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