第2話 第18部隊と猫と眠り姫
家から出て約十分後、マコトは学園に到着した。学生寮から全速力で走り、汗だくになりながら。
今日は学園の講義自体は無く、遅刻というのはマコトが所属している部隊でのミーティングのことだ。
学園には部隊編成というものがあり、成績上位生徒に部隊長が任命され、そのもとに部隊員が集る。学園の生徒のみで編成される部隊だ。
部隊には、学園の警備や街の風紀を維持する役目があるが、主な活動としているのはファントム狩りである。
ファントムとはこの世の魔道から離れた異質なる生物であり、物を破壊し、人を食らう。人類の害である。
学園には32部隊が配置されており、マコトが所属しているのは第18部隊だ。
マコトはしゃがみの態勢で恐る恐る部室のドアを開ける、とそれに気づいた者が勢いよくそのドアをマコトよりも一手早く開門した。
「マコト先輩、30分も遅刻ですよ」
マコトを見下ろすそのジト目は怒りを露にしていた。
猫宮(ねこみや)ミヤコ。通称ミャーミャー。彼女も学園の生徒で、マコトの後輩にあたる。青髪ツインテールが揺れ、背丈も150センチと低いことからその幼げな姿は名前通り猫に見えてしまう。魔道学園一年次であり、後輩なのだがマコトより真面目で、下手すりゃ部隊最年少ながら一番のしっかり者だ。
「ごめん、猫宮」
ここは変な言い訳をせず、素直に謝った方がいいと経験則がそうさせる。
「また、例の夢ですか?」
猫宮には夢の話はすでに相談済みだ。猫宮の反応は半信半疑なものだったが、どうやら心配はしてくれているようだ。
「ご名答!さすが猫宮」
「うるさいです、そんなに酷いのなら病院にでも行ってきてください」
遅刻を誤魔化しに猫宮に取り入ろうとするも、軽くあしらわれてしまう。
「まぁ、いいです。マコト先輩よりもひどい人がいますから」
そう言い、猫宮はソファーに座る。「またあいつは来てないのか」マコトも猫宮と同様の人物を思い浮かべ、ボソッと呟く。
そして今ではもう習慣と化した仕事を果たすことにした。
マコトは部屋の隅、物陰に住んでいるこの部室の護り人兼居候に目をやる。
「メリッサ、起きろー」
その机に突っ伏した状態で寝ている彼女を起こす。
ガルシア・メリッサ。第18部隊のエンジニアで海外からの留学生。どこの国かは覚えていないが、たしか欧米だった気がする。染物でも造り物でもない純金髪碧眼にどこを見ても真っ白な肌が証拠だ。どこを見てもとは、別に変な意味ではない。
「マコトー?今何時―?」
「8時30分だ、ミーティング始まるぞ」
そもそも8時開始予定だったのだが。そう考え自分も遅刻したのだと改めて実感し、視線を猫宮に送る。案の定そこにはこちらをジト目で睨む猫宮の姿があった。
「やっぱりマコト先輩の声で起きるんですね」
猫宮はマコトとメリッサに謎色の感情がこもった視線を送っている。
猫宮の言う通り、メリッサは留学でこの学園、そしてこの第18部隊に配属されてからマコト以外の人間の声で素直に起きることがなかった。猫宮もマコトが来る前に挑戦してみるも声を掛ける度寝言で食べ物の名前を言うだけで目覚める気も見せなかった。そんな彼女がなぜマコト先輩だけ?その疑問が浮かび上がる度に猫宮は置き去りにしていく。
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