ファントムメイデン

赤猪千兎(アカイノセント)

第1話 涙と遅刻

「また俺を呼んでいるのか……」

むせび泣く少女の姿。彼女は何故か俺の名前を呼んでいる。

乱れ髪に隠れたその表情は悲しさの内に温かな愛しさを感じさせる。彼女を慰めたく思うも、その場に俺の姿はない。

否、居るのだ。そこに。

涙を零す彼女の足元に、無様に倒れ眠っている者こそが、俺だ。


目が覚める。重たい身体を起こして朝支度を済ませようとベットから離れる。

「また……あの子だ」

俺、乾(いぬい)マコトは最近同じ夢を見ることが多々あった。

倒れて起きることのない俺に涙を流す少女の姿。彼女を救おうにも救えない自分の非力さ、不甲斐なさ。

悲しい夢だ。これを見た当初は目覚めるたびに涙を流していた。今はもう慣れたが、この夢は未だ続いている。

「なんだよ、これ」

誰かに相談すれば馬鹿にされるのが最後。自分でも単なるストレスが原因と妥協しているが、こう何回も同じ夢が続くと気にしてしまう。

とりあえず学園に行こう。そう思いたち制服を着る。

ジャケットの肩に描かれた学園のエンブレム、弓と剣と杖が重なり描かれている。これを見れば近隣の人なら誰だろうと知っているだろう。

魔道学園アストロン。魔術や武術を習得、研究、繁栄させる機関であり文字通り学園、そしてマコトもその学生の一人である。

「ん?メッセ―ジ入ってる」

ジャケットの胸ポケットに入っていたスマホから通知音が鳴り、確認する。そこには「また遅刻ですか?マコト先輩」という表示。

バッ!と壁にある時計に目を向ける。時計の針は予定よりも早く進んでいた。

マコトは謝罪メールを返信して、靴を履き、急ぎ学園へ向う。

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