第9話(軽井視点)

「カッ…!」


「っ…!」


呼吸を封じられたつよししるべは声を出すことすら許されず、胸を抑えて苦しそうに顔を真っ赤に染めていた。


しかし、突然しるべが舞台の端に向かって全速で走り出した。


「え?!」


「一体何を…?」


風花ちゃんの能力の範囲外に逃げようとしてる…?それなら大丈夫。この舞台の上なら大体風花ちゃんの能力の影響下にある。焦る必要は無い。


そして、従は舞台から外に飛び降りた。その瞬間彼女は口をにやりと歪ませてこちらを見据えた。


「《従え《フォロウミー》》。」


しるべが自分の肺に残った空気を全て絞り出すように掠れた声で能力を発動すると彼女の背後に風花ちゃんが現れた。


そして2人はそのまま場外に落ちた。


「しまった、やられた…!」


「ふう、まさかこの手を使わせられるなんてね。」


Follow《従う》の能力の概要は自分を相手の背後に瞬間移動させることだと勘違いしてた。けど違ったんだ。これは能力なんだ。だから自ら背中を場外に向けて飛び出すことで風花ちゃんを巻き添えにして場外判定になったんだ。


「空野風花、有村従場外により失格!」


「お、ようやく息が吸えるッス!場外になったら能力は解除されるみたいッスね!さ、ここからはあんたと私のサシッスよ!」


不味い、彼女の能力はstrength《力》、swift《速い》の2つ。多分接近戦に特化したものだ。対して私の能力はlight《軽い》のひとつ。よられたら圧倒的に不利…。


「黙り込んで作戦でも考えてるんスか?ふふっ!いくらでも考えるといいッスよ!あんたに私の能力は破れないっス!身体強化フィジカルアップ!」


剛が能力を発動すると彼女の全身が淡く白色に光り出した。そして、フーッと息を1度吐くとこちらを鋭い眼光で貫いた。そして彼女が地面を軽く踏み込んだ瞬間、私は能力を発動した。


「ここ!質量減少ウェイトリデュース!」


「な!とびすぎたッス!」


剛はそのまま場外の方向まで飛んで行ったが、ギリギリで踏みとどまり、なんとか落ちずに済んだ。


「こんなに軽いと戦いづらいッスね…」


とりあえずその場しのぎだけどこれで数分は持ってくれるはず…


「うん、なるほど。分かったッス。はっ!」


すると剛は質量の変化をものともしない様子で先程よりも更に素早い速度で接近してきた。


「なっ…!そんなすぐに適応するっ?!」


「食らうッスよ!最強パーンチ!!」


速いっ!これは避けれない…!


「ぐっ…!」


腹部に強烈な痛みが走る。そして全身が後方に大きく吹き飛ばされた。受身を取らなきゃ…!ダメだ、さっきまでの戦闘でただでさえボロボロだからまともに動けない…!


そして彼女の体は地面を数回跳ねながら舞台の端まで吹き飛ばされた。


「もう限界ッスよね!さっきまでのダメージもあってそこにさらに私のパンチ!もうここで降参した方がいいッスよ!」


彼女の言うとおりだ。体がもう言うことを聞いてくれない。立とうとすれば足に激痛が走るし、まともに目も開かない。口の中は血の味がして全身が痛いを通り越して熱い。もうここで意識を手放してしちゃいたい。


たかが学生同士の戦い。たかが予選のうちのひと試合。ここで負けても死ぬわけじゃない。けど、それでも、負けるのは嫌だ。勝ちたい。


負けたくない理由は?負けず嫌いだから、それで十分。


その時、頭の中に声が響いた気がした。


『お主の想いしかと受け止めた。妾の力を少しだけ解放させてやろう。上手く使ってみせい。』


英単語には1つの単語に全く違う二つの意味が存在することがある。runなら《走る》と《営業する》。

fineなら《罰金》と《元気》。


Lightなら《軽い》と《光》。

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