第5話

めぐりは焦っていた。先程まで自分の隣に立っていたパートナーであるそのらが自分を庇って場外に飛ばされてしまっからだ。彼女単体ではできることが少ないからその判断は非常に合理的だ。だが、彼女がいなくなるということは単純に戦力が半分になることを意味する。故にめぐりは思考する。この状況を打破する最高の一手を見つけるために。


「すぐに片付けるよ。そう、サポートはお願いね。」


「任せてよ!」


「…ダメだな、考えるだけ無駄だ。それに俺に出来ることはこれしかないだろ!《賽の目ダイスロール》!」


「ちっ、あれにクールタイムはないの?」


「日与理、焦らないで。大丈夫、僕たちなら勝てるから。」


文瀬は苛立たし気に小さく舌を鳴らす。それに気づいた天城は彼女を落ち着かせるために少し後方から声を出して優しい声でなだめた。


「来た!今度はgravity《重力》!」


「それはまずいかも…!」


「発動される前に仕留める!」


Gravityの能力で出来ることはパッと思いつくだけでもかなりある。加重、無重力、浮遊、しかしその中で最も恐れるべきは…


「《側面加重サイドプレス》!」


「っマズイ!」


横方向の重力が彼が目の前に突き出した右手から放たれる。横方向の重力は前方の力を上書きしていき、やがて刹那の間に文瀬と天城の元へ到達した。


「…落ちるっ!」


「《壁創作クリエイトウォール》!」


天城は咄嗟の判断で自分と文瀬の後方に壁を作った。そこに着地することによって2人は場外は免れた。突然の事で背中から壁に着地したことでダメージは負ったものの、場外にはならずに済んだ。


「ここからが本領!《賽の目ダイスロール》!ツイてるぜ!kick《蹴り》!」


そして彼の能力がgravityからkickに切り替わった瞬間、横方向の重力は元に戻り何とか変化した重力に慣れたのも束の間、今度は顔面から地面に落下する自体になってしまった。そしてそれは大きな隙を作る。


「技名は…なし!キーーック!!」


めぐりが上に飛んだかと思えば、そのまま隙だらけの文瀬に向かって飛び蹴りの要領で飛んできた。このまま食らえば気絶は必至だが、それは起こりえなかった。


「守れ!《空気の壁エアウォール》!」


文瀬の前方に突如出現した空気の壁によってそれは果たされなかった。めぐりはそれにぶつかり勢いを殺されたおかげで文瀬の目の前に無防備に着地してしまった。


「僕はね、この修行期間で壁を生成できる範囲が増えたのさ。だからこうして後方から日与理を守ることが出来る!」


「そして!私が彼の矛となる!」


文瀬が再び拳を構える。それは目の前の隙だらけのめぐりの胴体を今度こそ確かに捉えた。


「っぐ…!!」


彼の体はそのまま舞台の外へと飛んでいき、場外に飛ばされた。


「天野運、場外により失格!よって第1試合勝者は言英学園!」


「やったね日与理。」


「走もおつかれ。」


2人が笑顔で拳をぶつけ合うと会場は数瞬遅れた後揺れるほどの歓声を中央の勝者へ向けて送った。そして天城と文瀬はそのまま通路へと消えていった。


「2人ともおつかれーー!!」


「おつかれさまー。」


「ありがとう!風花に明!環も見ててくれた?」


「ま、まあそりゃ味方の試合だし。イケメンのくせに中々やるじゃねえか。日与理もおつかれな。」


「うん、おつかれ。次は風花と明だよね?」


文瀬がそう尋ねると、風花は緊張しつつも覚悟を決めた顔で、明は特に緊張は感じていないのかいつも通りと言わんばかりに軽く頷いた。


「頑張ってくるね!行こ!明ちゃん!」


「うん、頑張ろ。」


そして2人は控え室を出ていき、舞台へと続く通路を歩いていった。






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