第8話

「くらいな!『切り裂き魔ジャック.・ザ・リッパー』!」


そして、奴がハサミを振ると、そこから斬撃が飛んできた。


「っ!『風のウインドカッター』!」


彼女の周りに風が吹いたと思ったら、斬撃が何かにぶつかって相殺されたかのように消えた。なるほど。斬撃を風の刃で相殺して戦っていたのね。私でも何とか目を凝らしたら奴の攻撃が見えるわね。だけど攻撃したら当たりそうなのに攻撃が効かないってどういうことかしら?


「当たって!『風のウインドカッター』!」


「効かないと何度言ったら分かるんだよ。しつけぇなぁ。『概念を切るコンセプトブレイー』!」


奴がそう言いハサミを2回カチカチと鳴らすと、風の刃が空中で消えた。


「先程からこの調子で…。私の攻撃が奴に全然届かないんです。」


「なるほどね。もう一回奴に攻撃してみてくれるかしら。」


恐らく私の推測通りだとすると私が能力を使って彼女をサポートしたら攻撃が当たる筈。


「恐らく先程と同じようになると思いますが…」


「ええ。分かってるわ。それを承知の上でのお願いよ。」


「分かりました。『風のウインドカッター』‼」


「効かないんだよ。『概念を切るコンセプトブレイカー』!」


そして、先程と同じように奴がハサミを2回カチカチと鳴らすと、風の刃が空中で消えた。しかし…


「それぐらい想定内よ。発動して、『因果の結び《プロセスコントロール》』!」


「ぐはっ!」


攻撃が当たった瞬間通り魔は腹部から血飛沫を上げながら後ろに倒れた。やっぱりそういうことね。


「攻撃が当たった?!お姉さん何をしたんですか?今まで一度も攻撃が当たらなかったのに。」


彼女は攻撃が当たった瞬間驚きに目を見開き、私に聞いてきた。まあ確かに今まで当たらなかった攻撃が一人の女性がちょっと小細工しただけで当たったら誰でもビックリするわよね。でも今は…


「説明は後。まずは、目の前の通り魔野郎をぶっ倒すわよ。」


「え、でもあれだけの傷だったら流石に起きあがって来ないんじゃ…」


そうだ、私も起きあがって来ないと思う。しかし私の全身が警鐘を鳴らすのだ。奴はまだ倒れていない、油断をするな、背を向けるな、と。


「くっ、姉ちゃん中々面白いことをしてくれるじゃねぇか。」


そして通り魔はやはり立ち上がった。私は通り魔が立ち上がったのを見て、目を見開いた。通り魔についている傷がとても浅いのだ。通り魔は血飛沫を上げながら、後ろに倒れたのだ。しかしその割りには傷がとても小さく、浅かった。


「おかげで久しぶりに傷を負っちまったよ。どうやら今の俺と姉ちゃんでは勝てる未来が見えねえんでな。逃げさせてもらうぜ。『距離の切断ディスタンスカット』。」


そう言って通り魔がハサミで空中を大きく切り裂くと、空中に穴が空いた。どうやら通り魔はそこから逃げるようだ。


「?!待ちなさい、逃がさないわよ!大人しく警察に捕まりなさい!」


「残念ながらまだ捕まるわけにはいかないんでなぁ。じゃあな姉ちゃんまたいつか殺しに来るぜ。」


そう言うと通り魔は穴の中に入っていった。


「待ちなさい‼」


そして、奴は穴と共に消えていった。


「はぁ~。」


正直逃げてくれて良かった。タネがまだ割れてなかったから逃げていってくれたものの、あのまま続けていたら間違いなく殺されていた。あの通り魔絶対にタダ者じゃない。


「大丈夫ですか、お姉さん。」


「あ、うん。大丈夫よ。緊張が解けたら腰が抜けちゃって。」


「私も今にも疲労で倒れてしまいそうです。」


そう言って彼女も腰が抜けたようでストン、と地面に座った。そして私はあることに気がついた。


「そういえば、お互い自己紹介してなかったわね。私の名前は来栖結。君は?」


「私は空野風花そらのふうかです。来栖さん助けて頂きありがとうございます。それにしてもどうやって攻撃を当てたんですか?」


「ああ、あれね。多分あの通り魔はcutの能力を使って順番を切ってたんだよ。」


「順番を?」


「そう。」


恐らくあの通り魔は風花ちゃんの攻撃の瞬間に、あの攻撃を

『風の刃が出る』『風の刃が飛ぶ』『通り魔に当たる』


の三つの工程にわけ、それの真ん中をcutしていたのだと思う。そうすることで、そもそも風の刃が飛ばず、通り魔に当たることがなくなる。


「なるほど。」


それにしてもあの通り魔の攻撃を防ぐ方法が私の推測通りだとしたら、干渉出来る範囲から恐らくレベルは最大の5。私がレベル5だから良かったけど、あのまま私が気付かなかったら恐らく風花ちゃんは…


「あの、すいません。それだとどうして攻撃が当たったか分からないのですが。」


「ああ、ごめんね。私の能力はtie《結ぶ》なんだけど切られて、真ん中がなくなった攻撃の工程を無理矢理結んだのよ。」


「ああ、なるほど。」


「まあとりあえず交番に行って警察にこのことを知らせましょう。」


「はい。」


これが私と風花の出会いだった。

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