お前、そのフル装備で万引してないとか言い逃れられるとでも?

ちびまるフォイ

もっと反省しているっぽい態度であれよ!

「お前、万引きしてただろ」


「しっ、してません!」


「全部見てたんだ。ずっとなんかゴソゴソやってて怪しいなと思ってたんだ」


「それはそう見ようとしたからでしょ! 証拠はあるんですか!」


「証拠はある」


「どこに! 早く出してください!」



「お前が身につけてる装備がなによりの証拠だ」


武器屋の店主は万引き犯が身につけている全身の甲冑と、鋼の剣を指差した。

どれも店の中で最高級の一品だ。


「いや、お前……武器屋の万引きする人なんて聞いたことないぞ」


「盗んでません!」


「俺もたまーに言うよ? 買った客に"ここで装備していくかい?"とは言うよ?

 でもまだ買ってもいないのに装備し始めてるんだもん。逆に止められなかったよね」


「盗んでません!」


「お前自分の見た目わかってる!?」


店主はまだ値札がくっついたままの鎧を指差した。


「……とにかく、誰がどう見ても言い逃れはできない。 さっさと盗んだものを出せ」


「すみません……」


「剣も降ろして、鎧も脱ぐんだ。ほら兜も脱いで」


「本当にすみませんでした……出来心だったんです……」


「とりあえず、剣は鞘に収めるんだ。こっちに剣先を向けるな」


「反省しています。自分でもなんで盗んだかわからなくて……」


「だからもう早く脱いでよ!! なんなのお前!? ぴくりとも脱がないね!?」


店主はずっと盗まれた剣を鼻先に突きつけられていて気が気じゃなかった。

盗品とはいえフル武装の盗人を前にした生身の店主では歯が立たない。


「もしかして、このまま着てればワンチャン逃げ切れると思ってる?」


「そんなこと思ってませんよ! 私は自分の行いを恥じて反省してます!」


「じゃあ脱げよ!」


「すみません……」


「なんなのっ! もうホントこいつわかんない!!」


謝りはするけど一歩たりとも店主側の要求に答えちゃくれない。

このままフルアーマー盗人と押し問答続けて、店主が諦めるのを待っているのかもしれない。


どうしたものかと悩んだ店主は昔読んだ本を思い出した。

それは旅人の服を脱がせるために力を尽くす北風と太陽のお話だった。


盗品に身を包んだ万引き犯へ「脱げ」と命令し続けているのは、

まるで旅人の服を脱がそうと風を吹かせ続けては失敗している北風そのものだった。


店主は頭を切り替えて、今度は優しい声のトーンで万引き犯に語り始めた。


「……なんで盗んだんだ?」


「え?」


「こんな武器と防具をまるごと盗むなんてだいそれたこと、

 普通に人間の心理状態じゃやらない。なにか理由があるんだろ」


「そ、それは……」


「話してくれ。力になれるかはわからないが」


「実は……私は家が貧乏で、私の下には弟や妹がたくさんいるんです。

 あいつらを食わせてやらなくちゃいけないんですが、私の体は虚弱で……。

 たくさん稼げる冒険者はとても無理。普通の仕事では毎日生きるだけで精一杯」


「そうか……」


「そんなとき、一番下の妹が流行病はやりやまいにかかってしまって。

 薬は高くて私のお金じゃとても買えない。だから……せめて、兄ちゃんがフル武装してかっこいい姿を死に目に見せようと思ったんです」


「お前の犯罪心理いっこもわからねぇよ!」


店主は中盤あたりでハンカチを用意し始めていた自分を恥じた。


「高価な武器や防具を売って、薬を買うんじゃないのか!? 話の流れ的に!」


「ああ、なるほど!」


「なんで俺がレクチャーしなくちゃいけないんだよ! お前ほんと盗人向いてないよ!」


「どうか見逃してください! 薬がないと妹は……妹は……」


「ダメだ。うちも商売だからな」


「そんなひどい……」


「ひどいもんか。お前が盗んだ武器防具を売った金で薬を買って、

 それで妹さんは幸せなのか。のちのち兄が捕まったらどう思うか考えたことはなかったのか?」


「そ、それは……」


「弟がケガをしたらまた盗むのか。お前は単に目先にある楽な選択肢を選んでるだけだ」


「じゃあどうすればいいんですか!

 言っておきますが、私はこの剣であなたを斬ってでも行きますよ!」


「くれてやるよ」


「えっ……?」


「そんな武器や防具なんかくれてやる。ただし、そのぶんの金はここでしばらく働いて稼ぐんだ」


「ぶ、武器屋さん……!!」


「盗みなんてするのは最低の人間のすることだ。早く行ってやんな」


万引き犯は深く頭を下げると、甲冑をガッチャガッチャ鳴らしながら売りに向かった。

まとまったお金が手に入った万引き犯は薬を買って妹の病気を治した。


翌日、昨日のお礼を言おうと万引き犯は武器屋を訪れた。


カウンターには昨日あった人とは別の男が立っていた。


「こんにちは。今日からここでお世話になります」


「え? 従業員なんて募集してないよ」


「昨日、ここにいた店主さんからそう言われたんですけど」


「店主!? 冗談じゃない!」


店主は怒って武器屋のカウンターテーブルをぶっ叩いた。


「あいつは盗人だよ! 店主の私を縛って閉じ込めてから、店の売上を盗んで逃げやがったんだ!」


それを聞いた男は付け加えた。


「店主のふりをするなんて許せないですね。それに最高級の武器と防具も一緒に盗んで行ったのを見ましたよ!」

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お前、そのフル装備で万引してないとか言い逃れられるとでも? ちびまるフォイ @firestorage

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