第9話 白いページの中に-9
掃除当番を終えて、急いで学校を出た。グラウンドの横を通って緑地公園を抜けると、JRの特急列車が通過していくのが見えた。開いたままの踏み切りを越えて、角を曲がり、ため池の横をすり抜けると公園に着いた。
いる。
息を整えて、滲んでいた汗を少し拭って、気持ちを落ち着かせながら近づいた。
俯いて、ブランコにしがみつくように、石川君は座っている。その仕草は一昨日までのそれと随分違うように見える。
足音を殺してゆっくりと近づいた。と、気づいた石川君は、さっと立ち上がった。
「あ、松原さんか」
彼はそう言うと、安心したような表情でまたブランコに座った。
「どうしたの?」
「あ、昨日、ごめん。来れなかった……」
「あ、それ。約束したのに、ひどいな。あたし、ずっと、待ってたのよ」
「……昨日は、学校出たら、連れて行かれたんだ」
「え?」
「……警察」
「待ち伏せていたんだよ。俺が、学校から出てくるのを。いつも帰りが遅いね、って言いながら、そのまま車に乗せられたんだ。パトカーじゃなかったけどね。……パトカーじゃなかったから、よかったんだけどね」
「そんな……」
「昨日は、そのまま、取り調べ。近藤はどこ行ったんだ、なんてね…、知ってるわけなんてないのに」
「ひどい……」
「ほとんど、拷問だよ……。やってないことを、やったって言えって迫られて、知らないことを延々と問い詰められるんだ」
「どうして……そんな」
思わず涙が零れてしまった。石川君は慌てて、宥めるように言った。
「ごめん……。気にしないで。なんか、迷惑掛けてるね、俺。……もう、松原さんくらいしか、いないから……話せる人が。それで、つい……。ごめん」
「……いいの」
涙を拭いながら、そう答えて、彼を見た。疲れ果てた蒼白な顔に、涙も止まってしまう。
「今日は、大丈夫なの?」
「あ、あぁ……。今日は、南門から出たんだ。それで、ここまで来たんだ」
「いいの、そんなことして?」
「いいよ、どっちでも、一緒さ……もう」
「もう?」
「……どんなことがあっても、俺は、犯人にされるんだ」
「そんな……」
「いいよ、夕方まで。日が長くなったから……しばらくは、このまま」
空を仰ぐ彼に言葉を失ってしまった。どんな思いで空を見ているのだろう。明るく眩しい白く輝く空を、どんな風に見ているのだろう。
子供たちの賑やかな声が空に舞い上がって届いてくる。列車の通過する音も聞こえる。ブランコの軋む音も、そうした音に混じって聞こえてくる。
「ね、帰ったほうがいいんじゃないの?」
思い切って言ってみる。
「……ん。いいんだ」
「でも、また、苛められるよ……」
「……もう、いいんだ……」
「無実だって、濡れ衣だって、言わないと」
「ん……、いいんだ……」
彼の横顔が妙に落ち着いている。どうしたんだろう。
「いい天気だね」
「…うん」
「久しぶりに、いい天気だって思える」
「ずっと、いい天気よ」
「そう?…知らなかった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます