第8話 白いページの中に-8


 コンクリート塀の角を曲がるときに、石川君はあたしを制した。

「警察に連れて行かれるところ、見られたくないから……ここでいいよ」

照れ臭そうにそう言うと、少し、笑った。

「うん。じゃあ、さよなら」

あたしも、少し、嬉しくなった。

「あ、あの……、……ありがとう」

石川君はそう言うと、じっとあたしを見つめた。照れ臭くて、まともに彼の顔を見れなくなってしまった。

「じゃあ。……また、明日」

 彼はそう言って曲がって行った。

 また、明日。

 きっと、また明日も会える。そう信じて道を引き返した。


            *


 夕焼けが紅く風景を染めつつある。ため池から聞こえていた子供の声も少なくなった。ブランコは木の影に入って、薄暗い中で、キィキィ言っている。

 揺れながら、踵で土を蹴る。その部分だけ、湿った土が露呈して、黒く見える。じっとその土を見ながら、揺れている。

 今日は、来なかった。

 また、明日、と約束したのに。

 何時間くらいここにいたんだろう。

 急いで下校して、やって来たのに。

 会えなかった。

 何かあったんだろうか?

 残り陽の届く場所に植えられた植物が、紅の光輪を浮かび上がらて輝いている。何の植物だったろうか。見覚えのあるその葉は、小学校のときに栽培したような記憶がある。

 目線を公園の入り口に移す。

 誰も、来ない。

 自意識過剰だったんだろうか。きっと来ると信じていた。それは、期待ではなく、思い上がりだったのかもしれない。彼は、必ず、あたしに、会いにくるという。

 それでも、昨日の別れ際の彼の姿を思い出すと、必ず来るはずだと思い直した。

 それとも、来れない理由があった?

 ……まさか、捕まった?犯人でもないのに?

 家に行ってみようかとも思ったが、押しかけていく理由もないのに、行ける訳がない。仕方ないから、待っていた。

 でも、もう帰ろう。

 腰を上げて、お尻が痛くなっていることに気がついた。ずっと座っていたから、お尻が痺れてしまった。

 …バカみたい。

 ひとり、自嘲しながら、ゆっくりと歩き出した。

 明日は会えるだろうか?学校でなら会えるだろうか?

 そう思いながら、石川君が何組か知らないことに気づいた。ほんの三日ほど前までは、本当に知らない仲だったのに、今は気になって仕方ない。

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