第10話 白いページの中に-10
ブランコはキィキィ鳴っている。
鳥のひと鳴き。びくりと身を竦める。どうして、あたしがそうしなければいけないんだろう。石川君は、ブランコを揺らしながら、何か口ずさんでいる。
乾いた風が、池から水の香りを運んでくる。
誰も通らない。二人だけの時間。
ゆっくりとブランコを揺らしてみて、風を浴びる。少し温気を湛えた空気が、急に心地よく感じる。耳をかすめて、髪をなびかせて、風がよぎる。そして、髪を押し戻し、背中を押しながら、風は頬をすり抜ける。
大きく漕ぎだしたブランコに併せて、石川君も漕ぎだす。二人は交互に風を切る。まるで、幼子が競争しているように。
強張っていた表情が笑顔になっている。互いに顔を伺いながら、漕ぎだす。大きく足で蹴り出すと、ブランコは加速して大きな振り子になる。ギィギィ言いながら軋むブランコの音も楽しい。
その瞬間、あたしたちは、子供に返っていた。
突然、彼は遠くを見ながら、漕ぐのをやめた。彼の踵が土埃を上げ、止まった。あたしは、揺られながら彼の顔を見て、そして彼の視線の先を追った。
二人の男性がそこにいた。
背広姿の、静かな雰囲気の、二人。
彼の笑顔は硬直して、その二人を見ていた。道からこちらを眺めていた二人は、公園の門を通ってゆっくりと近づいてきた。
あたしもブランコを止めて様子を伺った。刑事だと思った。二人はゆっくりと、薄笑いを浮かべながら、近づいてきた。そして、彼の前に立つと見下ろすように彼を見つめた。
彼は、何の感情も表さない表情で二人を見上げている。
二人は彼の前に立ちはだかると、一人が静かに言った。
「こんなところにいたの。随分、探したよ」
合わせるように、もう一人が言った。
「どうして逃げたんだい?」
逃げた……?
彼はじっと見上げている。
一人があたしを見た。
「こちらのお嬢さんは?」
「もしかして、彼女かい?」
「会いたかった、って訳か…。まぁ、わからないでもないが…、我々としても遊びじゃないんでね」
そう言いながら、彼の腕を取った。
「さぁ、来てもらおう」
彼は引き起こされるままに立ち上がった。そして、引きずられるように連れ出された。
あたしは、何もできないまま、その光景を見ていた。嘘のような、現実の場面に、対応できなかった。
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