第2部 第3話 恐怖

 渚に礼を言い、美容室を後にした二人は、最近バイパス道路沿いにできた眼鏡ショップに入る。


 中高生でも手が伸ばせる価格帯でありながら、フレームもレンズも好みに合わせて作ることができることで人気となった、全国チェーン店だ。


 ここでも、事前に話が通してあったのであろう。一言二言、睦が店員に話すとスムーズに視力を測ってもらえ、すぐにフレームとレンズ選びに入った。


「お願いしておいた、高屈折率の薄いレンズでこのコの視力に合うものを。そのレンズにあう、フチ無しのフレームを。」


 事前予約のおかげで、レンズもその場でカットしてもらえ、できた眼鏡がすぐに受け取れた。


 店を出た奏と睦だが、奏は、ダボダボでサイズが合っていないダウンジャケット姿に、一気に垢抜けた髪形とメイク、おしゃれな眼鏡。違和感が半端ではない。さすがに奏も自分の姿に違和感があることを感じたのか、きまりが悪そうだ。しかし、もちろんまだまだ睦の計画は終わらない。


「次は下着を買いに行きますわよ。」


 ここまで言われてさすがに奏も口をはさむ。


「ちょっと待って。さすがに部員と下着関係なくない?」

「だまらっしゃい。」


 いつもどおりニコニコしながらそんなセリフで一喝する睦。


「うぐぐ…部員増えなかったら承知しないからね…」


 市内唯一のデパートで下着売り場に入る2人。


「カナさんあなた、なかなかいい胸をしてらっしゃるのに、未だに中学生の時に買った、飾り気のカケラもない白一色で綿素材のハーフカップブラをいつもされてますわよね?」

「なんであなた私のブラ事情まで知ってるのよ?!」


 思わず服の上から胸を腕で隠し後ずさる。睦の笑顔に、奏はだんだん恐怖を覚えだした。


「レディーともあろうもの、胸のサイズに合わない下着を身につけていては失格ですわ。第一、あなたのブラはもうヨレヨレで、そんなものを身に着けていてはテンションも上がらないというもの。さ、店員さんにサイズを測っていただくのです。」

「一体何者なのよあんた…」


 下着売り場の店員に正しくサイズを測ってもらった結果、それまでのBからDへと一気に2サイズもカップがアップ。新しいサイズの下着を、店員にいくつか出してもらう。


 もちろんこういった店で出される商品なので、上下セットの下着で、ブラジャーはシルエットがキレイに見え、かつ、カップにレースや刺繍のついたオトナな雰囲気のもの。


 こういった場に慣れていない奏は目の前にあったものを適当に掴んでレジに向かおうとするが、睦は下着を持った奏の右手を掴み、それをあっさりとブロック。


 睦は並べられた下着のデザインを一枚一枚チェックする。


「ふむ…頼りがいのあるキャラクター、親しみの沸く雰囲気…それらを醸しだすメリハリのあるスタイル。となれば…」


 今まで買ったこともないような金額の下着のセットを3つも買わされる奏。さらに同じデパートで、キャミソールや黒のタイツまで買わされ、さらに、帰り道の途中のドラッグストアでメイク道具も一式買わされた。


「大枚用意してきたけど、ホント大枚はたいたわ…」


 臨時の小遣いがあったとはいえ、毎月のおこづかいの10倍近い金額を使わされてしまい、両手に買い物袋を下げた奏が肩を落とす。


「さ、今から奏さんのご自宅へ伺いますわよ。」

「え!ちょ!聞いてないけど?」

「あら、事前にちゃんとお伝えしてありますよ。奏さんのお母様に。」

「なんなの…あなたホント一体何者なのよ…」


 外堀を完全に埋められて、力なくうなだれ、トボトボと家路を辿る奏。


 しかし、奏にとっての本当の恐怖はここから始まるのだった。

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