第1部 第8話 集う

「こちらは?」


 一番左、小さなラッパを持った女子が声をかけてきた。


「えーと、しらね。名前は?」


 ギザギザ頭が、手に握っていた銀色の物体を、イスに置いてあった楽器に取り付けながら言う。


 沙希は全く状況が飲み込めないが、とりあえず名乗っておくことにした。

「あ、えと…仲原沙希です」


 すると、小さなラッパを持った女子が立ち上がり、ラッパを右手で抱え、左手で包み込むように支えて会釈した。


「私は仁科かな。はじめまして。」


 縁なしの眼鏡の下に見えるのは、いかにも理知的な力強い目。背中の辺りまで伸ばした髪。その髪の毛はよく手入れされていて先までサラサラだ。会釈から戻るときに、髪が顔の前側から肩口に流れて、トリートメントのCMみたいな光の帯が見えた。

 

 今度はその右に座っているちびっこが座ったまま声をかける。明るい栗色の髪の毛を肩の上くらいの長さのショートヘアーにし、前髪を大きめのピンクのヘアピンで留めている。ちびっこが持っているのも同じラッパだが、奏が持っているそれより一回り大きい。


「うちは石澤みう。ふむぅ。沙希ちゃんか。いいコ連れてきたっち。ちー、良くやった。ぐふふふふふ。」


 初対面なのに、怪しげな笑みを沙希に注ぎながら、楽しそうに言う。


「えっ、いいコですか?」


 いきなり複数の上級生に囲まれてちょっとバツが悪い沙希が反応に困っていると、ちーと呼ばれたギザギザ頭がイスに座りながら隣のみうの頭を小突いて言う。


「いきなりイミフなこと言うんじゃねーよみう。おびえてるだろ。園田センセー待ちだってよ。準備室、人間が落ち着いて人を待てる環境じゃねーからな。あ、オレは黒坂千晶。『ちー』でいいぜ。」


「確かになー。こないだ音源のCDを山の中から探してたら、CDとCDの間から『増田先生、許さない…私というものがありながらあんな小娘にかどわかされて。』って血文字でかかれたメモが出てきたっち。」

「増田先生といったら、園田先生の前任の男性教師だったわね。理由は不明だけど、私たちが入学する前の年の9月の半ばというまことに中途半端で何かがあったとしか考えられないタイミングで他の高校に転勤になったという噂の。」

「何があったんだ音楽室で。」

「音楽室、完全防音だからなー。きっとめくるめく情事が行われたんだっち。ぐふふふふ。」


 話が明らかに脱線していくので、沙希はとりあえず、一番最初に聞くべき質問をした。


「えっと、みなさんは?」

「吹奏楽部だよ。見てわかんないか?」

「え、全4人ですか。吹奏楽部」

「意外と痛いことをはっきり言うな、お前。」


 ずいぶん短くされているスカートなのに、足を開いて沙希の方へ向き直る千晶。


「あ、いや、なんか、吹奏楽部って音楽室に50人くらいひしめきあってるイメージだったので。」

「ふむぅ。まあ、うちは弱小吹奏楽部だからなー。でも、人数少ない分、仲の良さは折り紙付きだっち。」

「ま、そこは確かだな。この人数じゃグループ間の対立できねえもんな。何しろ4人じゃグループっつっても2-2しかできねえしな。」

 

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