第22話 千載一遇の好機

 由美奈の行方が気にはなるものの、自分にも生活があるし、次回の選挙の準備もしなければならない。人を雇いたいが給料を支払うまでの余裕がない。そこで前田に泣く泣く事情を説明した。前田も苦労して初当選を勝ち取った事情もあるし、その際に協力してくれた貴との縁もあるからその辺は親身になって汲んでくれた。前田は以前事務所で一緒に勤めていた女性事務員の徳田を紹介してくれた。貴が前田の事務所で最初に会った人物だ。あの人なら気心も知れてるし、経験もある。今は一般企業の事務のパートをしているらしいが、一肌脱いでくれるという。貴はひどく喜び前田に感謝した。数日すると、徳田が貴の元へ訪れてきた。久しぶりの再会にお互い懐かしんだ。

「4年ぶりくらいですかね。面倒かけますが、よろしくお願いします」

「まさか、あの時の元ボーイさんが一人で頑張ってるだなんてね。びっくりしたわよ」

「次回の選挙で必ず当選します。そのためにお力添えお願いします」

「任せておきなさい!前田先生を勝たせてる実績があるんだからきっと大丈夫よ」

「それでですね、お給金なんですが」

「前田先生から事情は聞いてるわ。わたしは何とかなるから平気よ。当選した後にたんまり請求するから」

「そうして下さい!あはは」

  貴と徳田の二人三脚で次回の選挙に備えた。出馬を見送ってから2年後、政局が大きく動いた。前回の総選挙で辛うじて与党となった自由民国党であったが、衆院の議席に過半数届いてないため明京党との連立与党になっていた。この度、明京党の幹部による企業癒着が明るみになり国会が紛糾したのだ。連立の繋がりが揺らぎ、選挙への影響を考慮した民国党の総理大臣である芝旗幸一郎は衆院の解散を宣言、総選挙となった。貴にとっては選挙の時期が早まり、当選の確率が高まった。群馬1区の現職議員は自由民国党の馬淵氏と明京党議員だからだ。今回は明京党の不祥事による解散のため、貴にとってはこの上ない追い風である。

「徳田さん、運が回ってきたみたいだ」

「そうよ!一気に畳み掛けましょう」

  資金繰りが苦しい中、もう一人運動員を雇い、総掛かりで選挙に臨む。貴はかなりの勝算を見込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る