第21話 砂漠を彷徨う
群馬1区での公認を取り逃し、立候補を見送った貴は次の衆議院選挙まで浪人生活を強いられた。衆議院が解散されるか、任期満了の4年まで待つかのどちらかしか選挙の実施はない。たかが、と思うが実際生活するのは大変である。
幸いしたのは貴にはさほど高いプライドを持ち合わせていないことだった。京都での生活では高級クラブのボーイをしていたくらいであるから、職の選択に強いこだわりはなかった。なので、浪人時は運送会社で昼夜問わず働いた。職場の仲間は議員の卵であることなど知る由もない。だから、誰とでもフランクに付き合うことができた。仕事の合間に東京の前田の下を訪問したり、伊藤と面会したりと中央とのパイプを維持するように努めた。地元群馬でもいくら出生地とはいえ、さほど強いつながりがあるわけでもないから党の群馬県支部に出向いて顔を売った。その生活も多忙を極め、珍しく一度寝込んだこともあった。ふと一抹の寂しさが込み上げることもあった。
ある日、自然と池袋に足が向いていた。4、5年振りに由実奈の店の様子を見ようと思った。本来であれば自分が変わった姿を見せるまで会わずにいようと誓ってここまで来たが、流石に今の生活が辛くなった。それも無理もない話だ。貴は疲弊していた。
「確かこの辺だったがな」
そう言って、以前の記憶を頼りに北口付近を由実奈の店を探す。それっぽい建物を見つけたものの、そのビルは「テナント募集」の張り紙がしてある。向かいの個人薬局に入ってみた。
「すみません、この向かいのビルはいつから空いてるんですか?」
「ここ2、3年前じゃないかな~確か飲み屋があったような」
「キャバクラみたいな店ですかね」
「どうだったかな~違うような気がするな」
(なに?違うのか?)
「どんなお店でした?人気があったとかなかったとか」
「地味な感じだったな~キャバクラっていうかスナックみたいだったな」
「何ていうお店か覚えてませんか?」
「う~ん、なんだっけ、確かプロマイズとかなんとかだったな」
(やっぱり違う、ってことはその店の前にもう無いってことか!)
「そ、そうですか。ありがとうございました。じゃぁこれください」
必要のないマスクを購入して慌てて薬局を出た。
逆算すると、由実奈は貴が出て行った直後くらいに店を辞めるか移転させているらしいということになる。だが、今となっては連絡の取りようがないから居場所など分かるわけがない。貴は焦った。慌てて由実奈と再会した合コンの幹事、智也に連絡したが全くわからないという回答だった。貴は自分の身勝手から由実奈の人生を台無しにしまったのではないかと自責の念に囚われるようになった。
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