第20話 茨への道
月日の経過は早いもので、貴は前田の下で仕事をし始め4年が経とうとしていた。衆議院は与党の自由民国党が特に不祥事もなく無難に政局運営をしたため、通常通り4年の任期を経て改選される運びとなった。貴は4年を目途に独り立ちしようと考えていたので、今回の改選で勝負に出ようと考えていた。
貴は前田に自分の意向を申し入れた。大学中退の一件もあったことから、前田は快く貴の思惑を了解し自由民国党の公認を得られるよう取り計らう事を約束してくれた。貴のもともとの出生地は群馬県である。なので、京都で前田と争うよりも群馬で出馬して当選を狙おうと考えていた。
「前田先生、お世話になりました。今後は群馬で頑張ります」
「そうか、こちらこそ世話になったな。俺が強引に誘わなければ今頃京都府大卒の学歴が追記できたのにな」
「いえいえ、前に仮卒業のお墨付きをいただいていますし、4年で卒業できたかもわかりません。それより貴重な体験ができた方が収穫ですよ」
「そういってもらうと助かるよ。陰ながら京都から応援させてもらう。自分も2期目がかかってるからな」
貴は拠点を群馬の前橋に置いた。群馬県と言えば首相経験者を多く輩出している県で有名な所だ。前田の計らいで与党の候補者になるであろう状況ではあるものの、同舟の候補者も存在し、取り敢えず民国党の公認を取り付けないといけない。事務所は地元のアルバイトを2人雇って出馬の準備を進めた。貴の選挙区は前橋市を中心にした保守色の強い群馬1区になるが、最近選挙区の範囲の改定があり1区の選挙区域が狭まった。そのため、有権者数が減ることにより1票の重みが変わってくる。自由民国党としても確実に集票したいところである。貴は一抹の不安を覚えた。
そんな折、貴は前田に党の公認の件について問い合わせをしてみた。
「ご無沙汰しております。上川です」
「おお、元気でやってるか」
「元気は元気なんですが」
「どうした?」
「実はですね、ご承知かと思いますが、最近こちらでも選挙区域の改正がありまして。そうなると確実に集票したいってのが党内の本音ですよね」
「まぁそうだろうな。俺も今回で2期目だがそれも盤石ではない」
「それで、自分の公認の件っていかがですかね?」
「伊東先生経由で話は通っているはず、という事にはなってるが、それも確約は難しいな。俺も大して影響力もないし。できることはするつもりだ」
「ありがとうございます。もう少し待ってみます」
貴は党本部の公認の連絡を待った。しかし、しばらく経っても何の音さたもない。
<やっぱりだめか>
その後、民国党群馬県連から連絡が入り、今回は前回当選の馬淵氏を推すことにしたから、公認は次回以降考えるとの意向が伝えられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます