第23話 ついに大願成就

 民国党の公認を取り付け、ついに群馬1区から出馬にこぎつけた貴は2議席を巡る攻防に踏み切った。地元とはいえ生まれただけに近いここ群馬で、選挙前から事務所の徳田とやっと雇ったバイトの事務員の3人で地道に努力を続けてきた。選挙戦は2週間。あっという間である。しかし、実質2年以上待ち続けてスタートラインに立ったこの戦い。負けるわけにはいかない。全身全霊で有権者に自分の政策、思いのたけを訴え続けた。そして投票日。もうやれることは無い。

 19:00前から選挙速報が放送されるの待っている。出口調査では、下馬評通り明京党の不祥事の追い風が貴に吹いている様子で、現職馬淵氏と貴の自由民国党2候補でリードしていた。

「いい線行きそうですね」

「今のところはね。でも、無所属の新人候補が3番手に追い上げてるのが気になるな」

「下駄を履くまでわからない。何だってそうですよ。特に選挙なんて楽に勝つなんてありませんよ」

「そりゃそうだね」

20:00になって選挙速報が始まった。開始早々、前回と同様に現職の民国党馬淵氏が当確を出した。やはりな、という事務所の雰囲気。次点争いは貴が3番手の無所属新人候補に若干差をつけていた。

「このままならありますよ」

「うん」

貴の口はいつに無く重く、多くを語らない、というか語れないのであろう。それを察知して徳田が事務所の雰囲気を柔らかくする。勤務先の運送会社の支援者の方がヤキモキしている。21:00の時点で、無所属候補との得票差は1万票以上、追い上げられても安全圏に来たと感じられた。

「群馬1区、上村たかしさん当選確実です」

23:00前、選挙速報のスーパーが出た。

「おい、当確出たぞ!やったな!」

「あ、ありがとうございます!」

涙ぐんで言葉が出ない。

「おめでとうございます、先生。もう立派な先生ですよ」

徳田が貴の背中をポンポンと叩いた。バイトの事務員は周りに流されながらも喜んでいる。

「ささ、泣いてる暇はありませんよ。壇上に言ってお礼の挨拶です」

「そ、そうですね、よかったです」

貴は徳田に促され、支援者の待つ壇上へと向かった。

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