第4話 惚れた方が負け?

あの合コンからというもの、由美奈と連絡を取るようになった貴は、由美奈にせがまれて池袋の彼女の店に何度か行く羽目になった。貴は最初のうちは義理で店に行ってた面が大きかったが、数回足を運ぶうちに、以前付き合っていた頃の由美奈ではなく、大人の雰囲気十分な一人の立派な女性に見えてきて、次第に貴の方から由美奈が店に来るかを確認してから池袋の店に通うようになった。

あの頃とは逆で、自分の方が由美奈に惹かれている事に戸惑いはなかった。と言うよりも、最初にあったその類の感情がいつしか無くなり、普通に由美奈と言う女性に惹かれていったと言う方が適当な表現であろう。

「今日仕事終わったら飲みに行かないか?」

長針と短針が「0」を指す手前、それは由美奈の店「Lounge Vouge」の閉店時間に合わせた貴の言葉だった。

「ええ、別にいいわよ」

「ありがとう。とはいってもそんな形式ばった店で飲むわけじゃない」

「そう。そのほうがいいわ」

「了解。じゃ、これ飲み終わったら外で待ってるから」

「ええ」

 貴は勘定を済ませると、店の外で由美奈を待っていた。時は9月。手袋をするには少し暖かいが、若干の必要性も感じられる真夜中の池袋であった。落ち着かない貴は大して用事もないのにスマホを何度もいじりだした。約5分後、店から由美奈が降りてきた。その風貌はいかにも水商売という服装でもなく、センスの感じられる黒を基調としたコーディネートだった。

「あ、おまたせ」

「おお、お疲れ」

「どこに連れてってくれるの?」

ママとして働いている姿はなく、どこか人懐っこい、店のオーナーらしからぬ口調で貴に問うた。

「普通の居酒屋だな」

「え~!もうちょっと雰囲気のよさげな所がいいわ」

「そんなこと言ったってさぁ」

「いいじゃないの。じゃ、私がお店決めていい?」

「ああ。かまわないよ」

「そうだな~じゃぁ、『ちりぬるを』でいい?」

「おい、居酒屋ど真ん中じゃねーか!」

「いいの!でも、どうしてそこなのか、わかる?」

「ん~?わからん」

「あれ~?あのお店、私たちの思い出のお店じゃなかった?」

「そうだっけ?」

「そうよ。私たちが初めて一緒に行った居酒屋さん!池袋じゃないけど」

「そうだったかな~」

貴は目線を左に遣った。由美奈はいつの間にか貴の左腕にしがみついていた。

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