第3話 Lounge Vouge

<Lounge Vouge>

 それが由美奈の経営する店名であった。池袋北口から文化通りを徒歩3分ほど行ったところにその店はあった。時計はもうすぐ0時を指そうとしてる。

「いらっしゃいませ。あら、ママ!男連れなんて珍しい~」

「男は男でも元カレよ」

「え~!そうなんですか!?まぁまぁいい男」

「まぁまぁって何よ」

「いいんだよ。合ってるから。結構落ち着いた雰囲気なんだな」

「あの頃とはある意味真逆ね。ま、座って」

「そうだな。ありがとう」

貴は由美奈に促されると、入口奥右側のソファに座った。

「何飲む?」

銀色のアイスペールを持ちながら着席した。

「じゃぁ、水割りで」

そう言うと、由美奈が細い腕を伸ばしてテーブルに予めセットしてあるウイスキーボトルを手前に置く。アイスをちょっと寸胴なグラスに3,4個入れる。ボトルのキャップをねじ開けウイスキーを注ぐ。ミネラルウォーターをグラス8分目まで注ぐと、マドラーでくるくると2,3廻した。

「はい、どうぞ」

「サンキュー。ここは何年目くらいなんだ?」

「ちょうど3年目かしら」

「まだ最近なんだな」

「そりゃそうよ。あの時いろいろあったし、借りてたお金もあったし」

「よく頑張ったもんだ」

「あなたはどうなの?」

「ああ、俺は相変わらずだよ」

「そう。あれからもう10年以上経つかしらね」

「お互い歳取ったもんだな」


 こういう場所に来ると時間がたつのは異常に早く感じられる。昔話に花が咲いた二人の会話であっという間に2時半になっていた。

「おお、もう閉店だろ?ちっとしゃべりすぎたな」

貴はソファから腰を上げた。由美奈はその腕を引いた。

「いいのよ。私の店だもの」

 キャストの女の子はパラパラと帰宅し始めた。

「今どこに住んでるの?」

「吉祥寺」

「少し遠いわね」

「仕事場からはそう遠くない」

「また来てね。待ってる」

 貴は店のドアを引いて吉祥寺に向かって行った。

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