アットホームな職場

「うーん……」

「何を悩んでるんですか? 課長」

「人材が少ないので採用しようと思っているのだが、募集用のいいキャッチコピーが思い浮かばなくてな……」


「それなら私におまかせください」

「君にできるのか?」


「ええ。こう見えても小学校の作文コンクールで1位を取り損ねましたから」

「取り損ねたのかよ!」


「まず、この会社の強みを協調しましょう。この会社の強みはなんですか?」

「強み? ええと……そうだなぁ……うーんと……」


「……『何も考えてなくても課長になれます』と」

「違う違う! これは違うんだ! えーと……そうだ! ここではみんな家族のように仲がよくて、会社が家みたいなものなんだ!」


「……『アットホームな職場』と」

「それだとブラック企業みたいになっちゃうだろ!」


「違うんですか?」

「違うよ! なんてこと言うんだよ!」


「だいたい会社が家みたいなものって、会社自体が家だから帰宅しなくてもいいってことになるじゃないですか! やっぱりブラックじゃないですか!」

「そういう意味じゃないよ! みんな仲がいいってことだよ!」


「それともう一つ言わせてもらいますが、みんな仲がいいことは本当に強みなんですか?」

「え……? 何言ってんだよ、強みに決まってるだろ?」


「じゃあ例えばですよ? ヤンキーとかヤクザの集会があったとして――」


『俺たち、仲いいから』


「――って言われて仲間になりたいと思いますか!」


「……思わないね」

「でしょ!? そもそも仲がいいことが強みということ自体が間違ってるんですよ! 他に強みはないんですか!?」


「えーっと、うちの開発しているネットゲームはブームになったことがあって――」

「……『ネットゲーム』と」


「まぁ、そんな感じかな。でも、ブームが去ってから遊んでくれなくなったんだよねー。それからはあのゲームは放置さ」

「……『ずっと放置』と」

「さっきから『アットホーム』みたいに言うのやめてくんない!?」


「まあ、一応仲がいいってことと、ゲーム開発に力を入れていることはわかりましたが、まだ足りないですね」

「何が足りないのかね?」


「やっぱり会社で働くとなると、同じ目標を持っている人を集めた方がいいと思うんですよ」

「なるほど」


「例えば――社訓とか使えませんか?」

「いいね! うちの社訓は『お客様の笑顔を取り戻す』であって――」


「『取り戻す』って、何で一回笑顔失ってるんですか!」

「そんな深い意味はないと思う!」


「あとは、どんな人材が欲しいかも重要かもしれないですね」

「そうだねー。新卒か第二新卒がいいよね」


「そういえば何で新卒を採用するんですか?」

「ほら、若い方が吸収が早いからさぁ、将来成長することを思えばいい投資だと思わないか?」


「なるほど、早めに自社のルールを刷り込ませて、将来この会社の駒としてこき扱うと」

「その言い方やめて!?」


 ガチャ


「進んでるかー、課長君」

「あ、部長。お疲れ様です」


「実は急に案件が入ってきてな、残業頼むよ」

「え? でも、今月の残業時間はもういっぱいで――」


「そんなこと言わずにさぁ。ね、人助けだと思って」

「……わかりました」


「ありがとね。じゃ」


 バタン


「……君」

「なんですか?」


「『アットホームな職場』採用で」

「ですね」

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