低予算活劇
アナウンサー「続いて、5-C組の発表を始めます」
心配だなぁ。
せめてもう少し練習時間があれば。
でも、あの子たちならきっと大丈夫、無事にやってくれるだろう。
――1ヶ月前――
先生「えー、今度の学芸会ですが、まだ案が提出できていないのはこのクラスだけです」
5―C全員「えー!!」
先生「『えー!!』じゃありません。他のクラスはもう練習を始めてるというのに。僕は前回風邪で休んでましたが、役は決まったんでしたっけ?」
先生「何か気になることでも?」
針井「
大路「さすがに僕の苗字は変えられないよ……」
針井「そっちじゃねぇ!」
先生「とりあえず、前回決まった役と名前を黒板に書いてくれませんか? そこからまた考えましょう。学級委員長の
瓶子「わかりました」
瓶子はチョークを手に取り、黒板の右側に大きく縦書きで『シンデレラ』と書いた。
そして、役とその役を担当する人の名前を書いていった。
王子……………
シンデレラ……
魔法使い………
姉1……………
姉2……………
木………………
先生(木多すぎだろ! どんな山奥だ! でも、この学芸会に関しては子供たち主体でやらせてあげたいしなぁ……)
瓶子「では、まず王子が大路君ということに異議がある人は――」
針井「はい! はい! はーい! 王子は俺がやりたい!」
灰原「あんたなんか無理に決まってるでしょ! 第一、セリフ覚えられるの!?」
宇市「私も大路君でいいと思う」
針井「ぐ……」
瓶子「針井君は魔法使いでしたね。灰原さんをサポートするいい役だと思うんですが、王子でないといけませんか?」
針井「……仕方ねえなぁ」
先生(さすが瓶子君、言葉巧みに針井君をなだめるとは。人気の灰原さんに協力できる、と言われては首を縦に振るしかありませんからね)
馬場「だったら私もシンデレラやりたーい」
天音「私も〜」
瓶子「ん〜。じゃあ女子全員でシンデレラやります?」
先生(ダメに決まってるだろ! 平等社会が生み出した弊害! 親は満足するけど世間に叩かれる!)
古見「私は……シンデレラはやりたくないです」
先生(確かに、シンデレラになりたくない人だっているだろうな)
瓶子「じゃあ古見さん以外の女子はみんなシンデレラで」
先生(それだといじめになるだろ!)
針井「俺だって我慢したんだからお前らも我慢しろよ!」
馬場「はぁ!? 元はと言えばあんたが言い出したんでしょ!?」
瓶子「まぁまぁ。針井君も我慢してくれましたし、元々馬場さんと天音さんと姉崎さんの仲がよかったのでこのような役にしたのでは?」
馬場「……わかったわ」
先生(あれ? これ瓶子君が王子やった方がよくね?)
瓶子「じゃあ、役決めはこれで……」
先生「待って? 待って? この大量の木の役が気になるんだけど」
瓶子「でもこの方が楽ですし」
先生「一応全員参加で、個性のある劇にしなさいって校長先生に言われてんだから」
瓶子「そういえば小道具の係とかはありでしたっけ?」
先生「ありだけど、そんな時間ないし、材料の調達もどうするの?」
瓶子「じゃあ、この大量の木の役の人たちは切り倒して――」
先生「木の『役』だからね!?」
古見「あの……私が脚本書いてもいいでしょうか?」
瓶子「……先生、小道具がありなら、脚本もありになりますよね?」
先生「うん。入るけど」
瓶子「わかりました。脚本は古見さんで、僕が編集をします。他の木の役の人は上手く工夫して別の役にしますから、皆さん協力お願いします」
すると、ここでチャイムが鳴った。
後は古味さんと瓶子君に任せるしかない。
――初めての練習の日――
練習は体育館で行われた。
瓶子「古味さんと僕で台本作ってきたんで、一旦通しでお願いします」
クラス全員と先生に台本が配られ、それぞれが位置についた。
瓶子「それでは始めてください」
成田「シンデレラは、毎日継母や姉にいじめられていました」
先生(確か成田君は放送委員会。個性を活かしたいい配役ですね)
成田「継母は、机の上に指を置き、指についたホコリを見てこう言いました」
馬場「あら、シンデレラ。ここのホコリが取れてないじゃない」
灰原「申し訳ありません……」
先生(これじゃあ継母というより
馬場「私たちは今から舞踏会に行きますから、それまでにキレイにしておきなさいよ」
灰原「わ、私も行かせてくれませんか?」
天音「悪いわねシンデレラ、舞踏会に参加できるのは三人までなの」
先生(どこかで聞いたセリフだな! 確かに金持ちが言ってそうだけども!)
姉崎「せいぜいお土産の高級メロンでも期待してなさいよ」
先生(それじゃあいいやつじゃねえか!)
成田「すると、シンデレラの元に魔法使いが現れました」
宇市「私は魔法使いです。あなたを舞踏会に連れていって差し上げましょう。まずはドレスが必要ですね。綺麗なドレスよ! アン、ドゥ、トロア!」
先生(あれ? そういえば服って用意できるの?)
宇市「まあ、お似合いですよ」
灰原「……何も変わってませんが」
宇市「それは馬鹿には見えないドレスです」
先生(それ違う話!)
灰原「どうやってお城に行きましょうか」
針井「私にお任せください」
先生(あれ? 魔法使い役は二人なの?)
針井「魔法使いにはそれぞれ得意な魔法がありまして、この子が使えるのは『アポート』。つまり、物体を引き寄せる能力です。そして、私が得意な魔法が『変身魔法』。ある物を別の物に変えることができるのです」
先生(出番少ないのに魔法使いの設定凝り過ぎだろ!)
針井「城に行くのにウマが必要ですね。ネズミよ、ウマになれ!」
馬淵「ヒヒーン!」
先生(ウマの役は馬淵君がするのか)
灰原「さあ、さっさと走りなさい。この醜いお馬さん」
パシィン!!
馬淵「ブ、ブヒィー!!」
灰原「それは豚でしょ? あなたは醜いお馬さん。四つん這いになってヒヒーンと言いなさい?」
パシィン!!
馬淵「ヒ、ヒヒーン!!」
先生「待て待て待て!! 瓶子君、ちょっと!?」
瓶子「なんですか?」
先生「これ君が編集したんだよね!? よくこれでいけると思ったな! 小学生に見せていい物と思えないんだけど!」
瓶子「かぼちゃの馬車を作る予算と時間がなかったので」
先生「いや、他に思うところあるだろ!」
瓶子「時間がないんです! 次のシーン行きますよ!」
こうして、シンデレラが靴を落とすシーンへ。
大路「これはガラスの靴! 大臣、このガラスの靴が似合う女性を探し出してくれ!」
小星「王子のご命令だ! ガラスの靴の持ち主を探せ! 探せぇー!」
神田「このガラスの靴、この町のどこにも売っていない代物ですね。もしかしたら他の町にいるかもしれないです」
舎録「いや、招待状を渡したのはこの町の住民のはず。そして、馬で移動できる距離と時間を割り出して計算すると、ここからそう遠くはないはず」
先生(小星君は大臣、神田君は鑑定士、舎録君は探偵ですか。物語に必要かと言われたら怪しいですが、木よりはいいでしょう)
そして、シンデレラの家に王子は向かった。
馬場「いい? 二人とも。靴のサイズを無理矢理でも合わせて玉の輿を狙うのよ」
天音・姉崎「わかったわ」
馬場「シンデレラの足のサイズになるように足をナイフで削りましょう」
先生「ダメダメダメ! 残酷すぎ!」
瓶子「え? でも原作はこうなってますよ?」
先生「刺激的過ぎるだろ! 小学生にR―18持ってくるな!」
その後、台本に先生からの修正が入ったのだった。
――当日――
魔法使いが馬を用意するシーンまでは順調に進んでいる。
しかし、事件は起こった。
馬淵「ヒヒーン」
灰原「……」
馬淵「ヒヒーン」
灰原「……」
先生(次は灰原さんのセリフ。まずい、緊張でセリフが飛んでしまっているね)
長い沈黙の後、灰原は何かを思い出したように叫んだ。
灰原「さあ! さっさと行きなさい! この醜いお馬さん!」
馬淵「……!! ブ、ブヒィー!」
先生(それは台本を直す前のやつだー!!)
後のシーンも
馬場「いい? 二人とも。靴のサイズを無理矢理でも合わせて玉の輿を狙うのよ」
天音・姉崎「わかったわ」
先生(だからそれは言わなくていいんだってば!!)
そして、最後のシーン
灰原「そう! この世は美しさこそすべて! 美しければ幸せになれるのです!」
先生(あれ!? こんな終わり方だったっけ!?)
こうして、学芸会は終わった。
校長「先生? ちょっとお話が……」
こっぴどく叱られる――と思ったのだが、軽い忠告だけで済んだ。
無理もない、意外にも全18クラス中2位という高成績を収めたのだから。
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