G戦場のアリア side G

※この物語では、ある意味グロテスクな表現が出てきます。

よく台所とかに出てくるあの黒い虫が嫌いな方はご注意ください。




「いただきます」


 一人の人間がポニーテールを揺らしながら食事への感謝を告げていた。

 誰に言っているのかわからないが律儀なものだ。

 食事をするのにいちいち感謝を告げるなんて。


 弱い者が食われる。この世界の掟だ。感謝など不要。

 弱い者は食われないように逃げたり隠れたりする必要がある。

 そう、今の俺のように。


 しかし、変な所に隠れてしまった。

 壁を散歩していたら急に明るくなるなんて。

 すぐ近くに隠れる場所があったからいいものの、見つかるのも時間の問題か。

 もし見つかれば――食われてしまう。


 ん? 奴の様子がおかしい。周りをキョロキョロして――まさか! こちらを見て――いや、こちらを見たまま動かない。

 しかもなぜか腑抜けた顔を浮かべている。大丈夫だ。

 こちらは物陰に隠れているんだ。見つかるわけがない。


 ……ふぅ。いなくなったか。

 こっちを見ながら去っていったのが気になるが。


 しかし、俺が隠れていたのは人間のポスターだったのか。

 どうやら主人はこのポスターを気に入っているらしい。

 この薄っぺらな紙を気に入るなんて変な生き物だな。

 そんなにうまいのか? 少し食べてみるか。


 ガジガジ……


 うん、なかなかうまいな。


 まずい! 足音が近づいてくる! 隠れないと!


 ドキドキ……


 外の様子は見えないが、俺の二本の髪が空気中の振動を伝ってくる。

 間違いない。隠れてることがバレてしまったんだ。


 だんだん近づいてくる。


 ドンッ!!


 ひぃっ! 地震だ! 逃げろ!

 床! とにかく床を目指すぞ!

 頼む! 来ないでくれ!


 カサカサカサ……




 はぁ……はぁ……だいぶ走ったなぁ。


 食べ物の匂いがする。

 ここは――キッチンか?


 う! 眩しい! いきなり明るくなった!


 シュー! シュー!


 ぐわっ! まずい! 毒ガスだ! 逃げないと!


 いい物陰がある! 急げ!


 カサカサカサ……


 よし、物陰に隠れたぞ。

 だが、油断はできない。入口付近は毒ガスが届く。さらに奥へ逃げないと。

 食べ物の匂いがする。こっちか。


 うわ! なんか茶色いやつが死んでる!

 なんかねばねばしてるし、これは罠だ! こっちじゃない!

 逆だ! 逆の方向へ逃げるんだ!


 ……ふう。ここまでくればついてこれまい。


「あなたおかえり」

 ああ、ただいま。まったく、危ない所だった。まさか急に明るくなるとは。


「どうだった?」

 ああ、あそこでは紙が大量に食えるようだ。ただ、主人に見つかる可能性が高い。


「そう。それより見て、私の卵」

 おお、もうそんな時期か。元気に育ってくれるといいな。


「ふん。情けない奴め。人間から尾角びかく(*1)巻いて逃げてきたってわけか! 96番!」

 仕方ないだろ59番。俺たちが奴らに叶うわけがない。


「よし! 先輩の俺があいつをぎゃふんと言わせてやるぜ!」

 やめろ!そんなことしたらお前!


「大丈夫だって! 俺たちの種族は3億年も繁栄し続けてきたんだぜ?」

 こうなったら聞かないな。好きにしろ。どうなっても知らないからな。


「任せろって! まずは空から飛んでビビらせてやる!」


 カサカサカサ……


 ……行ってしまったか。


「……あなた」

 大丈夫だ。奴の犠牲は無駄にしない。


 む。空気から振動を感じる。主人が動き出したようだ。


 プシュー! シュシュ―!


 ほら、言わんこっちゃない。

 人類に逆らうとこうなるのだ。


「……ろ」

 む。二本の髪から何かを伝えようとしてくれているな?


「……逃げろ。奴は危険だ……」

 うん、知ってる。


「…………」

 ……59番は力尽きたようだ。

 死ぬならもっと有益な情報をよこせ、まったく。


「59番は死んだか。しかし、人間とは恐ろしいものだな。」

 ああ、23番。お前も気をつけろよな。


「ぼくも紙たべてみたい!」

 394番。お前にはまだ早い。


「飯はまだか?」

 5番さん。もうすぐご飯ですから、あなたは休んでいてください。


 ……あれ? 100番はどこ行った?


「ああ、あいつなら紙を探しに出ていったぞ」

 大丈夫か? 見つからないといいが……。




*1 尾角

 尻尾のあのトゲの部分。キモい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る