「てぇへんだてぇへんだ! 聞いてくれよ五郎!」

「どしただ、八? 血相ば変えて?」


「さっき和尚さんからな? とんでもねぇ話ば聞いたさ!」

「どんなだ? 聞かせてみれ?」


「この村にはな、とんでもねぇ生き物ば住んどって!」

「生き物だ?」


「あぁ。それがな……猫っちゅうもんだ」

「猫? 聞いたことねぇな」


「和尚さんが言うにはな? 猫っちゅうもんは、まず『毛むくじゃら』だ!」

「うん? 生き物ってば、割合毛むくじゃらでねぇか?」


「それでな? 猫っちゅうもんは『するでぇ爪と牙がある』ってぇんだ!」

「ん? 他にも爪と牙があるやつはおるで?」


「ここからが怖えんだ! その猫は『色んな色になる』!」

「なに!? なら背景に溶け込んだば、どこにいるか分からねぇでねぇか!」


「な!? 怖えだろ!? そんだけじゃねぇ! 『人ば操って食べ物ば献上さす』んだ!」

「ひぇ〜! 操られたらおしまいでねぇか!」


「まだだ! 猫は『よく人のそばにいる』ってぇんだ!」

「もうおしめぇだ……。みんな猫っちゅうもんにやられんだ……。どこおるか分からん癖に、すぐそばにおって……引っ掛かれたらおしめぇだ!」


「あぁ、和尚さんが言うには間違いねぇ。気ぃ付けな」

「んだ」




「あら! これはみっちゃんでねぇか!」

「あら五郎の旦那! これはどうも」


「ん? その足元でなんか食べてるのは何だ?」

「これは猫っちゃ」


「ね! 猫!?」

「ん? どうかしたっちゃ?」


「八から聞いただ! 猫っちゅうもんはとんでもねぇ生き物だってぇ!」

「とんでもねぇ? 可愛いもんよ? ほれ、この猫ば笑っとるよ」


「こ、こっち向けんなってぇ! お、おめぇ操られてねぇか!?」

「操る? 何のことっちゃ?」


「え? じゃあさっき食べ物ばあげてたのは?」

「あぁ、この猫は鼠ば獲ってくるんよ。賢けぇだら? で、ご褒美に餌ばあげたっちゃ」


「色んな色ばおるんでねぇか!?」

「あぁ。この猫は白だけんども、うちの友達に茶飼ってるのもおるよ。あとは黒、灰、三毛、いーっぱいおるっちゃ!」


「?? どんな色ばなれるってのは?」

「笑わかさんと。猫の色なんて変わらんよ」


「八め! 嘘ついたな!」




「やい! 八! 猫は全然怖かなかったで! 嘘つきよって!」

「そうなんけ? 俺、見たことなかったけぇ分からんかったで。そんなことより、また和尚さんに聞いた話があんだ」


「また出鱈目でたらめ言うでねぇな?」

「いんやだ。火に水ば掛けよったら、消えんな?」


「まぁな」

「んだば、俺らに水掛けたら俺らが消えちまう!」

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