ファミリーレストラン

「いらっしゃいませー! お好きな席へお座りくださーい!」

 かわいい店員が先導する。

 こんな店に一人で来ると笑われるだろうが、今日は一人でやってきた。


 ここは「ファミリー」レストラン。

 ファミリー以外は来てはいけないのだ。


 一人で来たのは、既に連れが待っているからだ。

 店内がガラガラなせいか、僕の「家族ファミリー」はすぐに見つかった。


「よう! 来たな、兄ちゃん!」

「お待ちしておりましたよ! 坊ちゃん!」

 テーブルには筋骨隆々のグラサンと恰幅のいいおじさんが座っていた。

 彼らが僕の「家族ファミリー」だ。


 僕は席に着くと、すぐに確認した。

「例のものは持ってきただろうな?」

「例の『クスリ』でございましょう? まあ焦らないでくださいませ。」


 ここまででだいたい予想はついただろうか?

 ここは「ファミリー」レストラン、ファミリー以外は来てはいけない。

 僕?

 ああ、マフィアの「」に属してるから何ら問題ない。


「『クスリ』はあいつが持ってきてくれます。 少々お待ちください」

 恰幅のいいおじさんがニヤリと笑うと、手元にあるインターフォンを押した。

 すると、すぐに先ほどのかわいい店員がやってきた。


 なるほど、あの店員は売人の変装か。

 それなら気付かれずに『クスリ』の受け渡しが容易になる。考えたな。


「ご注文は!?」

「オムライスセット3つで!」

 普通に注文してんじゃないよ。

 しかもそれ、僕らの分も勝手に注文してんだろ。


「あとシーザーサラダもお願いします」

 追加注文してんじゃないよグラサン。見た目のわりに草食系かよ。


「少々お待ちください!」

 かわいい店員を見送ると、僕は二人をにらんだ。

 今ならこの視線で二人を殺せると思う。


「焦ってはいけませんぞ。もうじき来るはずです。」

 恰幅のいいおじさんは自信に満ち溢れた表情をしていた。

 もしかして、さっきの注文は合言葉だったのか……?

 映画でよく見る、特別な注文方法をすることで取引相手かどうかを判別するやつだ。

 仲間を疑った自分が恥ずかしかった。


「オムライスご注文のお客様ー!」

 テーブルの上に置かれたのは、トロトロに溶けた玉子を乗せた、ほっかほかのオムライスだった。


「……これは?」

「え? 先ほど頼んだオムライスですが? ちょうどお腹が減りましてな!」

 僕は右手の握りこぶしをわなわなと震わせた。


「兄ちゃん、これなかなかうまいっすよ!」

 黙れ。お前の顔面をケチャップまみれにしてやろうか。

 真っ赤な血のケチャップをな。


 ということは……例のものは……?

 ふと入り口の方を見ると、長髪メガネの青年がバタバタと慌てるように入店してきた。


「遅れてすみません! 例の『クスリ』持ってきました!」

「おう! 遅かったな!」

 お前かい。さっきの注文のくだりは何だったんだよ。

 というか静かにしろ。バレるだろうが。


「これは、最近開発された最新の『クスリ』です。まだ広く流通しておらず、高く売れるでしょう!」

 ともあれ、目的は達成した。

 今までのことはすべて水に流そう。


「ご苦労だった。これからもよろしく。」

 僕は安心すると、テーブルに置いてあったオムライスを一口食べた。


 長髪メガネの青年が呟いた。

「僕の分は……」

「ねぇよ。遅れた罰だ。」


 あとはシーザーサラダ……じゃなくて、ここを出るだけだ。

 ここで足がつかないように気をつけなければ今までの苦労が水の泡だ。

 油断してはいけない。帰るまでが取引だ。


「シーザーサラダのご注文のお客様ー!」

「おう、姉ちゃん。こっちだ!」


 筋骨隆々のグラサンが手を挙げた瞬間、店内に大きな銃声が鳴り響いた。


「まぁ、サラダになるのはあなただけどね。次は外さない。」

 ヤバい! あの店員は敵だったのか!


 かわいい店員は制服のポケットから無線機を取り出した。

「現場取り押さえましたよー! みなさん出てきてくださーい!」


 周りの客がこちらに集まってきた。

 どうやらここの客も敵のようだ。


「逃げるぞ!」

 僕たちは全力疾走で逃げた。


 ひどく体力を消耗したが、何とか巻いたようだ。


 筋骨隆々のグラサンが呟いた。

「まだシーザーサラダが……」

 言ってる場合か。


 長髪メガネの青年が呟いた。

「この年で無銭飲食で前科持ちなんていやですよぉ~」

 それ以前にお前は犯罪組織の一員だろうが。


 すると、恰幅のいいおじさんが何か閃いたようだ。

「この先に私の長年の知り合いがいます。そこにかくまってもらいましょう!」

「ナイスだ! おっさん!」


 僕たちはその知り合いの家へ向かうことにした。

 特に目立った特徴のない一軒家だった。

 ここならかえって丁度いい。目立つ家だと怪しまれるからな。


「知り合いがいるかどうか確認しましょう」

 恰幅のいいおじさんはインターフォンを押そうとしたが、その指を止めた。


「どうした!? 早くしないと追手が来るぞ!」

「ダメです、坊ちゃん!」

「どうしてだ!」

「インターフォンを押したらあの店員さんが来ます!」

「ファミレスじゃねえんだよ!」

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