#3 なるほどね。

次の日、俺ァ、バンドの練習が朝あったん


でそっちに向かったんだ。


何やらバンドのリーダーが新しいメンバー


を捕まえたとかで、その顔見せを兼ねて、


って事らしい。


パーク・ウィルソンと、


ジェミー・パーカー。


2人共、歳の頃ァ、大体20歳そこそこって


とこだろうかね。


女の方のファーストネーム、パーカーって


名前にピンと来た。


何の因果か、あのトニー・パーカーのお姉様だそうじゃないですか。


弟はアレだったけど、お姉様は至極マトモそう。


綺麗で、真面目そうでございますな。


今度、小ぃせえクラブでやる予定の、


ルイ・アームストロングの「この素晴らし


き世界」を吹きながらそんなことを思いつ


つ、時計は進んでった。


練習が終わって帰り際、ジェミーに頭を下


げられちまった。


「弟がご面倒おかけ致しました。」と。


アンタが謝る事ァねぇ。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


お日様がグラっと傾いた頃、クリスと合流


して


コーヒーショップで1杯引っ掛けてって、


あの子…えーっと…そうそう、リンダ・バ


ージントンの家へ向かった。


まぁ、見た目は普通の家。なんも問題は


なさそう。


だが、そのあとが問題だらけ。


うちのがチャイムを何遍鳴らしても出てき

ゃしねぇ。5回目ぐれぇでやっとでてきた


かと思ったら、


出てきたのァ、うちのよりもひでぇツラしたババァ。


目は窪んで生気は皆無。よく見りゃ注射の


痕が


腕にびっしり。


クリスにバトンタッチ。俺、パス。吐きそう。

「こちらバージントンさんのお宅で宜しいでしょうか?」


クリスは、リンダの母ちゃんの肩越しに


部屋の中を見ようとした


「リンダ?居ないわよ、あんなクソガ

キ。」


それでも親かね。と、むかっ腹たってる


と、


ババァを押しのけて、金髪にケバケバし


た…ウィッグ―っつうのかね?若もんの流


行りってのぁわかりませんな―お嬢さんが


出てきた。


「リンダはアタシ。おばさん達は?…


誰でもいいや、行こ?」


リンダは俺らが目をぱちくりさせてる間


に、怒鳴る母ちゃんをよそに玄関から飛


び出てった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


俺らの、いや俺の家で話を聞いた。


両親は自分が産まれる前に離婚した事。


今の父親と結婚してから母親はおクスリに


手を出すようになった事。


リンダは、全部話してスッキリしたみてぇ


で、その後はぐっすり夢の世界へ。


んで、どっちから言うでもなく、俺たちも


寝ることにしたんだ。


まぁ、俺ァ寝られなかったけどな。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


翌朝、クリスは早起きして朝飯を作ろうと


キッチンへ立った。


「何このキッチン!食器だっていつ洗った


の、これ!?」


だとよ。


しょうがねぇだろうが。飯なんて食う暇


ねぇし、作ったことねぇし·····


まぁこの前、作ってやった事があるっちゃ


あるが。


クリスの奴、キッチンをチャチャッと片付


けて、飯作りついでに掃除を始めてくれや


がった。他にもグチグチ、ネチネチ言ってやがったな。風呂場がどうの、玄関がどう


のって具合に、な。


そんな長ぇ小言がピタッと止まったんだ。

「チューリップ·····」


ぼそっと呟いたクリスの眼は、窓際に生け


てあった、枯れたチューリップに釘付けだった。


赤いチューリップ·····だったんだ。元々


は。


そういや、昔クリスに、初めて俺がプレゼ


ントした奴だったな、このチューリップ。


はーー·····おい、なんで泣いてんだよ。


「泣いてないわよ!」って、


お前そりゃねぇだろうよ。


かわいくねぇな、全くよぉ。


なんてな事をしてると、まぁ当然、リンダ


は目ェ覚ましてささっとテーブルに着いて


黙々と朝飯食ってた。


うるせぇババァでごめんなぁ。


そのリンダはと言やぁ、眼はずっとテレビ


の方に向けながら


「おはよ。おばさん、おじさん。」


てな具合。


そっから暫く、みんな黙ぁって食ってた


な。


「あ、」リンダがボソッと呟いた。


聞けば、息子が居なくなる前、


リンダに、こんな事を言ってたらしいん


だ。


「お父さんに会わせてくれるって言ってる人がいるんだ」だと。


…なるほどね。



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