第9話

 話が本筋から離れたが、そうではない。相手が理解できるやり取りは、必ずあるはずだ。それを探し、相手と接することは必要なのだ。

 職員は、相手の立場になって考えるべきなのだ。

 精神病院は、病気を治療する、改善をはかり、患者を社会に戻す義務を負っている。そうでなければ、何のために病院は存在するのか。二十年を越えて退院できない患者が存在する。問題ではないのか。

 真剣に考えなければならない。


 拓ちゃんは、生活改善が図られ、落ち着きが見られるようになった。自傷の行動障害もほとんど見られなくなった。こつこつと、彼に合わせた療育が実行された結果だ。職員が、言葉だけに頼らず、具体的な方策を同じ方向を向いて支援に努力をしてきた結果だ。 壊し屋拓ちゃんの異名は返上だ。それを、拓ちゃんらしくないと寂しがる職員もいるが、落ち着きを見せている彼が本来の拓ちゃんなのかもしれない。

 ご両親は、落ちつきを見せる彼を大変に喜んでくれた。

 ほぼ、拓ちゃんに対する行動障害支援は終わりを迎えた。これからは、彼にどんな能力があるかを、より良い生活のために見ていく必要があった。

 そんな大事なときに、大幅な職員異動があった。支援チームのほとんどが異動になった。

「二年はこのメンバーで支援に当たらせてください」

 支援部長に直談判した。しかし、受け入れられなかった。すでに決定事項、覆すことはできなかった。

「拓ちゃんが、これからどんなに変わっていくか、見たくはないですか?」

 変わる、これから益々。私は、この目で見たかった。訴えたが叶わなかった。

 

 

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