第10話
寮の職員が大幅に入れ替わっても、支援が仕事であることに変わりはなかった。
私は、拓ちゃんの様子を見ながら、和田一さん(多飮)、河合啓太さん(パニック)の軽減にあたった。
一さんの多飮は、自由時間に洗濯ばさみを挟む時間を作り、個数を徐々に増やして軽い作業として取り組ませたところ、大きな改善がみられ、その後、多飮は、影を潜めた。
百個が二百個、三百個と増えても作業への集中度は衰えず、すべて挟み終えてから水を飲みに行っていたが、そのうちに終えてから飲みに行かなくなった
啓太さんのパニックの原因が分かり、それに取り組んだところ、彼も落ち着きを見せるようになった。
彼は、一日のスケジュールを理解できなかった。一つの項目が終えると、すぐに、次の項目に移れると思っていた。項目の間に時間が存在することを理解できないでいた。
彼の場合、朝食が終えると作業時間がすぐに来た。作業時間が決まっていて、それまでの間、体を休めて、作業準備をして、ようやく作業時間が来る。彼は、間を省いてしまうのだ。
彼に間を理解してもらうために一日のスケジュール表を作り、掲示するようにした。スケジュール表には時間を書き込んだ。彼が腕時計をしていて、時間を理解するためだ。
7時:朝食 9時:作業
このようにして、時間がわかるようにしてスケジュール表を作成、掲示したところ、啓太さんは、間を理解でき、パニックを起こさずに待てるようになった。
相手を知ることで、行動障害は軽減を図ることができるのだ。工夫をして、決して言葉だけで理解をさせようと考えないことだ。
一人一人、支援の仕方は違う。言葉社会には合わないが、言葉の理解が難しい場合、他のやり取りを考える必要がある。
私は、拓ちゃんの自傷支援を通して、決して忘れてはならない貴重な体験を積んだ。
自閉症だけでなく、広く活用が可能な療育支援に思える。
何より共に取り組んだ職員に感謝したい気持ちで一杯だ。協力がなければできないことだった。
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