4#迷い犬の飼い主のありか

 「あの犬、電柱の迷い犬の張り紙でよく見る犬の写真に激似じゃね?」


 男は、尻尾に大きな赤い風船を結んだ茶色い雑種犬を見つけた。


 「おいわんこ、来いよ。」


 男は、中腰になって手を雑種犬に差し伸べて呼んだ。


 その時、微風がそよいだ。


 尻尾の風船が、呼んでいる男に向かってそよいだ。


 

 よろっ。



 雑種犬・・・迷い犬は、風船がたなびく向きに一歩一歩歩き出した。


 「おい、わんこ。何処へ行くんだ?」


 その迷い犬の歩いていく方に、迷い犬の背中にしがみついていたハクビシンのハークは戸惑った。


 ・・・人間・・・

 ・・・あの人間に向かって歩いていく・・・?


 ハクビシンのハークは、その人間の顔を見てギョッとした。


 「こいつ、見覚えがあるぞ。

 俺が人間だった頃の学生時代にいじめた奴の顔に似ている。」


 「ハクビシンさん。何か言った?「人間だった頃」とか。」


 ・・・やば、聞かれた・・・!!


 ハクビシンのハークは、気まずくなって迷い犬の背から飛び降りた。


 「聞かれちゃったな・・・俺も君と同じ転生者であの・・・学生時代に俺はこいつに・・・あれ?」


 ハクビシンのハークは唖然とした。

 ハークが学生時代にいじめた男に抱かれて、迷い犬が尻尾に付いた風船を揺らしてブンブンと尻尾を振っているのを。


 ハクビシンのハークは嫉妬した。


 ・・・この犬、あいつの犬だったのか・・・?


 「あれ?この犬。尻尾に風船結んである。

 ははーん・・・誰かに悪戯されたね。可哀想に。」


 男は、迷い犬の尻尾から風船を外そうとした。


 ・・・やば・・・何て事を・・・


 ・・・せっかく俺がこの犬の為に取ってきた風船を外して飛ばすのか・・・?


 ・・・あいつがいじめた奴でもかまうか・・・!!


 ハクビシンのハークはふーっ!!と男に向かって威嚇した。


 「う~~~~~・・・」


 「あーごめんごめん!!わんちゃん!!風船取っちゃ駄目なのね。」


 ・・・あー良かった・・・もし取ったらあの男に襲いかかって爪で引っ掻こうとしてた・・・

 ・・・もしやってたら、いじめの復讐にもなったのにな・・・


 ・・・それより俺は、今までいじめてた奴の犬に付き添ってたのかよ・・・?


 ハクビシンのハークは、複雑な気持ちがごちゃごちゃになってもう訳が解らなくなり、思わず男に威嚇のホーズをとった。

 


 「ふーーーっ!!」


 「ハクビシン?ここにもハクビシンが居るんけ。知らんかったなー。」


 拍子抜けした。


 学生時代はあんなに陰湿ないじめをしていた位に尖ってた奴が、今では性格が丸くなって穏やかになっていた事だ。


 ハクビシンのハークは、その男を威嚇するのな虚しく感じてすごすごと塀の陰に隠れた。


 「あれ?あいつ、いきなりスマホ取り出したぞ?」


 男は、尻尾に風船を付けた迷い犬を抱きながら電話をした。


 「すいませーん。迷い犬の張り紙をみたんですけど。

 この犬に似ている犬が見つけて預かってるんですけど?」

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