似た者同士なんじゃないかな
私が彼の家に来て、4日目の夜の事だった。
ここまであまり触れてこなかったし、彼も又、触れないでいてくれたから聞き手の"あなた"は存在を忘れてたかもしれないけど…この頃のわたしの首には、寄生植物がいる事、思い出してね。今は私の首には、包帯しか巻かれてないけどさ。
『これ』と初めてあったのは5歳の時。その頃はまだ、離婚したといっても父と母の関係はそんなに悪くなくて、父はよくバーにきて、私を遊びに連れ出してくれたの。たしかその日は、遊園地に行った。父の顔や、どんな乗り物に乗ったかは…昔過ぎて覚えてない。でも、すごく楽しかった事だけは覚えてる。
その帰り道の事だった。
首がすっごく傷んで、父におんぶして家に帰ったら、首の表皮に植物の根みたいなのが張ってたの。
ハナナブ。
父が調べたら、そういう名前の寄生植物だったみたい。
主に水辺に生えてて、水を飲みにきた動物なんかに寄生するんだって。それが何処でかしらないけど、私にくっついてきた。まぁ、主に水辺というだけで、道端に生えてる事もあるらしいからね。
それからが凄かったな。そういうのに寄生されたら普通は専門の病院で手術して取り除くんだけど、高いお金がかかるらしくて。当然払える貯金なんかなくて。母が父になんてことしてくれた、って激怒して、父は連絡を絶ち、会いに来てくれる事は無くなった。
………ああ、こうしてよく考えたら、私が居たせいで、父と母を絶縁させてしまったようなものだね。
…話が逸れちゃったね。
私が彼の家に来て、4日目の夜の事。私は久々に首に抉れるような強い痛みが走って収まらなくて、眠る事ができなかった。
そこで、とうせ眠れないなら少し家を探検しようと思った。
広いという以外この家の事を余りしらなかったから、宛もなく暗闇の中を歩いた。電気の場所も分からなくて、ずっと同じ様に暗いから、真夜中の森でひとりさ迷ってるみたいだった。
少しして、眼前に光が指してきた。
縁側だった。
縁側に男が腰掛け、自身の片足を触っていた。
男は私に気付いて、口を開いた。
「足、が痛くて眠れないから、星を見て、たんだ。」
「…星なんか出てる?」
私も隣に腰掛ける。
「出て、るよ。ほらあそこ。」
男の指差す方に視線を向けるが、私は空には雲と雲の向こうのうっすらした月の光しか見えなかった。
「目をよ、く凝らしたら、見えるよ。」
「そうかな、じゃあ私はきっと亮太さんより目が悪いのよ。」
「…君は、その首、傷まないの?」
男は触れていいものか迷っているようだった。
「凄く痛い。でもこれはお母さんがいつか治るっていってた。気休めだろうけど。」
「治る、ものなの?」
「多分自然には治らない。これ凄くいったいんだよ。
脳から血が出るかと思うくらい痛いの。でももう慣れちゃったから、酷くないとき以外は痛みを感じない。私だけずっとこんな痛み味あわなきゃいけないなんて、理不尽だよね。まさにこの根は、私の不幸の象徴だよ。」
「そ、れは確、かに理不尽だね。」
男が相槌をうってくれたので、私は調子に乗ってたくさん喋った。
「…だから私、これが取れる時は、きっと私が幸せになった時に弾みでぽろっ!て取れるんだと思ってるの。その時はとれたこれに向かって『せっかく寄生したのにごめんね。』って言ってあげようと思う。」
「そ、れは、なんだ、か素敵な感じがする、な。僕も足、の痛みがとれたらそう言おう。」
男は私には見えない星を見ながら、そう呟いた。少し口角が上がって、嬉しそうだった。
事故にあい、仕事ができずこの家で孤独と二人きりだった故に、罪悪感を確かに感じながらも、私の我儘を拒否できない可哀想な彼の、不幸の象徴もまた、彼の片足の様に感じた。
私も自然と口が笑っていた。
「…私達、似たもの同士なんじゃないかな。」
私がそう言うと、男は困ったように笑い返してきた。
「そん、な訳ないよ。君はまだ若いし、こんなのじゃ、…ないはずだよ。
…痛み止めが戸、棚、にあるけど、使う?」
「…………いる。」
その日は痛み止めが効いて、すんやりと深く眠ることができた。
夢を見た。
私は夜空に浮かぶ月だった。
この暗い夜空では私が1番光っているはずだと、自信満々に空を漂っていた。
遠くにこの古びた家が見えた。
縁側に誰かが座っていて、星に向って微笑んでいる。雲も晴れて、私が一番光っているはずなのに、それはその淡い光の星の方ばかりを見ていて、なんて失礼な奴なんだと思い、私はその星を蹴落として空から落とす。すると男は悲しそうな顔をして、迷ったあと家の中に引っ込んでしまった。
そういう夢だった。
もしかしたらこの夢は、予知夢に近いものだったのかもしれない。
だってまるで、
私がこの家を出る理由になった"あの出来事"を指してる様な夢だったもの。
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